秘密の彼氏
マスコミに追いかけられて以来、蒼馬の気づかいで、下校は、蒼馬のマネージャーが迎えにきてくれることになった優愛だったがー!?
「優愛ちゃん。その後、マスコミはどう?」
数日後。蒼士君のレコーディングを見学に行こうと、蒼馬君からメールがきたので、学校が終わってから、篠崎さんに連れられて、あたしは今、蒼馬君とスタジオに来ていた。
「諦めたのか、学校で待ち伏せしなくなったし、もう篠崎さんのお迎えはいらないみたい」
最近は、マスコミやカメラマンが学校をうろついていることはなくなって、すっかり平和を取り戻そうとしている。
「本当、うちのマネージャーは偉いよなぁー。俺が知らないうちに、優愛ちゃんを送り迎えしていたなんて」
蒼馬君は、感心しながら頷いた。
「……」
知らないうちにってー。
「蒼馬君が、篠崎さんに迎え頼んだんじゃないの?」
「俺が?そりゃあ、優愛ちゃんのことは気にはしていたけどー、マネージャーも忙しい人だし、頼むなんてなかなかできないよ」
どうなってるの?蒼士君が言っていたことは、違うってこと?
あたしは、ガラスの向こうにいる蒼士君を見つめた。
「はい。準備オッケーです!」
スタッフが、マイクを通して、蒼士君に合図を送った。
蒼士君は、ヘッドホンに手をやると、歌い始めた。
ー夏の終わり君はぁー 僕のそばから……。
蒼士君のハスキーな声が切ない感じの歌なって流れてきた。
やっぱりいいなぁー。蒼士君の歌声。
あたしは、うっとりと聴き入ってしまった。
「オッケーでーす!」
オッケーの合図がでると、蒼士君がドアを開けて出てきた。
「西本……。どうしているんだ?」
蒼士君は、ちょっと怖い顔で、あたしを見る。
突然、蒼馬君にメールをもらったから、見学に行くことを、蒼士君に言いそびれてしまったったけど、やっぱり、急に来るのはまずかったかな……。
「蒼士、俺が誘ったんだ。もう、噂も落ち着いてきたし、そろそろ大丈夫かなと思って」
蒼馬君が、あたしをかばう。「でもなー。油断は禁物だしな……」
蒼士君、あたしのこと心配してくれてたんだー。
何だか、キュンとしてしまう。
「とにかく、篠崎さんに送ってもらって帰れよ」
いきなり、蒼士君があたしの腕を掴むと、スタジオから出た。
心配してくれるのは有り難いけど、追い出すことないじゃない!
せっかく、蒼士君の優しさにキュンとしたのにー!
「ちょっと、離して!」
出口近くまで来ると、蒼士君の手を振りほどいた。
「……ごめん。無理に追い出すようなことして……」
蒼士君は、自分のしたことに気づいたのか、気まずい顔をさせた。
急に、あたしのこと守のやめたり、こうやって、追い出すようなことしたり、蒼士君は、どういうつもりなんだろう……。
「急に来たりして、ごめんね……。やっぱり、迷惑だったよね……」
あたしの口から、ポロッと言葉が漏れる。
「……違う。迷惑とかじゃないから」
蒼士君が、左右に首を振った。
「西本に歌っているところを聴かれるのが、恥ずかしいっていうか……。それにー」
蒼士君が、言いかけた時だった。
「優愛ちゃーん!蒼士ー!」
蒼馬くんが、急いであたし達の所に走ってきた。
「こんな所にいたのか。マネージャーが、優愛ちゃんのこと送ってくれるって言うから、玄関口で待っててくれないか?」
蒼馬君は、蒼士君に背中を向けたまま、あたしの腕を掴むと、ツカツカと玄関口の方へ歩き出した。
「蒼馬君。ごめんねー。せっかく誘ってくれたのに……」
「俺も、何処で誰が見てかもわからないのに、誘ったりしてごめん。また、スクープになったら、優愛ちゃんに迷惑もかかるのにー」
蒼馬君は、シュンとした顔をさせた。
「蒼馬君……」
「でも、さっきは蒼士に妬いちゃったなぁー。優愛ちゃんをいきなり、連れて行ったりして」
蒼馬君は、少しムスッとした顔で言った。
「実際に、歌を聴かれるの恥ずかしかったみたい……」
「CD出すのに、恥ずかしいってー。」
蒼馬君は、苦笑いをする。
あたしと蒼馬君が話していると、神崎さんが迎えに来た。
「お待たせ。優愛ちゃん」
「神崎さんは、明るく声をかけた。
「マネージャー、俺も一緒に送ってもいい?」
蒼馬君が、帰りたそうな顔で、神崎さんに聞いた。
「ちょっと、待って」
神崎さんは手帳をひろげて確かめた。
「この後、この近くでCDの宣伝用ポスターの撮影が入っているなー」
神崎さんが、ボソッと呟いた。
これから、撮影なんだー。
「神崎さん。これから、撮影があるなら、あたしのことは送ってもらわなくても……」
あたしは、遠慮がちに言った。
「撮影は、公園の中にある池付近でやるし、一般人も公開するから、優愛ちゃんも交じって見学したらどうかな?」
「えっ、でも……」
さっき、蒼士君が言っていたことを思い出す。
「蒼士が言ってたこと気にしてるのか?」
蒼馬君が、あたしの顔を覗き込んだ。
「……」
「気にすることないって。まんがいち、誰かに見られてスクープされたとしても、俺が守るから」
蒼馬君は、真剣な顔でポンっと胸を叩いてみせた。
「ありがとう……」
そんなこと言われて、嬉しくない訳がない。
結局は、蒼馬君のポスター撮影を見学すことになった。
場所が公園ということもあって、結構、人が集まっていた。
「蒼士くーん!」
一斉に、女子からの声援が聞こえてきた。
蒼馬君は、軽く手を上げると受け答えをする。
「蒼士君。池の方を向いて、気持ちよさそうにしているところを撮るので、お願いしまーす!」
カメラマンが、カメラ越しに蒼馬君に向かって合図を送った。
さすがはプロ。言われた通り、こなしていく。
何だか、蒼馬君が、池を眺めているだけで絵になる。
あたしは、ギャラリーの隅っこで、蒼馬君を見つめた。
「優愛ちゃん。どう?仕事している蒼馬はー」
神崎さんが、あたしの横に立った。
「仕事になると、人懐っこさが消えて、真剣な顔になるからカッコいいですー」
「あははー!確かにそうかもね」
神崎さんは、可笑しそうに笑った。
「あたしのこと守ってくれるって言ってくれた時も、カッコよかったですけどー」
「優愛ちゃんは、お姫様だね。2人もナイトがいて」
神崎さんは、ニコニコしながら言う。
「やだなぁー。ナイトが2人もいるわけないじゃないですかー」
「もう独りは、蒼士君だよ。蒼馬にも優愛ちゃんにも秘密にしてもらうように言われていたけど、優愛ちゃんが心配だからって、僕に下校の時に迎えを頼んだのは蒼士なんだ」
「えっ……」
あたし、そんなこと知らないよぉ……。
あたしの胸が、キュッと締め付けられる。
「僕が言ったことは、2人には内緒ね」
神崎さんは、右手の人差し指を自分の唇にあてた。
「……」
どうして?いつも蒼士君は本当のこと言ってくれないの? あたしが、蒼馬君の彼女だから?
あたしの頭の中は、?でいっぱいになった。




