秘密の彼氏
マスコミに追いかけられて、怖い思いをした優愛。その後は、蒼馬が心配して、マネージャーを使って、学校が終わった優愛を迎えにくるようにー。
そんな日々の中、優愛の友達、美緒にハプニングが起きてー!?
ピピピ……。
その時、おじさんの携帯の着信音が鳴り響いた。
「はい」
おじさんは、電話に出ると、路地から出て行った。
あたしは、安心して急に力が抜けてしまった。
「今のうちに逃げるぞ!」
蒼士君が、辺りに目を光らせながら、路地から抜け出すと走り出した。
どのくらい走っただろう。
あたし達は、次第に早歩きに変わっていた。
人気のない公園までくると、完全に足が止まった。
「あ、あのー。助けてくれて、ありがとう……。」
あたしは、素直にお礼を言った。
「もう、あの裏道は使えないな……」
残念そうに、蒼士君が呟いた。
「でも、スクープされたのは、蒼馬君とあたしだし。蒼士君は関係ないのに、通れないなんて変だよ……」
「仕方ないさ。何しろ、蒼馬の音痴が治らなくて、急きょ、俺が歌うことになったものだから、俺達が双子だって知ってるのは、レッスンの先生とレコード会社と蒼馬のマネージャーだけだし」
ってことは、事務所も知らないってことか……。
「あっ、そうだ!今度、新曲を出すって蒼馬君から聞いたよ。美緒と2人で絶対、買おうねって話してたんだー」
新曲のこと、美緒に伝えたら、喜んでいたことを思い出す。
「結局は、蒼馬の曲になるから、複雑だけど」
蒼士君が苦笑いする。
「それも、そっかぁー」
あたしは、納得した顔で言った。
「そこ、納得しなくていいから」
「ごめんごめん……、あっ、そろそろ帰らないとー。さっきのおじさんが、いなかったらだけど」
あたしは、辺りをキョロキョロ見渡した。
でも、それらしき人物はいないみたいだ。
「良かったー。いないみたいだから、帰るね」
あたしが、公園から出ようとした時、蒼士君が、あたしの腕を掴んだ。
「……!?」
あたしは、びっくりして蒼士君の方を振り向いた。
「もう少し、いないかー」
蒼士君の言葉に、あたしの心臓の音が、また、うるさくなる。
「蒼馬、呼んだし、もうすぐ、迎えに来るから」
「……」
なーんだ。そういうことか……。
なんて、残念がっている場合じゃない。
「蒼馬君を呼んだって……。今は、まずいよー。誰が、見ているかわからないし」
あたしは、ハラハラしながら言った。
「大丈夫。こっちにも考えがあるから」
蒼士君は、平気な顔で言ったけど、何だか落ち着かない。
どれくらい経っただろうー。一台の黒い車が公園の前に止まった。
車の窓が開いて、後部座席から顔を出した男の子は、蒼馬君だった。
「早く乗って!」
蒼馬君は、あたし達に呼びかけた。
せかされて、あたしは、急いで車に乗り込む。
「優愛ちゃん。マスコミに追いかけられたんだって?大丈夫?」
蒼馬君が、心配そうに、あたしの手を握り締めた。
「う、うんー」
蒼士君のことが気になって、あたしは、気まずくなって自分の手を引っ込めてしまった。
蒼士君の方は、気にもとめない様子で、助手席に乗ると、
「すみません。篠崎さん」
運転席に座っている、男の人に謝った。
「彼女が噂のー」
篠崎さんは、バックミラー越しにチラッとあたしを見た。
「蒼馬君ー。ごめんね、迎えに来てもらっちゃって……」
あたしも、チラッと篠崎さんを見る。
「篠崎さんは、俺のマネージャーだし、味方でもあるから、気にしなくても大丈夫だよ。ね?マネージャー」
あたしが、篠崎さんを気にしているのに気づいたのか、蒼馬君は明るく言った。
「蒼士ー、じゃなかった。蒼馬の言うとおりだよ。僕は、2人のことについては、別に反対しないから、蒼馬の頼みなら、こうやって迎えにも来るしね」
ミラー越しに、篠崎さんが笑みを浮かべているのがわかる。
良かったー。良い人そうで。
あたしは、ホッと胸をなで下ろした。
美緒が、蒼士君にお弁当を作って、一週間。
美緒は、相変わらず、蒼士君にお弁当を受け取ってもらえない日が続いていた。
「神崎君にお弁当、渡してくるね」
蒼士君が教室にいないことに気づいた美緒は、お弁当を持って教室を出て行った。
「西本。蒼馬から伝言あるんだけどー。今日、神崎さんが迎えに行くから、校舎の裏で待っているようにって」
マスコミに追いかけられてから、旧校舎裏からは、帰らないようにした。正門のほうは、マスコミはいなくなったけど、時々、カメラマンが、スクープを撮ろうと、うろついていることがあるので、蒼馬君が篠崎さんに頼んで、迎えに来てくれていることを、蒼士君から聞いた。
「そうだ……。さっき、美緒に会わなかった?」
あたしは、ふと美緒のことが気になった。
「高野に?会ってないけど」
「今、美緒がお弁当持って行ったんだけど……」
「またかー」
蒼士君が、深い溜め息をつく。
「す、少しは、受け取ってあげたら……?」
いくら、蒼士君にお弁当を受け取ってほしくなくても、美緒の一生懸命さを見ていると、何だか、応援しないといけないような気がしてくる。
「西本は受け取ってほしいわけー?」
「え……」
どうして、そんなこと聞くんだろう……。
「ごめん。西本が決めることじゃないよなー」
蒼士君は、少し寂しそうな顔をさせた。
本当は、今日だって、美緒が作ったお弁当を受け取ってほしくない。
でも、こんなこと言ったら美緒が悲しむ。
その時だった。美緒が教室に入ってくるの見えた。
今日は、クラスのほとんどの女子が、学食に行ったり、購買に行ったりして、教室にはいない。
お弁当を渡すには、絶好のチャンスだ。
「あ、神崎君。教室に戻ってたんだ?」
美緒は、蒼士君の前にお弁当を持って差し出した。
「あの……。今日もお弁当作ってきたの。良かったら受け取って……」
蒼士君は、最初は困った様子だったけど、美緒からお弁当を受け取った。
「ありがとう。弁当、忘れてきたから、丁度、良かった」
「ありがとうー。良かった……。やっと、受け取ってもらえたぁー」
美緒は、嬉しそうに瞳を潤ませている。
あたしは、ショックでその場から立ち去った。
美緒の努力が実ったんだもの。喜んであげなきゃ……。
そう思っているのに、あたしの胸が、チクンと痛んだ。
「お待たせ。優愛ちゃん!」
放課後、蒼士君に言われた通り、校舎裏で待っていると、約束通り、篠崎さんが迎えにきた。
「篠崎さん。いつも、迎えに来てもらっちゃって、すみませんー」
車に乗り込むと、あたしは、シートベルトを締めながら、お礼を言う。
「仕方ないよ。時々、マスコミがうろついているんだし」
篠崎さんは、にこやかに言ってくれた。
篠崎さんは、意外と気さくで、迎えに来てくれているうにちに仲良くなった。
「今日、蒼馬も迎えに来たがっていたんだけど、撮影で来られなくてごめんねー。撮影見学にも連れて行けば、蒼馬に会わせてあげられるんだけど、まだ、噂が流れてるしね」
蒼馬君は、スポーツ飲料のCMに出演するのが決まって、ドラマの撮影の合間に撮影をしたりと、忙しいみたいだ。
でも、逢えない日々が続いても、不思議とそれほど辛いとは思わないのは、まだ、蒼士君が好きだからなのか……。
「優愛!今日も、蒼士君にお弁当、食べてもらえたよ」
翌日、昨日、お弁当を受けて取ってもらえたからって、今日も美緒は、お弁当を作ってきた。
「よ、よかったね……」
さっきから、美緒の様子が見えないと思ったら、教室から出て行く蒼士君を追いかけて、お弁当を渡しに行っていたらしい。
でも、今日は『受け取ってもらえた』じゃなくて、『食べてくれた』に変わっていた。
「蒼士君が、あたしの作ったお弁当、美味しいからまた、食べたいって言ってくれたの!」
美緒は、嬉しそうに言った。
「……」
今まで、お弁当を受け取らなかったのが嘘のように、展開が早い。
「明日も、張り切ってお弁当、作くらなきゃ」
恋している美緒は、何だかキラキラして見える。
「美緒!先輩が呼んでるよー」
その時、クラスの子が、美緒を呼んだ。
「え?誰だろうー」
美緒は、ふと廊下の方を見る。
あたしもチラッと廊下でまっている先輩を見た。
よく見ると、その顔に見覚えのある顔があった。
あの先輩、この前、あたしを倉庫に閉じ込めた人達の中の独りだ。
「美緒、気をつけたほうがいいよ……。あの先輩だよぉー、あたしを倉庫に閉じ込めたの」
もう一度、恐る恐る、廊下の方へ目をやった。
「そうなの?じゃあ、あたしが優愛の分まで敵討ってくるよ」 美緒は、さっさと廊下へ出て行った。
あの時は、あと2人いたから、3対1じゃ勝ち目が見えてる。
あたしは、いてもたってもいられず、廊下を飛び出した。
この前は、体育館倉庫に呼び出されたから、もしかしたら、また同じ場所かも知れない。
あたしは、急いで体育館倉庫の方へ向かった。
「蒼士君にお弁当、食べてもらえたからって、調子にのらないでよ!!」
倉庫の近くまで来ると、刺々しい声が聞こえてきた。
木の陰から、そっと覗いてみると、案の定、美緒が3人の先輩達に囲まれていた。
因縁つけられていると言うのに、美緒は平気な顔で、
「悔しかったら、お弁当を作って受け取ってもらえるように、努力してみたら?」
と、言い返した。
「何ですって!!」
カアッとなって独りの子が、手を振り上げた。
このままじゃ、美緒が打たれるー!
あたしは、助けようと足を一歩踏み出した時だった。
美緒の前に、颯爽と男の子が走ってきた。
バチーン!!
美緒の代わりに男の子のほっぺたにびんたが吹っ飛んだ。
男の子の顔を見て、ひっぱたいた本人は勿論、美緒も呆然と立ち尽くしていた。
それは、美緒の前に現れたのは、蒼士君だったからだった。
「きゃっー!ごめーん。蒼士君」
先輩達は、慌てて蒼士君のほっぺたに手をやろうとした。
「この前、この子の友達を倉庫に閉じ込めたのも、先輩達ですか!?」
蒼士君は、先輩の手を払いのけると、強い口調で言った。
「や、やだなぁー。そんなこと、してないわよ。ねぇ?」
先輩達同士で、あいづちをしているのがわかる。
「もし、また、いじめみたいなことしたら、俺が許しませんから!」
蒼士君に、ピシッと言われて先輩達は、そそくさと逃げて行った。
美緒は、その場にへなへなと、座り込んだ。
「大丈夫か?」
蒼士君が、美緒の手を引っ張って立たせた。
「ありがとうー。でも、神崎君が……」
美緒は、自分の手を蒼士君のほっぺたにあてた。
何だか、2人の間に入り込めない雰囲気があった。
また、あたしの胸がキュッと締め付けられる。
あたしは、その場にいられず、教室へ戻った。
「優愛!ごめん。敵とれなかったー」
美緒が、教室に戻ってきたのは、数分後だった。
「ううん、大丈夫。それより、美緒の方こそ大丈夫だった……?」
あたしは、わざと美緒に聞く。
「それがね、あたしが打たれそうになった時、蒼士君が助けてくれて……」
「そ……そうなんだー」
「うん。それで、また、いじめられるようなことがあるから、あたしのこと守ってくれるって言ってくれたの……」
美緒は、恥ずかしそうに俯いた。
美緒を守る?そんなはずないよ……。蒼士君、あたしのこと守って言ってくれたもの。
「ちょっと、トイレに行ってくる!」
あたしは、真実を聞こうと、蒼士君を捜しに教室を出た。
階段を下りて行こうと、一歩、足を踏み入れた時、丁度、蒼士君が上がってくるところだった。
「そ、蒼士君。美緒が先輩に叩かれるところを助けてくれたんだってね?ありがとうー」
あたしは、蒼士君の近くに行こうと、階段を下りて行く。
「あの、先輩達、西本を倉庫に閉じ込めた奴らみたいだったし、また、次の作戦でくるかもなー」
「美緒、言ってたよ。また、何かされるかも知れないから蒼士君が守ってくれるって言っていたって……」
あたしは、ピタッと足を止めた。
「高野から聞いたのか?」
「うん……」
また、あたしの胸がチクンと痛む。
「あの、先輩達。今は、西本のことは、眼中にないみたいだし、高野の方が狙われているみたいだったからー」
「だ……から、あたしのこと守のやめたの……?」
あたしは、やっとの思いで聞いてみた。
「高野の弁当を受け取ったのは、俺だし。高野に危害を加えた責任もあるから……」
そう言った蒼士君の顔は、何だか寂しそうだ。
「と、とにかく。先輩達の方は、今のうちに、何とか手を打たないと」
蒼士君が、慌てて階段を上がって行った。
何だか、蒼士君。まだ、何か隠しているような感じだった。
それがわかるのは、もう少し先のことー。




