秘密の彼氏
優愛が蒼馬と、付き合うことになったことで、美緒に祝福されるが、何だか複雑な気持ちの優愛。そんな優愛の気持ちを知らずに、美緒は、蒼士にアプローチする作戦にでるー!?
「優愛!蒼馬君と付き合うことになったんだね!おめでとう」
翌日、学校へ行くと教室に入るなり、美緒が嬉しそうにあたしに抱きついた。
「しっー!声が大きいってば」
あたしは、周りを気にしながら、唇に指を当てた。
「ごめんごめん。優愛の夢が叶ったんだなと思って、ついー」
美緒は、慌てて口を押さえた。
「でも、どうしてそのこと知ってるの?」
「朝、蒼馬君の記者会見やっていたからに決まっているじゃない!」
「……」
朝、寝過ごして、テレビを観る暇がなかったからなー。
「あたしも、頑張って蒼士君にアプローチしたいんだけど、どうすればいいと思う?」
美緒は、少し困った顔で、あたしに相談を持ちかける。
アプローチって言われても……。
「そ、蒼馬君に蒼士君の好きな物とか聞いてみるよ……。それからでも、いいんじゃないかな?」
「そっかー。そうだよね!ありがとう、優愛」
美緒は、嬉しそうに言う。
あたしは、美緒に対して、ぎこなく微笑んで見せた時だった。
「ねえねえ、西本さん。蒼士君と付き合っているの?」
クラスの子が何人か、あたし達の周りに集まってきた。
「え?いや、あの……」
あたしは、返事に困ってしまった。
一般人なら、付き合ってるよとか言えるけど、応え一つでは、学校中、大騒ぎになってしまう。
「ねえ、どうなの!?今朝の記者会見では、名前は言ってないけど、雑誌に載ってた女の子って、どう見ても、西本さんにしか見えないんだけど」
女子達がワアワア言っている時だった。
「うるさいんだけど」
ムスッとした顔で、蒼士君が間に入ってきた。
「蒼士君!記者会見で、言ってた付き合っている子って西本さんなの!?」
周りにいた女子が、蒼士君に詰め寄った。
記者会見したのは、弟の蒼馬君だもの。そんなこと聞かれても、蒼士君が困るだけだ。
「西本!行くぞ」
蒼士君は、あたしの腕を掴むと、輪の中から抜け出した。
「あー!待って蒼士君」
女子達の声が聞こえてきたけど、あたしと蒼士君は、振り向きもせず早足で廊下を歩いていた。
「はあ……。ここまで来れば大丈夫かー」
校舎の屋上まで来ると、蒼士君は溜め息混じりに言った。
「ちょっと、まずいんじゃないの?ますます、誤解されるよー」
あたしは、屋上のフェンスにもたれた。
「仕方がないだろ。こうするしかなかったんだから」
「でも、美緒。蒼士君のことが好きなんだよ。誤解されたら……」
あたしは、慌てて口を押さえた。
やばっ!無意識のうちに喋ってしまった。
「高野が俺を?……って言うより、蒼馬の方か」
「そのことなんだけど……。実はー」
美緒にバレたことを、打ち明けた。
「だから、もう。あたしのこと助けたりなんかしないでー」
あたしは、蒼士君から顔を背けた。
「何だよ、それ……。俺は、お前のこと守ろうとー」
壁ドンじゃないけど、いきなりガシャンとフェンスに手をやった。
蒼士君があたしの瞳を覗き込む。
あたしの心臓は、一気に、ドキドキと高鳴った。
蒼士君が、あたしの耳元で囁いた。
「蒼馬に、西本のこと守るように言われてるんだから、仕方がないだろ……」 蒼士君は、そう言うと教室へ戻って行った。
蒼士君が行ってしまった後、あたしは、へなへなと地面に座り込んでしまった。
びっくりしたぁー。今度こそ、キスされるかと思った……。
いけない。どうして、また、期待してるのよー!もう、蒼士君に関わらないようにしないと。
でも、蒼馬君に頼まれて、あたしのこと守ってくれてたなんて知らなかった……。
「優愛ー。本当は、蒼馬君じゃなくて、蒼士君と付き合っているの?」
教室へ戻ると、美緒が不安そうな顔をしていた。
「えっ、ち、違う違う。蒼馬君に頼まれて、あんなことしただけだから……」 あたしは、訳を話した。
「なーんだ。そうだったんだ?てっきり、蒼士君と付き合っているのかと思っちゃった……」
「まっさかぁー。あたしが、付き合ってるのは、蒼馬君だし」
あたしは、美緒を安心させるように言った。
「そうだよねー。蒼士君が、あまりにも必死に、優愛のこと連れ出したから、勘違いしちゃった」
「……」
そんなに、必死になってたんだ……。ついて行くのに精一杯で、気がつかなかった。
でも、どんなに助けてもらっても、蒼馬君に頼まれているからなんだよね……。
そう思ったら、胸の奥がギュッと締め付けられた。
「優愛ちゃん。ごめんね、彼氏なのにいつも一緒にいられなくて」
2、3日が経ったある日のこと。
夕食後、自分の部屋で宿題をしいると、蒼馬君から電話がかかってきた。
「ううん。仕方がないよー」
「多分、しばらく経てば、マスコミも諦めてくれると思うから……」
ここ毎日のように、下校時間に正門の所にマスコミが待ち構えていて、通れない状態なので、蒼士君に教えてもらった裏道を通っている。
「学校では、どう?意地悪する子とかいない?」
蒼馬君の心配そうな声が、電話から流れてきた。
「蒼馬君の代わりに蒼士君が、守ってくれているから、今のところは大丈夫」
あたしを知ってる子は、何人か確かめに来たけど、「人違いだよ」とか言って流してきた。
「へぇー。蒼士が、守ってくれているんだ?」
へぇーって、何だか蒼馬君は初めて知ったみたいに聞こえる。
「蒼士君が、あたしのこと守ってくれるように、蒼馬君が頼んだんじゃないの?」
「俺、そんなこと頼んでないけど」
「……!!」
あたしは、携帯をギュッと握り締めた。
じゃあ、蒼士君が自分の意志でやったってこと?それとも、蒼馬君の彼女だから?
あたしの心臓の鼓動が、速くなる。
「蒼士の奴、一言も言わないから、全然、知らなかったー」
蒼馬君が、ボソッと呟いた。
「でも、蒼馬君が頼んでいないってことは、蒼士君、蒼馬君を想って、代わりに守ってくれてるのかもね……。いいお兄ちゃんだねー」
つくづくそう思う。
「そうなんだよなー。レコーディングが決まった時も、何度レッスンしても音痴が治らなくて困っていたら、人前に出るのが苦手だった蒼士が、代わりに歌ってくれたし」
蒼馬君の納得した声が聴こえてくる。
蒼馬君、音痴だったんだぁー。だから、蒼士君が秘密とか言っていたんだ……。
「俺のこと想って、やってくれるのはいいんだけどー。どうせなら、俺が優愛ちゃんのこと守りたいな……。あっ、ごめん。マネージャーが来たみたいだから、切るよ。お休み」
「お休み」
電話を切った後、あたしは机の上にほっぺたをくっつけた。
蒼士君。いつも、どうして助けてくれるんだろうー。
電話を切った後、そんなことばかり、考えてしまう。
翌日、いつものように、学校へ。
昇降口で、靴を脱いで上履きを取ろうと、下駄箱に手を伸ばした時だった。
「優愛ちゃん。おはよー」
珍しく、蒼士君から声をかけられた。
「おはよー」
なにげに、挨拶を交わす。
あたしは、ハッと振り向いた。
いつもは、「西本」って、呼んでるのに、急に下の名前で呼ぶなんてー。
不審に思ったあたしは、蒼士君に近づこうとした時だった。
「蒼士君。おはよー!」
蒼士君ファーンの子達が、蒼士君をワッと囲んだ。
「おはよー!みんな、今日も可愛いねー」
いつもなら、言いそうもない言葉を、軽く言ってのけた。
やっぱり、今日の蒼士君は変だ。
「お、おはよー。優愛」
不審に思いながら、教室へ行こうとした時、美緒は焦った顔であたしの肩を叩いた。
「どうしたの?美緒」
「だって、今日の蒼士君。いつもより、喋ってるから……」
美緒は、戸惑っている様子だ。
「気にすることないんじゃない?クールに見えて、結構、喋るし」
「どうして、そんなこと知ってるの?」
「えっ、あっ!ほら。蒼馬君といた時、結構、喋っていたなぁーと、思って……」
あたしは、慌ててごまかす。
「そりゃあそうだよ。兄弟だもん」
「あははー。そうだよね」
あたしは、苦笑いをしてみせた。
「それより、蒼士君の好きな物とか、蒼馬君に聞いてくれた?」
美緒が期待した顔で、あたしを見る。
「ごめん。まだ……。でも、必ず聞いておくから」
「分かった。あたし、今日、日直だ!」
美緒は、急いで教室へ行ってしまった。
美緒が行った後、あたしも後から教室へと歩き出す。
階段を上って行こうとした時、急に腕を掴まれて、近くの視聴覚室へ連れて行かれた。
「ちょっと、何するの!?」
あたしは、キッと相手の顔を見上げた。
「ごめん。急にー」
目の前に、蒼士君が、すまなさそうに手を合わせていた。
「誰かに見られてたらどうするのよ」
「それなら、大丈夫。周りを確かめたから」
蒼士君が、二ッと笑った。
「でも、そろそろ教室へ行かないと……」
どうしたんだろう蒼士君ー。いつもは、こんなことしないのに。
そりゃあ、女子達に蒼士君のことを聞かれて、困っている時、連れ出して助けてくれたりもしたけど。
蒼士君が、いきなりあたしを抱き締めた。
……!!
どうしちゃったの蒼士君!?
あたしの心臓の鼓動が速くなる。
「少し、このままでもいいかな?せっかく付き合い出したのに、こんな時間がなかったから、こうしていたいんだ」
付き合い出したって言うことは、まさかー!?
「そ……蒼馬君?」 あたしは、声を低めにして呼んでみた。
「やっと、気づいてくれた」
あたしの呼びかけに、反応した。
何だ……。蒼馬君だったんだー。
あたしは、がっかりしたような複雑のような気持ちになる。
「でも、どうして蒼馬君がここにいるの?」
昨日の電話では、蒼士君の代わりにあたしを守りたいとか言っていたけど、まさか、蒼士君と入れ代わっていたなんて。
「蒼士は、午前中、新曲のレコーディングがあるから、そっちの方に行ってるんだ。だから、蒼士が来るまでは、優愛ちゃんと一緒にいられる」
蒼士君。新曲、出すのかぁー。でも、蒼馬君が歌っていることになるんだろうけど……。
「優愛ちゃんー。キスしてもいいかな?」
蒼馬君は、あたしから身体を離すと、あたしの顔を覗き込んだ。
蒼馬君は彼氏なんだもん。キスするのは、普通のことだよね……?
少し迷いがあったけど、小さく頷いた。
蒼馬君がそっと、あたしの顔に近づいてきた。
蒼士君以外の人にキスされるー。
あたしは、そう思った瞬間、無意識に顔を背けてしまった。
「優愛ちゃんー?」
蒼馬君は、びっくりしてそのまま、固まってしまった。
ど、どうしよう。変に思われたかなー?
「そ、そうだ!蒼馬君に聞きたいことがあったんだ……」
慌てて、話をずらした。
「ん?」
「蒼士君の好きな物とか、教えてほしいの。と、友達に頼まれてー」
こんな状況で聞くのも、変に思われるかな?
「そうなんだぁー。てっきり、優愛ちゃんが知りたいのかと思った」
「あははー。まさかぁー」
笑ってみせたけど、内心は知りたい気持ちもある。
「蒼士は、甘い物は苦手だからなぁー。でも、ブラックチョコとかなら食べられるみたいだけどね」
蒼士君。甘い物、苦手なんだー?
「それと、蒼士はエビフライが大好物だから、お弁当を作ってあげたら喜ぶかも」
「ありがとう。伝えておくね」
あたしは、にっこりと微笑んだ。
「優愛ちゃんの友達って、美緒ちゃんだっけ?蒼士と上手くいけばいいな。俺達みたいに」
蒼馬君が、もう一度、気を取り直して、キスしようとした瞬間、チャイムが鳴り響いた。
「なぁーんだ。残念ー」
蒼馬君は、がっかりした顔をしていたけど、あたしは、何故かホッとしている自分がいた。
「行こうか」
蒼馬君が、あたしの手を引いた。
その日の昼休み。さっそく、蒼士君の情報を美緒に伝えた。
「じゃあ、蒼士君にお弁当作ってこようかなぁー」
美緒は、目をキラキラさせながら、あたしに言う。
「それは、良い案だとは思うけど、蒼士君ファーンの子達には気をつけないとね……」
美緒まで、あたしみたいなことになりかねない。
「そうだよね……。でも、お弁当作って、蒼士君を振り向かせてみせるから」
美緒は、自分に気合いを入れた。
「……」
あたしだって、蒼士君のお弁当を作ってきてあげたい。でも、それは叶わないー。




