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秘密の彼氏  作者: 夢遥
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2/10

秘密の彼氏

蒼士が双子だと知った優愛。弟の人気俳優蒼馬のことが好きだったはずなのに、突然、兄の蒼士にキスされてからというものの、蒼士が気になり始めて……。

「優愛。神崎君に伝言、言えたの?」

 教室へ戻ると、美緒は、あたしが戻ってくるのが遅いのを心配して駆け寄ってきた。

「あっー」


 すっかり、忘れていた。


「どおりで、神崎君が教室へ戻ってくるのが早いと思ったら。優愛は、何処に行ってたのよ」

「蒼士君に言いには行ったんだけどー、びっくりすることが……」

 さっき、口止めされていたことも忘れて、喋りそうになった時だった。


「西本!俺に話、あるのか?」

 いつの間にか、蒼士君が、怖い顔で立っていた。

「えっ、あ……、先生が職員室に来るようにって」

 あたしは、慌てて話を変えた。

『秘密は、守れよ』

 蒼士君は、あたしの耳元で囁くと、さっさと教室から出て行った。


 耳元で、囁かれただけなのに、ドキッと心臓が高鳴っている自分に気づく。

 キスされただけで、何、ときめいているのよー!


「へー、珍しいね。神崎君から話かけてくるなんて」

 美緒は、意外そうな顔であたしを見た。

「たまたま、あたし達の話が聞こえたからだよー」

「でも、何か優愛に対する態度が違うんだよねー。何か、あったんじゃないの?」

「き、気のせいじゃないかな……。何もないし」

 あたしは、慌てて苦笑い。


「本当に何もないの?」

 もう一度、聞いてくる。

「うん」

 あたしは、少し間をおいてから頷いた。

「よかったー!」

 美緒は、ほっと胸をなで下ろした。


 美緒が想像していた蒼士君と違っていて、興味を示すようになったとは言っていたけど、少し様子が変だ。

「神崎君のこと見ているうち、段々、好きになっちゃった」


 あいつのことが好き!?


「美緒ー。あいつは、やめておいたほうがいいよ。美緒が思っているような奴じゃないよ」

 つい、わかっているような口振りで言ってしまった。

「優愛。どうして、反対するの?本当は、神崎君のこと好きなんじゃないの?」

「まさかー!どうしてあんなやつ」

 あたしは、慌てて否定した。

「じゃあ、あたしが神崎君に告っても、後悔しない?」

「えっ、告白するの?」

 あたしは、びっくりして美緒に目を向けた。

「神崎君は、芸能人だし、今すぐってなわけにはいかないけど、時期が来たらね」

「……」


 時期が来たら、告白するんだ……?

 急に、胸の辺りがモヤモヤしてきた。


 やだ、何だろう。この気持ち……。




「俺と、ずっといてくれないか!?」

 テレビから、蒼馬君の声が流れてきた。


 今日は、日曜日。ラブヒットの再放送の日。

ソファーに寝そべりながら、テレビを観ていた。


 蒼馬君のドラマは、何度見ても飽きないんだよねー。それにしても、双子だけあって、2人で並んだら見分けがつかない。おまけに、声だって似てるし。

 でも、どうして蒼馬君がじゃなくて、蒼士君が歌っているんだろう?


 その時、携帯の着信音が鳴り響いた。


「もしもし、優愛ー?」

 相手は、美緒だった。

「美緒。どうしたの?」

「ねえねえ、商店街に一緒に行かない?」

「いいけどー。何かあるの?」

「ぶらっとディナーに、蒼士君が出演するみたいで、これから、テレビの収録があるんだって」


 ぶらっとディナーは、各、お店などに行って食べ歩く番組だ。


「じゃあ、商店街のゲートの所で待ってるね!」


 実際、蒼馬君に会ったら、美緒はどう思うんだろう。



「美緒!ごめん。お待たせ」


 あたしが、到着する頃には、もう、撮影が始まっていた。


「優愛、早く!今、蒼士君は和菓子屋さんに入って行ったところだよ」

 美緒は、和菓子屋の方を指差した。


 和菓子屋の前には、テレビスタッフさんやカメラマンの人達。その人達を囲んで、ギャラリーの人達もいて、中を覗ける状態じゃなさそうだ。


「さすがに、そうは近づけないかー」

 美緒が、残念そうに言った。

「でも、店を移れば、ギャラリーの人達も、いくらか、少なくなるかもよ」

 あたしは、呑気そうに言う。

「そっかー、そうだよね」

 美緒は、納得した顔で頷いた。


 何分、経っただろう。

蒼馬君が、アナウンサーの人と和菓子屋から出てくるのが見えた。


「蒼士君は、和菓子が大好きだって聞いたんだけど、さっきの栗ようかんは、どうでしたか?」

 アナウンサーが、蒼馬君に感想を聞いた。

「いくらでも、食べられる感じで、美味しかったです!」

 蒼馬君は、愛嬌よく受け応える。



「やっぱり、テレビの影響って大きいねー。学校の蒼士君とは、別人のように見えるし」

 美緒が、ボソッと呟いた。


 本当は、双子の弟なんだよねー。でも、口止めされてるし言えない。



 それから、しばらく撮影が続いた。

蒼馬君が、何件かお店をまわると、休憩時間にはいった。


「休憩だって。蒼士君と、少し話できないかな?」

 美緒は、椅子に座って休んでいる蒼馬君の方へ近寄って行った。

「ま、待って!美緒。今、行っても話せないんじゃないかな……」

 蒼馬君に近づかせないように、慌てて美緒を引き止めた。

「どうして?」

「どうしてって、あ、ほら!」

 言葉がつまりかけた時だった。

「わかった!今、スタイリストさんに髪を整えてもらってるからでしょ?」

「え?」


 見ると、いつの間にか、スタイリストさんが、蒼馬君の髪をセットしている。


 あたしは、ほっと胸を撫で下ろした。


 でも、ほっとしたのもつかの間。髪のセットが終わると、蒼馬君が、こっちに気がついた。

「あれ?優愛ちゃん!」

 蒼馬君が、こっちに向かって歩いてきた。

「見に来てくれたんだ?」

 蒼馬君は、笑顔で話しかけてきた。

「ひ、暇だったから……」

 あたしは、ぎこちなく言う。

「そっちの彼女も、見に来てくれたの?嬉しいなー」

 美緒に気づいて、蒼馬君はニコッと笑いかけた。


 バ、バレるー!


「そろそろ、時間じゃないのかな!?」

 あたしは、慌てて蒼馬君に言った。

「おっと、いけない!優愛ちゃん、今度、デートしようね。じゃあ!」

 蒼馬君は、軽く手を上げると急いで戻っていった。


 蒼士君、蒼馬君には口止めしてないのかなー。でも、あの軽さじゃ、ポロリと喋っちゃうかも。



「優愛……。あれ、本当に蒼士君?」

 蒼馬君が行ってしまうと、美緒は、呆然としたまま口を開いた。

「えっ?」

「だって、チャラすぎるでしょ?学校では笑ったところも、あまり見たことなかったのに。クールな蒼士君は、何処へ行っちゃったのよー?」

 美緒が、パニクった状態であたしを見た。

「ほ、ほら。美緒だって、さっき言ってたじゃない。テレビの影響で別人みたいだってー」

「でも、今は撮影していないんだよ?それなのにー」

 美緒の頭の中が、混乱している。


 どうしたら、いいのよ。この状況!?


 大体、どうして双子ってことも、蒼士君が歌っていることも秘密にしておかないといけないわけ?


 そりゃあ、歌も演技もできれば、人気も上がるとは思うけど、バレたっていいじゃない。

 あたし、蒼士君の歌声だって、好きだし。実際に、CDだって売れている。

「あのね、美緒……」

 あたしは、思いきって、本当のことを話した。


「なーんだ。何か、変だと思った」

 美緒は、納得した顔で苦笑いをした。

「このことは、秘密にして!あたしが、美緒に話したこと蒼士君にも言わないで」

 あたしは、お祈りするみたいに、両手を合わせた。

「任せて!神崎君にも誰にも言わないから。その代わり、あたしの恋にも協力して!」


 いきなり、ファーストキッスだって奪うヤツなのにー!


 でも、美緒の顔を見たら、そんなことはとても言えそうもない。


「わ、わかった。協力するから」


 あたしは、仕方なく協力することに。


「よかったー!じゃあ、あたし帰るね」

「えっ、もう?」

「だって、神崎君じゃないなら、いても仕方ないもの」

 美緒は、溜め息混じりに言う。

「でも、蒼士君に直接、話しかけても相手にされないかもしれないし、まずは、蒼馬君に蒼士君の情報を聞いてみたらどうかな?」


 ついでに、あいつの弱点も聞いて、あたしにキスしたこと謝ってもらおう!


「じゃあ、優愛。お願い!あたしの代わりに聞いてくれないかな?」

「あたしが!?」

「だって、蒼馬君?苦手なんだもの。ね、お願い!」

 美緒は、必死に頼み込んだ。

「わ、わかったからー。何とか、聞き出してみる」

「ありがとう!じゃあ、あと、宜しく」

「えっ、宜しくって、蒼馬君と話せるかどうかわからないってば!」

 そう言っているのに、美緒はルンルン気分で、帰ってしまった。


「はあ……」

 あたしは、思わず、大きな溜め息が出てしまった。


 話せるかどうかもわからないけど、せっかくだから、撮影の見学して行きますか。


 あたしは、ギャラリーの方へ行くと、まぎれ込んだ。


 ちょうど、蒼馬君が、コロッケ屋さんから出てきたところみたいだ。


「衣がサクサクで、また、食べに行きたいです!」

 蒼馬君が、アナウンサーの質問に、笑顔で応えた時だった。

「はい!オッケーです。お疲れ様でしたー」 

 スタッフの独りが、合図を出した。


 撮影が終わると、パラパラとギャラリーが、散らばっり始める。


 蒼馬君の方は、事務所の社長みたいな人と、話しているのが見える。


 やっぱり、一般人のあたしから、話しかけるなんて無理だよね……。


 そう思っていたのに、蒼馬君は、話が終わると、あたしに気づいてこっちに歩いてきた。


「どうしたの?優愛ちゃん。撮影、終わったよ」

「あ、あの。蒼馬君に聞きたいことがあって……」

 周りを気にしながら、少し、声が低めに言う。

「いいよ。夜まで空いてるから。でも、いったん、家に帰るから、4時に学校で待っててくれないかな?」


 今日は、休みだし、学校に誰もいないはずだ。


「わかったー。じゃあ、校舎裏で待ってる」


 校舎裏なら、死角に入って見えないし、見つからないはず。

 でも、何か緊張しちゃうなー。人気俳優と、二人りきりで話すなんてー。




「ごめん。遅くなって」


 約束の時間に、校舎裏で待っていると、蒼馬君が息を切らしながら、慌てて走って来た。


「ごめんなさい。忙しいのに」

 あたしは、すまなさそうに謝る。

「優愛ちゃんの頼みなら、イヤとは言えないもんなー。で、話って何かな?」  蒼馬君は、息を整えるとあたしを見た。

「蒼士君のことで聞きたいことがあってー」

「蒼士のことで?」

「うん。蒼士君って、彼女とかいるのかな?」

 やっぱり、聞くとしたらこのことだよねー。

「あのさー。優愛ちゃん、蒼士のことが好きなの?」


 あたしの質問に応えず、突然、蒼馬君に聞かれて、思わずブンブン左右に手を振った。


「誰が、あんな奴!と、友達の美緒が蒼士君のこと好きみたいで、なかなか話せないから、蒼馬君に情報を聞いてきてって頼まれてー」


 自分で言ってて、何だか胸の辺りがモヤモヤする。


「なぁーんだ、よかった!てっきり、優愛ちゃんが、蒼士のことが好きなのかと思った」

「ま、まさかー」

 あたしは、苦笑いをして見せた。


「蒼士に、彼女はいないよ」


 それを聞いて、あたしは、ホッとしている自分に気づいた。

 何で、あたしがホッとしてるのよー。


「じゃあさ、俺からも聞くけど、優愛ちゃんは、彼氏いるのかな?」

「えっ、何でそんなこと……」


 急に、彼氏でもないのに、蒼士君にキスされたことを思い出す。


「彼氏いないなら、俺と付き合わない?」


 あたしは、自分の耳を疑った。


「あ、あたしと!?やだなー。からかわないで」

「俺、真剣なんだけどな……。」

 蒼馬君は、真剣な瞳で、あたしの顔を見つめた。

「で、でも。どうして、あたしなの?芸能人で綺麗な人が沢山いるのに……」

 あたしじゃなくても、蒼馬君と付き合いたいって言う女の子はいるはず。


「ここで、優愛ちゃんに始めて逢った時、一目惚れしたんだよねー」

「……」


 大好きだった蒼士君……、ううん。蒼馬君の彼女になれるなんて夢のようだ。


「考えといてくれないかな?」

 付き合えるものなら、付き合いたい。でも、相手は普通の人じゃないし、すぐには決められない。



「じゃあ、もし付き合う気になったら、連絡ちょうだい」 

 蒼馬君は、名刺を差し出した。


 見ると、名前の下に携番やアドレスが書いてある。


「そろそろ、時間だから行かないと。じゃあね、優愛ちゃん!」

 蒼馬君は、あたしの前に立つとおでこにキスをした。


 ……!!


 突然のことで、あたしはびっくりして、おでこに手やった。


 唇じゃなくても、人気俳優にキスされたなんて知られたら、ファーンの子に殺されそう!


 でも、兄弟揃ってキスするなんて、あたしどうすればいいんだろうー。





 2、3日経ったある日のことだった。


「おはよー。えま」

 学校で、知ってる子に挨拶する。


「お、おはよー」

 えまは、ぎこちなく挨拶を返すと、さっさと行ってしまった。


 あたしが挨拶しても、朝からこんな調子で、みんな逃げるように行ってしまう。


 そういえば、廊下を歩いているだけで、みんなの視線が感じる。


「おはよー、美緒。みんなどうしたのかな?いつもと違うんだよね……」

 教室へ入ると、自分の机の上に鞄を置いた。

「優愛。まだ、見てないの?」

 美緒は、雑誌を机の上に置いた。


 芸能スクープやファッションなんかが載っている、人気の雑誌だ。


「これが、どうしたの?」

 あたしは、キョトンとした顔で、雑誌をペラペラと捲った。

 2、3枚捲っていくと、どこかで見たことがある光景が載っていた。


 ーって、どこかじゃなくて、あたしと蒼馬君じゃないですか!?しかも、蒼馬君があたしのおでこにキスしているところの写真が、でかでかと載っている。


 あの時、撮られたんだ!

顔は、モザイクがかかっているけど、バレるのも時間の問題かも知れない。


「まさか、蒼士君とじゃないでしょうね?」

 美緒は、心配そうに言う。

「違う違う」

 あたしは、左右に首を振る。

「蒼馬君かぁー」

 美緒は、安心した顔をしている。


 でも、ヤバいよね、これは……。みんな、学校にいる蒼士君だと思ってるだろうしー。




「ちょっと、顔貸してくれない?」


 案の定、知らない3年生の子達に声をかけられたのは、お昼休みのことだった。


 体育倉庫まで呼び出され、あたしは、恐る恐る口を開いた。

「何ですか?こんな所へ連れてきてー」

「わかってるでしょ?どうして、呼び出されたのか」

 独りの子が、怖い顔で詰め寄った。

「さ、さあ……」

 あたしは、とぼけてみせる。

「蒼士君のことよ!雑誌、見なかったの?蒼士君があんたにキスしてるところ!」

「あれはー。あたしじゃありません!」

「はあ!?あたし知ってるいるんだから。この前も蒼士君とキスしてたの!」

 ……!!

 この前って、蒼士君が無理やりキスした時だ。 あの時も、見られていたなんて、ショックもいいとこだ。


「まさか、蒼士君の彼女なんて言わないでしょうね!?」

「違います!」

 あたしが、はっきり言うと、先輩達は、こそこそ内緒話をはじめた。


『こんな子が、蒼士君の彼女なわけないじゃん』

『そうだよねー。だから、蒼士君だって、何にも言わないんだよ』


 ーってことは、蒼士君にも聞いたってことか……。


「とにかく、蒼士君には近づかないで!」


 ドン!!


 先輩達に押されて、ドアが開いていた体育倉庫の中に倒れてしまった。


「ちょ、ちょっと。何するのよ!」

 あたしは、慌てて起き上がろうとした。


「ここで、おとなしくしてなさいよ!また、あんたが蒼士君の周りで、うろちょろされて、週刊誌に載られたら、蒼士君の価値も下がるし!」


 先輩達は、体育倉庫のドアを閉めると、カギをかけはじめた。


「ちょっと、やめて!ここから、出して」


 あたしは、ドアを開けようと、思いっきり引っ張ってみたけど、びくともしない。


「何で、あたしがこんな所に閉じこめられなきゃならないわけ!?それに、学校にいる蒼士君は、偽物だってばー!」

 あたしは、ドンドンとドアを叩いた。


 しーん……。


 信じられない!置き去りにするなんて。


 しかも、今は夏。


 天窓は開いているけど、高くて届かないし、これじゃ、完全に熱中症でダウンしてしまう。

「携帯も教室だし、参ったなー」


 どこかで、体育の授業があれば、ドアが開くかもしれけど、いつになるかわからない。


 あたしは、マットの上に座ると、誰か来るのを待った。


 でも、一時間経っても、全然、誰か来る気配はない。


 腕時計を見ると、もう、六時間目の授業が始まっている頃なのに、外で体育の授業があれば、話し声や、人の気配だってするのに、全然、そんな様子はないみたいだ。


 どうしよう……。このまま出られなかったら。


 制服のシャツには、汗がにじみはじめていて、もう限界のところまできていた。


 何だか、目の前がふらふらしてきた……。


 あたしは、マットの上に倒れてしまった。

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