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翌日。前日よりも少ない郵便物の配達を終えて家に帰ると、そこにはヴェントの姿があった。彼はユーの姿を見つけるなり、飛んでくる。
「お疲れ! ユー、遊びに行こう」
「え?」
ユーが返事をする前に手をつかみ、ヴェントは飛び始めた。ユーは帽子が飛ばないように手で押さえながら、ふとヴェントの頭に目をやる。
「ねぇ、昨日も気になったんだけどさ。なんでゴーグルをつけてるの?」
彼も帽子を被っているのに、なぜ飛ばないのかは、明確だった。ヴェントは帽子を押さえるようにつけているゴーグルへ手を伸ばし、ユーを見る。
「うーん、ボク流のおしゃれ! あ、でも今日は使うよ!」
と、ヴェントは、腰に下げているポーチの中から何かを出した。それは、彼がつけているゴーグルと同じものだ。
「ボクのお下がりだけど、つけておきなよ」
(……今から、何をするつもりなんだろう……)
ユーはわずかに警戒しながらも、ヴェントに渡されたゴーグルを頭に乗せた。しばらく飛んでいると、海原が遠くに見えてくる。
たどりついた場所の景色に、ユーは思わずため息をついた。呆れたようなものではない、感嘆のため息。
「ここ、ボクの遊び場なんだ。どう?」
そこは、切り立った崖の上だった。眼下では波の飛沫が岩肌にぶつかり、太陽の光に反射しながら散っていく。目の前に広がる、見渡す限りの青い海からは、光のイタズラか時折虹が生まれていた。
「すごい……でもヴェント、きみ……風の竜人だよね?」
ユーの言葉に隠れる意味に、ヴェントは苦々しく笑うと指で頬をかいた。
「アハハ……まだ、上手く風を使えなくって、さ。だから森でも、練習してたんだ。……ここも、遊び場兼、練習場って感じ」
言いながらヴェントはゴーグルをつけ、崖の縁に立った。ユーもそれを真似し、下を覗き込む。
「じゃあ、先に行くね」
と、ヴェントは翼を畳んだまま、崖から落ちた。ユーはしばらく、それを眺めていたが、我に返ると慌て追おうとする。
「ヴェント!」
彼はまだ、海に向かって落ちて行っていた。もう間もなく、海面に叩き付けられるだろう。
だがヴェントは、海面ギリギリで翼を開き、海と平行に飛び風を掴んだ。その勢いを利用するように飛び、崖の上に戻ってくると、ポカンとしているユーの頭をクシャクシャに撫でる。
「ほら、次、ユーの番」
「え! こ、怖いよ……」
首を振り、崖から離れた。そんなユーにヴェントは笑い、手を握ると再び崖の縁に連れてくる。
「じゃあ、ボクも一緒に行くよ。ボクが合図するから、そしたら翼を開いて」
ユーはしばらくヴェントを見つめていたが、小さく頷き、頭に乗せているゴーグルを嵌めた。それを見たヴェントは呼吸を整え、ユーの様子を見る。
「……じゃあ、せーの!」
二人は同時に、地面を蹴った。ユーは飛びそうになった帽子を手で押さえつけ、後ろに流れる風景を見る。
風が頬を切っているのだから、落ちているのは間違いないだろう。なのに、体には浮いているようにフワフワしており、首をかしげる。体に叩き付ける風は冷たく、身を切るようだ。それでも、この感覚が――
「広げて!」
ヴェントの声に、ユーは咄嗟に翼を大きく広げた。海面を飛び、ヴェントに手を引かれるまま、そこへとどまる。
「どうだった?」
ヴェントの声も聞こえていないほどに、ユーは放心していた。帽子を押さえていた手を、今度は胸元に運び、逸る(はやる)心臓を押さえる。
落ちているときに感じた浮遊感。海面を切るように飛んだ時の水飛沫、体を叩く冷たい風。どれも、今までに経験したことのないことだった。しばらく胸元を掴み、深呼吸を繰り返す。
ふと、ユーの顔に笑みが浮かんでいくのを、ヴェントは見た。
「楽しかった! もう一回!」
言ったかと思うと、ユーは即座に崖の上へ向かって飛んだ。ヴェントはそんな彼を見てホッと息を吐き出し、翼を動かす。
「ユー、待ってよー!」
自身も笑みをこぼし。ユーの後を追ったのだった。




