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ここは、背に龍の翼をもつ人々、竜人が生活をする『竜の国』。人々はその翼で自在に空を駆け、地上に降り立つ時には翼を折りたたんで自身の足で歩く。大した事件は殆どない、平和な国だった。
ユーは配達を終えたことを郵便局長に伝え、郵便局を後にしようとした。外に出るとドアの傍にはヴェントが立っており、興味深そうに辺りを見回している。
「ヴェント、きみ、帰らなくていいの?」
「んー、帰っても……ね。ユーはこれからどうするの?」
ユーが空を見るのにつられ、ヴェントも顔を上げた。日はすでに、西に傾いて建物の陰に隠れようとしている。
「……もう、帰る」
背を向けるよう、ユーは翼を広げ、飛び立った。それでもヴェントは好奇心に目を光らせ、ユーの後を追う。
不意に振り返ったユーの瞳に、ヴェントは鳥肌が立つのを感じた。剣のように冷たく斬れる瞳は、こちらを威嚇しているようにも見える。ユーはしばらくそんな目で自分をにらんでいたが、何も言わずに飛んで行ってしまった。
「ユー……?」
着いて来るなと、言うことだろうか。ヴェントは鳥肌の浮かぶ腕をさすりながらも、乾いた唇を舐める。
「……余計に、気になっちゃうじゃない」
なんとなく、彼を放っておけなくて。ヴェントはそのまま、ユーを追った。
ユーは、リ・セントーレの外れにある森の中の、小さな家に入っていった。ヴェントはその家の近くに降り立ち、わずかに空いているドアから、そっと中を覗く。
「……入ってくればいいのに」
息をひそめているつもりだったが、ユーにはすでに、気づかれていたようだ。ヴェントは苦笑いをしながらも肩をすくめ、堂々と中に入っていく。
「ユー、こんなところに住んでるんだ。空気のきれいなところだね」
ヴェントは肺一杯に空気を吸い込み、それを一気に吐き出した。ユーは一度目を伏せ、バッグから桃を出すとヴェントに放り投げる。咄嗟のことに慌てることもなく、ヴェントはそれを受け取った。
「……今日はありがとう。正直に言うと、すごく助かったんだ。夜までかかると思ってたから」
「ううん、ボクの方も、お仕事の邪魔をしちゃったからさ」
と、ヴェントは桃をかじった。果汁が滴らないよう気を付けながらも、ユーを見る。
「それにしても、仕事、大変そうだね。ご両親は?」
一瞬にして、彼の表情が曇った。ヴェントは不味いことを訊いたと思いながらも、ユーが口を開くのを待つ。
「……両親には、頼れないから」
重々しく開かれた口からは、予測していた言葉と同じようなものが出た。向こうを向いているが、ユーの手が震えているのははっきりとわかり、ヴェントは彼に近寄ると背中から優しく抱きしめた。それに驚いたのだろう、ユーは眼を見開きながら、振り返る。
「知り合ったばかりのボクが言うのも、なんだけどさ。辛いんなら、泣いた方がいいよ……我慢するのはよくないと思う」
と、ヴェントは拳二つ分ほど背の低いユーの頭を、自身の胸に押し付けた。
「ほら、これなら見えないでしょ?」
頭をなでるヴェントの手が、どこか暖かかった。視界が歪んでいくのがわかり、ユーは慌てて顔を胸元に押し付ける。背が震え、奥歯をきつくかみしめた。
ヴェントはそんな彼が落ち着くまで、ゆっくりと頭をなでていたのだった。




