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水の集落。この国で水を守りし、水を扱う竜人の集落。それは海辺に住居を置く者たち。海と共に生きている彼らは、もし海が汚れたとしても、それを取り払う力を持っている。
「いつもありがとうね、ユー」
配達を終え、集落を出ようとすると、わずかに腰の曲がった女性から声をかけられた。
「あ、エーウさん」
集落の長、ラマーの奥さんだった。彼女は優しく微笑み、ユーの手に、そしてバッグの中に何かを入れる。それは桃だった。
「これ、お裾分け」
「ありがとうございます」
ユーは微笑み、渡された分もバッグにしまうと、そのまま飛んだ。
最後に来たのは、雷の集落。遥か山の頂にすむ、その身に雷を宿す者たち。その力は強く巨大で、大地が焦がれるほどの威力を持つ。
そこでもユーは、配達する先々で声をかけられていた。その度に微笑みながら頭を下げている彼に、ヴェントは頭の後ろで手を組むと近寄る。
「知り合いが多いんだね」
「……知り合いが多い、と言うよりも、配達しているうちに覚えたってところかな。というか、風の集落できみを見かけたことがないことに、ボクは驚いてるんだけど」
「ボクは大体、朝から夜まで集落の外にいるから」
「ふぅん……。それで、どこまでついて来るの?」
気づけば、ユーのバッグの中身は桃二つだけになっていた。ヴェントはそれを見てふと微笑み、頬を指の腹でかく。
「うーん、どうしよう……。ユーはもう帰るの? どこに?」
「……リ・セントーレ」
リ・セントーレ。この国の中心部にある、いわゆる首都だった。それぞれの集落の人々が自由に出入りをし、また、最も発展している都市。
「へぇ! リ・セントーレの人だったんだ」
どこか、目がキラリと光ったヴェントに、ユーはため息をつくと帰路に着こうとした。その場を去ろうとしたユーの後について、ヴェントは翼を広げる。
「ボク、まだリ・セントーレには行ったことないんだ! 着いて行ってもいいかな?」
「……お好きにどうぞ」
ユーは、どこか冷めた口調で言った。それでもヴェントはユーの隣に並び、チラともこっちを見ないユーへ視線を向ける。
「ユーの手袋、珍しい柄だね。両手に眼がついてる」
飛びながらそれをよく見ようと、彼に手を伸ばした。直後に手の甲が熱くなったのを感じ、ヴェントは首をかしげる。彼を見てみると目を丸くし、申し訳なさそうに目尻を下げていた。
「あ……その、ごめん……」
どうやら今、手を叩かれたらしい。ユーはヴェントの手を持つと優しく息を吹きかけ、そっと摩った。ヴェントはそんな彼の頭をガシガシと撫でまわし、歯を見せて笑う。
「大丈夫だよ。ボクの方こそごめんね、気に障ること言っちゃったかな」
ヴェントの言葉に、ユーはわずかに視線をそらすと、何も言わずに首を振り、再び飛び始めた。ヴェントはそれを見てヒョイと肩をすくめ、今度は大人しくユーの後をついて飛ぶ。
二人はそのまま会話もなく、リ・セントーレへ向かったのだった。




