11-3
コンダムの声がし、ヴェントはそちらを鋭くにらんだ。
足元もおぼつかなく、コンダムは近寄ってくるとユーの傍ら(かたわら)に膝をつく。ヴェントはユーを抱きしめたまま、コンダムから引きはがそうとしたが、前髪の下の瞳を見て止めた。
彼は再び、前髪でその表情を隠そうとしていたが、それははっきりと見て取れた。
苦しみが、哀しみが。怒り、憎しみ……そして、愛情。全てがない交ぜになったような、瞳をしている。ユーの銀髪を柔らかく撫で、体の上に両手をかざした。掌が輝き、その暖かい光はユーの中へと溶け込んでいく。
「すまない……私のせいで、この子に……きみ達に、辛い思いをさせてしまった」
うつむくようにして、コンダムは言った。わずかに顔を傾けた彼の視線を追うと、血だまりの中に倒れるミールの姿がある。表情を歪め、唇をきつく結んで体を震わせた。
「どうしようもないことは、解っている……だからこそ、この子だけでも」
光が入っていくにつれ、ユーの傷は癒えていった。同時に、光の範囲が広がり、ヴェントとジューメをも包み込んでいく。体の底から温かくなっていき、自分たちの傷も癒えていくことに戸惑いながらもコンダムを見上げると、背の翼からは白い羽根がハラハラと抜け落ちていき、彼からは血の気が失せていっていた。
「遠い親戚でありながら……本当に、すまない……」
コンダムの掌から光が消えるころ、ユーの瞼が震えた。手の甲は落ち着き、点滅していた背後の眼も消える。ゆっくりと開かれた目は辺りを見回し、ヴェントに視線を止めた。緩々と手を伸ばし、涙を流す彼の頬に手を置いた。
「ヴェント……」
「ユー! よかった、よかった……!」
「おい!」
ジューメの声に、二人はすぐにコンダムへ顔を向けた。彼は短い呼吸を繰り返して胸元をきつく握りしめ、顔を真っ青にしながらも立ち上がると、ミールの傍に歩いていく。杖は、かろうじて指に引っかかる程度に持っていたが、それを落とすとミールの上に覆いかぶさるよう倒れた。
「コンダム!」
ユーは即座に体を起こして駆け寄ると、彼の体を起こし、支えた。胸の上下はほとんどなく、それでも唇を震わせる彼に、ユーは顔を近づける。
「ウィユ……最後の、眼の継承者。闇と、光の、狭間の者……。本当に、申し訳なかった……」
「しゃべらないで……お願い、いなくならないで!」
あふれる涙を止めようともせず、漏れる嗚咽をこらえようともせず、ユーはコンダムに縋り付いた。彼はそんなユーを見て柔らかく微笑み、そばにある杖を再び、手にした。それに弱い光を入れていくと、ユーに向ける。戸惑いながらもそれに手を伸ばし、指を回すと、コンダムは頬に手を置いた。指の腹で涙の跡を擦り、息を吐き出す。
「泣くな、これは……私が、私の意志でしたこと。……彼らが目を覚ましたら、これを見せなさい……。本当に、すまなかった」
目は閉じられていき、ユーに伸ばす手から力が抜け、床に落ちた。ユーはコンダムの体を揺すり、胸に耳を置いて、ただ頭を振る。
「待ってよ! ヤダ、なんで……! まだ話したいこと、たくさんあるのに ! どうしてさ、コンダム!」
ヴェントが、肩を抱いていることも気づかずに。ジューメが自分たちをまとめて、背後から抱きしめていることにも、気づけないように。ユーは声を張り上げ、ただ泣き続けていた――。
嗚咽を上げ、ヴェントにきつく抱きつきながらも、少しはユーが落ち着いてきたころ。ジューメは背後で剣が鳴るのを耳にし、咄嗟に大剣を構えた。折れた剣を手に向かってくる兵が見え、舌打ちをしながらそれを止める。
「きさまら……! よくも、大天使様を!」
「やめろ、もう戦う必要はねぇんだ。……もうやめろ。ユー、その杖を」
ユーはヴェントに支えられて立ち上がり、コンダムに渡された杖を、その兵に渡した。漆黒だった宝石はいつの間にか透明になっており、その兵は戸惑いながらも杖を手にする。
宝石が輝き、その光の中にコンダムが現れた。彼は事の経緯を、淡々と話している。兵は慌ててまだ気を失っているルシアルの者たちを叩き起こし、その言葉に耳を傾ける。
話が進むにつれ、兵たちはうつむき、目を伏せ、涙を流す者も出てきた。ヴェントとジューメは、コンダムとユーの関係に目を丸くし、ユーは再び涙を流す。
「……ウィユ、きみには、本当に……」
「いい、言わないで。……もう、いいんだ」
ユーのその言葉は。その空間に、重く、いつまでも響いていった。




