エピローグ
塔を背にして、三人は互いの顔を見合い、微笑んだ。
「ヴェントもジューメも、ボロボロだ」
「バカ野郎。一番ひどかった奴に、言われたくねぇよ」
ジューメにグリグリと頭を撫でられ、ユーは軽く目を閉じると笑った。掠れたその笑い声にヴェントは目尻を下げ、ジューメも、眉をひそめている。
「……二人はこれから、どうするの?」
「あ? お前ら、ここからどうやって自分たちの集落に帰るつもりだよ」
「……飛んで?」
「飛んで」
「ここに来るのに、何日かかったと思ってんだお前らは!」
そろって頭を小突かれ、ユーとヴェントはジューメを見上げた。彼は呆れた表情で頭を掻き、ため息をつく。
「ったく……。満身創痍なガキを二人放って行くほど、薄情なつもりはねぇんだけどなぁ」
「……! 一緒に来てくれるの?」
「お前たちの集落の近くまでは、一緒に行ってやるよ。……まぁ、頑張って、三日くらいあればつくんじゃないか。リ・セントーレにも、風の竜人の集落にも」
そう言うジューメに、二人は顔を見合わせると満面の笑みを浮かべ、彼に抱きついていくのだった。
「――ジューメ、本当にもう行っちゃうの?」
ルシアルの集落からリ・セントーレに向かうまでの三日間は、随分と短く感じた。ユーもヴェントも目尻を下げるようにジューメを見上げ、彼は苦い表情を浮かべながらも二人の頭を撫でる。
「オレはもう、元の寝床に戻るさ」
「そっか……」
「なんだか、寂しいなぁ」
そう言う二人の頭を荒々しく撫で、ジューメは地面を蹴った。
「……じゃあ。また、な」
小さかったが、確かに聞こえた声に、二人は勢いよく顔を上げた。飛んでいくジューメの背はすでに遠かったが、大きく手を振ると口元に手を当てる。
「またねー!」
「また一緒に、冒険しようね!」
姿が見えなくなるまで手を振り、二人は顔を見合わせると、声を上げて笑ったのだった。
「ユー……! 今まで、どこにいたんだい!」
リ・セントーレの自分の小屋に戻ると、そこに、局長さんがいた。駆け寄ってくるとユーの前に膝をつき、きつく抱きしめる。震える手で頭を撫で、肩に顔を埋めると、背を戦慄か(わななか)せた。
「局長さん、ボク……」
「いい、いい。今は何も言わなくていい。お前が、帰ってきてくれた。それだけで……十分だ」
ユーの首筋に、暖かい水滴が落ちた。それをそっと拭い、顔を崩していく。
「局長さん……!」
無事に、帰ってこられたんだ。
ユーは局長さんにきつく抱きつくと、声を上げ、泣いた。
「あんたは……! 今まで、どこに行ってたんだい!」
「いてててて! か、母さん! 話だけでも聞いてくれよ!」
ヴェントは家に帰るなり、目を吊り上げた母親に拳骨を食らって追いかけられていた。狭い家の中、逃げ道はほとんどなく、翼を鷲掴み(わしづかみ)にされると腕に閉じ込められる。
「ごめんって! あああ、何も言わないで連絡よこさないで七日も家を留守にしてごめんなさいっ!」
「あんたって子は! こんなに、ボロボロになって……!」
自分を抱きしめる腕に、力が入った。声は震えており、ヴェントは母親を見上げる。
「どれだけ心配したと思ってるんだい……! ほんと、に、このバカ息子っ……!」
「母さん……。ごめんなさい」
ヴェントは母の腕を包み込み、七日家を空けている間に出来たのだろうか。見覚えのない赤黒いホクロを視界に入れつつも、微笑みながら、涙を流した。
「大変な目に遭ったな」
ジューメは呟くと、自分が拠点としている洞穴に足をつけた。当然なのだが、出た時のまま何の変化もない雰囲気に、フと息をつくと大剣を下ろす。胡坐をかき、首を回すと、骨が盛大な音を立てた。
「あーあ、もう勘弁だぜ……こんな大冒険はよ」
と、横になりながら欠伸を一つ漏らし。ジューメはそのまま、目を閉じるのだった。
これは、竜の国の、光と闇の話。
閲覧ありがとうございました。これにて、竜の国1部は終了となります。
2部を上げる際には投稿形式を模索してみようと思います、ありがとうございました。




