11-2
――奴はなぜ、わざわざ肩を前に出した? まるで、左半身を守るように。
「……は、そういう、ことか?」
出血のせいか、すでに目はかすみ、ポスダーの姿はおぼろげにしか見えていなかった。貫かれている足にはほとんど力が入らず、翼は裂かれたものを無理やりに動かした上に、ビットの破片が食い込んでいるために、もう使い物にはならない。そして、震え、血にまみれている手ではマトゥエを振り回すことは出来ないだろう。
「さぁさ、諦めてしまえ、オスキュリート。そうすればお前も、お前の友人たちも……楽にしてやろう」
せせら笑いながら言うポスダーを無視し、ユーはジューメとヴェントを振り返った。二人はルシアルの兵を気絶させ、煙ザコの姿もなく、幾分数が減った金属ザコと戦っている。表情に疲れは見え、怪我もたくさんしていた。
だが、その目には、諦めも絶望もない。
「……なら、ボクが諦めるわけには、いかないね」
ユーは眼を閉じ、切っ先のなくなったクロウを手にした。ポスダーはそれを見て低く笑い、口を歪める。
「そんなものでどうしようと?」
「……ボクだけならまだしくも、ボクの友達を、楽にしてやろうって? 二人には絶対に手を出させない。それに、ジューメもヴェントも諦めてないんだ。ボクが諦めるわけに、絶望するわけにはいかない!」
まだビットは辺りを浮遊し、触手も自分を狙ってくる中。血で足を滑らせながらも、振り絞るようにして踏み出した。顔を上げ、まっすぐにコンダムを見上げる。
ポスダーがあらわにしてくれたおかげで。彼の目元に、何かが光っているのを、確かに目にした。
「大天使コンダム! きみはそれでいいの? 体を、魔界の奴に好き勝手に使われて……悔しくないの!」
ユーは迷いなく、コンダムの瞳を見ていた。一瞬、ポスダーの……コンダムの動きが止まり、全ての攻撃が止む。
それを見逃さず、宙に舞うコンダムの元へ地面を踏み込むと翼を開いた。そこらに浮遊するビットの頭を踏み台にし、かすんだ目で狙いを定め、クロウをポスダーの瞳孔に向かいまっすぐに突き出す。
「ぐっ……ああああああああああ!」
突如、金属ザコがガラガラと音を立てて崩れ、ジューメとヴェントは戸惑った。見えない壁で隔てられてからはユーとコンダムの声は一切聞こえなかったのに、今は二人とも違う、苦しげな声が聞こえてくる。
「ユー!」
ヴェントは剣を投げ捨て、倒れているユーの元へ駆け寄った。顔に血の気はなく、呼吸も薄い。クロウを握っていたのだろう、足元にはそれが転がっていた。コンダムもうつぶせに倒れ、金色の髪が床に乱れている。だが、彼の方には、傷は一つも見られなかった。
「ジューメ! ユーが!」
「おい、しっかりしろ!」
ジューメは軟膏を取りだし、使い切ることも構わず、ユーの傷口へ丁寧に塗り付けていった。両手の甲が不安定に光を放ち、彼の背後では眼が消えたり現れたりを繰り返している。
(やばいんじゃないか、これ……?)
ジューメは口を一文字に閉じ、額に流れる脂汗を拭った。ユーの呼吸はますます薄くなり、どれだけ声をかけても、瞼すら震えない。
「ユー、しっかりしてよ! 起きて!」
「私に……任せて、くれないか……」




