10-3
コンダムの背にある翼は、竜人のものとは違う、純白の美しい羽だった。コンダムは狂ったような笑い声をあげながら、ユーを見下す。
「なぜかと! お前の母親が前代大天使だったからさ! あぁ、愚かにも一族を捨て、オスキュリートに心を奪われたレガー……ルシアルの裏切り者よ!」
コンダムの罵声に、ユーは無言のまま、緩々と首を振った。それを見た彼は更に声を張り上げるよう、愉快そうに笑う。
「オスキュリートの子よ……私はお前の母が一族を裏切り、捨てた後すぐ、大天使の座につき……お前たちを、お前たちが住む村ごと滅ぼすよう、命じたのだ」
「どうして……ボク達は、何も悪いことはしてない。母さんが、お前が言う裏切り者だったから? お前たちには何も危害を加えようとしなかっただろ! どうしてそのまま放っておいてくれなかったの!」
「貴様に解るか! 大天使の座につく者でありながら、貴様と同じ血を持つことの恐ろしさが!」
吼えるように放たれた言葉に、今度こそ、ユーの表情は凍りついた。コンダムは肩で息をし、前髪の間からわずかに見えた金色の瞳は、憎しみに染まっている。
「私にも……前代大天使を奪った血が、貴様と同じ、オスキュリートの血が流れている……。私の遠い先祖に、オスキュリートの者がいる。わかるか、小僧? 私は恐れた。ルシアルの者に、それを知られるのを恐れた。……どうすればいいと思う? 知られたくないヒミツを、消し去るには?」
――これを知るものを消せばいい。オスキュリートを滅ぼせばいい、この秘密を知っている前代大天使ごと――
コンダムの静かな叫びが、笑い声が響き渡った。ユーはカタカタと体を震わせ、見開く目に涙を浮かべる。
「ふざけるな……! それだけ? たったそれだけのことで、村を、父さんと母さんを……ミールさんを!」
足を踏み出し、翼を羽ばたかせ、ユーは一直線にコンダムに向かって行った。クロウの切っ先が狙っているのは、寸分の狂いなく、コンダムの心臓部。
コンダムの目が冷たく微笑むのを、確かに見た。光の壁が彼の前に現れ、それに触れたクロウは半ばまで消滅してしまう。それは融けたわけでもなく、何かによって切り取られたわけでもない。言葉の通り「消滅」
「そう、そのミール……この体の自我を砕くのに、役立ってくれたよ」
声が、コンダムのものではなくなった。口が裂けたような笑みを浮かべると同時に、袖口から何かを突き出す。ユーに、それを避ける時間はなかった。その「何か」に脇腹を突かれ、その勢いのまま床に叩き付けられる。咳き込むと口の端から血が流れ、熱を持つ脇腹を押さえながら体を起こし、コンダムを見た。右手を開くと眼を展開し、マトゥエを取り出す。
「……てめぇ。今の、この力と同じ……」
「お前にも感謝しないといけないなぁ? そこの大ばか者は、死に逝くお前の命を少しでも長らえようと、この体に自身を殺させた……おかげでようやっと、この体を自由に出来るよ!」
と、自らのローブを、下に着ている服ごと引き裂いた。前髪を払い、顔を、目をあらわにする。
充血する金色の目の下には深いクマがあり、青白い顔は病人のようだった。左胸には巨大な眼があり、腕に沿うよう、植物のツタのような触手が肌を突き破って出ている。
その眼が瞳をギョロリと動かし、マトゥエを構えながら脇腹から血を流しているユーを、見据えた。
「ウィユ=オスキュリート。憎き闇の龍の力を引く、最後の眼の継承者よ……。貴様をこの場で確実に消し去り、我々魔界の者が、この国を……この世界をいただく」
ユーはピクリと、眉を動かした。眼だけのそれはコンダムの口を動かし、耳障りな声で言葉を発する。
「我が名はポスダー。魔界の住人だ」
「ま、かい……?」
声を潜めるように言うユーに、ポスダーと名乗ったそれは、ケラケラと笑っていた。
「そう、魔界。お前は知らんのだろう? お前が持つ、眼の意味を!」




