9-1
真っ白な壁に包まれた長い廊下を、四人は足を止めることなく進んで行った。進むごとにミールの顔色は悪くなり、ユーは落ち着きなく辺りを警戒している。
「ユー、大丈夫?」
「大丈夫、だよ。大丈夫」
自分に、言い聞かせているようだった。ヴェントはそんなユーの手をきつく握り、ユーもまた、きつく握り返す。
ジューメが不意に立ち止まり、三人も足を止めた。
「……行き止まり?」
「え、でもほぼ一直線だったよね……」
無言のまま、ミールがジューメを押しのけ、突如立ちはだかった壁に手を乗せた。切れ目がないように見えたその壁は、中央から割れ、奥へ開いていく。
「……ここが、大天使様のお部屋だ」
その部屋もまた、白い壁に囲まれていた。正面には階段があり、その上には質素な、しかし威厳のある椅子がある。
その椅子に座っている男性は、足元まで伸ばした金色の髪を揺らし、静かに四人を見下ろしていた。目は前髪に覆われており、見ることは出来ないが、口元に浮かぶものを見ると恐らく、微笑んでいるのだろう。純白のローブに身を包んだ彼はゆったりと椅子に腰をおろし、足を組んだ。
「コンダムさ」
「どうだったかな? さいごの、安寧の日は」
ミールの言葉を遮り、コンダムは口を三日月に吊り上げた。ジューメは舌打ちをしながら一歩前に足を踏み出し、睨みつける。
「可笑しいとは思った。お前らはユーのことを、兵を使い、オレを、煙ザコを、挙句には龍まで使って殺そうとしていたのに、敵陣に近づくにつれて何もない。そして普段硬く閉ざされているという門は開いていて、見張りも誰もいねぇ。……まるで、オレ達をここに、誘い込むみたいにな」
「一応、訊ねておこうか。ミールよ」
ジューメの言葉を一切無視し、コンダムは立ち上がった。呼ばれたミールはジューメのさらに前に立つと、まっすぐに、大天使を見上げている。
「お前はどういうつもりで、こいつらを連れてきた?」
「……少なくとも、オスキュリートを……滅ぼすためではないと、言いま しょう」
震える声で、それでもキッパリと言い切ったミールに、コンダムはわずかに白けたような表情を浮かべると腕を気だるそうに上げた。
コンダムのその行動を確認した直後、ユーは誰かに体当たりを食らっていた。その反動で体は跳ね、浮かび、床に叩き付けられると咳き込む。息をのむ音と足を踏み出した音が同時に鼓膜を震わせ、顔を紅潮させながらも、ユーは体を起こした。
「……え?」
ミールの脇腹は大きく裂けており、彼の足元には水たまりが出来ていた。血を吐きながらも床に膝をつき、傷口を片手で押さえ、それでもコンダムのことを見上げている。
「ミール、さん?」
ジューメがミールに駆け寄り、麻袋の中から毛布を引っ張り出すとそれを力任せに引き裂き、胴体に巻いていく。見る間に真紅に染まっていくそれに構うことなく、奥歯を噛みしめながら、力いっぱい巻きつけていった。
その手をそっと押し返され、ジューメは顔を上げた。コンダムを見上げるミールの表情は険しく、充血する目にはどこか、自責の念が浮かんでいる。
「……コンダム、さまを……」
ほとんど声にならない言葉を吐き出すと、ミールはそこに倒れた。ヴェントは顔面蒼白になりながらも長剣を手にし、ジューメは肩を震わせながら立ち上がった。ユーも、目元に涙を浮かべながらも、コンダムへ近寄っていく。
「なんで! ミールさんは……ミールさんはお前の仲間じゃないの! どうして殺したの!」
「フフ……裏切り者には、死を。それが我々だ……それに、今、ミールが死んだのは……お前のせいだろう?」
「ふざけるな! なんでそんなに、ボク達を嫌うのさ!」
背に、ゾクリと冷たいものを感じ、ユーは思わず振り返った。見た目には何も変化はないが、それでも違和感が拭えない。
「ヴェント、ジューメ!」
叫ぶと、ヴェントが目を丸くし、駆け寄ってきた。だが彼は何かに遮られ、口をパクパクと動かす。それは自分の名前のようだったが、声は全く聞こえなかった。




