8-3
日がすっかり落ちてしまい、ジューメは立ち止まるとミールを木の根元に座らせた。ユーとヴェントも膝から崩れるようにして地面に座り込み、呼吸を荒げる。頬は紅潮し、汗は止めどなく流れていた。
「大丈夫か」
「だ……だいじょぶ……」
「すごい……こんなに長い時間歩いたの、初めてだよ……」
「これで、ザコやこいつの仲間が来ていたら、危なかったかもな」
と、ジューメは軽く背伸びをし、荷物から毛布を取り出すと二人に放り投げた。
「お前たちは先に休め、オレは食料を探しに行く」
簡単に指示を出し、ジューメは翼を広げると飛び立ってしまった。ユーとヴェントは放られた毛布を広げながら、彼のなびく後ろ髪を見つめる。
「すごいねぇ……」
「体力、あるねぇ……」
「いや、お前たちも頑張ったと思うぞ」
重そうにする瞼をどうにか開き、船を漕ぎながらも体を起こしている二人を見て、ミールは微笑んだ。それから二人の体を軽く押し、毛布をかける。
「体が休息を求めているだろ、寝ろよ」
二人は素直に、それに従った。毛布に潜るとほぼ同時に寝息が聞こえ始め、更に優しい笑みを浮かべる。
「……きみ達は、何があっても……。その関係を、壊すんじゃないぞ」
と、赤い闇に染まりつつある空を見上げ、目を閉じた。
しばらくして、ジューメが木の実を抱えて戻ってくると、ミールはそちらに視線を向けた。その表情に思わず、息をのんでしまう。
「お、おいおい……。なに、死人みたいな面してんだよ」
「……そんなに酷い顔になってるか、今……」
自分の頬を軽くたたき、深く頭を垂れ、長く息を吐き出すと再び顔を上げた。先ほどよりも多少マシになってはいるが、それでも顔色は良くない。
「お前も、もう休めよ。……明日にはつくのか」
「今日、大分無茶をして歩いてるからな。……明日の早い時間には、集落に着く」
「お前……しっかりしろよ。傷が痛むか」
と、ジューメは軟膏の残量を確認しようとし、ミールが止めた。彼は折れている腕をわずかに持ち上げ、弱い笑みを浮かべる。
「大丈夫だ。……先に、休ませてもらうぜ」
「あ、あぁ……」
昨日とは違う、柔らかい、脆い彼の様子に。ジューメは戸惑いながらも、大剣を自身の脇に置き、膝を立てるようにして目を閉じるのだった。
翌朝、ジューメは眠っているユーとヴェントを起こし、リンゴほどの大きさがある木の実を渡した。目を擦り、寝ぼけながらも、二人はその木の実を口に運ぶ。
「気を引き締めろ、乗り込むからな」
その言葉に、二人は顔を上げると、深く頷いた。立ち上がり、背伸びをする。
「ミール」
「わかっている」
短い返事に、ジューメはミールに肩を貸すと、歩き始めた。
不意に、視界に霞がかかり始め、スライム状の何かを通り抜けた感覚が体を襲った。むにゅん、とした感触にユーとヴェントは思わず悲鳴を上げ、ジューメは緊張した面持ちで目前にある白い塔を見上げる。
一言で言うならば、その白い塔が纏っている雰囲気は不気味だった。塔の周囲には民家が並び、それだけを見れば他の集落と変わりはない。だがその中に、白い塔はあまりに異質だった。雲を突き抜けるそれの周囲には見張りがいるわけでもなく、ザコがいるわけでもない。
「……ここが、光の竜人の集落。ルシアルだ」
「……あの塔の根元、あそこが開いているが……あれが入り口か」
「あぁ。……普段は、あの門は硬く閉じられていて、部外の者は決して入れないけどな」
その門が開いているということ。ジューメは眉間にシワを刻み、ユーは緊張した面持ちで見つめ、ヴェントはそっと、剣に手を置いた。
「上等だ。誘われてやろうじゃないか」
唸るように呟くジューメを先頭にして。四人は中へと、足を踏み入れた。




