8-2
「とぼけるなよ! あんた達が、煙の奴を送ったんだろ!」
先ほどよりは声に落ち着きが戻っていたが、それでもヴェントは睨むようにミールのことを見つめていた。どこか困惑の色が見える彼に、自身の感情が、スッと引いてくのを感じる。
「……ヴェントと言ったな」
「……なに」
「お前はあの子のことが、恐ろしくないのか」
ミールの言葉に、ヴェントは目を見開き、そばに置かれていた剣を手にすると鞘から抜くのも忘れるようにして突き付けた。手は震え、歯が微かに鳴っている。
「ふざけるな……! どうしてボクがユーを怖がらないといけないの。言っただろ、ユーがどんなに強くても、良く解らない力を持っていたとしても、ボクの大切な友達」
「なら、良い。そう思ってやってるだけでも、あの子にとっては……それこそ、決して折れることのないだろう心の支えになる」
細められた金色の瞳が、柔らかくなるのを、ヴェントは見た。それなりに怪我が痛むのだろう、それを庇うようにしながら歩き始め、それを慌てて追いかけると右手に剣を持ってミールに肩を貸す。
「……ごめん、なさい」
「何がだ?」
「ちょっと、イライラしてた。ミールには全然関係がないところで、怒鳴っちゃった」
「お前たちをこんな状況に追い込んだのは……紛れもなく、オレ達だ。……明日、我らの集落へ、コンダム様の元へお前たちを連れて行ってやろう」
そう呟かれ、ヴェントは思わず、ミールを凝視した。自分より頭一つと半分くらい高いところにある顔は暗く、深くうつむいているため表情は判らない。
「……お前は何があっても、あの子を裏切らないでやってくれ」
「何言ってるのさ、ボクがユーを裏切るわけないでしょ」
またも怪訝な表情を浮かべているヴェントに、ミールは緩く口の端を上げて微笑むと、彼に支えられながら歩き出した。
「――どういう心境の変化だ?」
翌朝、全員が目を覚ましてすぐにミールが話したことに、ジューメは瞳を光らせるように彼をにらんだ。ミールはわずかに俯いたまま笑みを浮かべ、頭を掻く。
「行きたいんだろ、ルシアルの里に。案内してやると言うのに、そんなに警戒するなよ」
「警戒もしたくなるだろ。お前、つい昨日、連れて行けと言ったのを即行で断ったんだぞ。それを一晩経ったら、はい案内します、だ? 怪しむなと言う方が無理だろ」
「……別にお前たちを陥れようとしているわけじゃない。……と言って、信じてもらえるとは思わないけどな」
「ボクは、信じるよ」
はっきりとした声を響かせ、ミールの前にチョコンと膝をついて座り、ユーは彼の顔を見上げた。澄んだ黒眼は迷いがなく、ジューメは苦笑する。
「だから、連れて行って。ボクはその、コンダムって人と話をしたいんだ」
「……ここからだと、歩いて二日くらいだ」
「待てよ。オレはなんでも屋として、この国を結構飛び回っているぞ。もちろん、このあたりにも来たことがある。……だが集落なんて、見たことはないぜ」
目いっぱい眉間にシワを寄せているジューメに、ミールは苦虫を噛みつぶしたような表情をした。しばらく俯いたまま額に手を置き、深いため息とともに顔を上げる。
「コンダム様が、呪……まじないを掛けているんだ。いつの頃からなのか、判らないけどな。……ルシアルの血を持つ者が同伴しなければ、他の集落の者は、我々の集落を見ることすら出来ない」
「……そのコンダムって野郎……どれだけの力の持ち主なんだ……」
「さぁな……少なくとも、集落一つ隠せるだけの力は持っているってことだよ」
浮かんだ冷たい笑みに、ユーは背をイヤな汗が伝っていくのを感じた。それでも首を振り、深呼吸をするとまっすぐに顔を向ける。
「関係ないよ。ボクは話がしたい、どれだけ力を持っていようと……その、呪? ってやつが強くても。行く、だから連れて行って」
「……あぁ、お前たちなら別に、このあたりをウロウロしていればそのうち、ルシアルに入れた可能性もあるのか」
かろうじて聞き取れるほどの声量でつぶやかれたそれに、首をかしげるも、ミールはそれ以上口を開かずに立ち上がった。ジューメが肩を貸すよう隣に立ち、彼もそれに大人しく体を預ける。
ミールが歩く速さに合わせながら、三人は彼の案内の元、歩いた。




