6-5
ユーは思わず、ジューメの背後に完全に隠れてしまった。ジューメはそんなユーを、尾で前に押し出す。
「闇の龍の力を引く者。……そして、オスキュリートの血の者だな」
ユーは小さく、頷いた。金色の龍はそんな彼の様子に、微笑む。
「お前たちには感謝している。……愚かにも私は、体を奪われていた。その戒めを解いてくれたこと、本当にありがとう」
「体を、うばわれていた……?」
掠れた声でヴェントが繰り返すと、龍は目の間、竜人で言うところの眉間だろうか。きつくシワを寄せ、低く唸った。
「光の竜人の者……ルシアルの集落の長、大天使と呼ばれるもの……コンダム」
「大天使、コンダム……」
ユーはその名を繰り返し、うつむいた。その間にヴェントがそろそろと、ジューメの背から出てきてユーに並ぶ。
「えっと、光の龍さん。なんであなた達は、この世界の……伝承? に残っていないのですか?」
「……我々は、世界の表に出ることはない。……裏の世界に住んでいるのだ、本来ならば」
本来は、ということは。恐らく自身が表の世界に出てきてしまったことを言っているのだろう。忌々しそうに空をにらみ上げていたが、不意に三人へ視線を落とす。
「オスキュリートの者。名は?」
「あ……ウィユ……」
「ウィユ。……きみはまだ、眼の意味を、理解していないな?」
「え……?」
首をかしげるユーに緩く微笑み、爪の先で頭を撫でた。伸びてきた手に体を緊張させたまま、ユーは視線だけを、頭上に向ける。
「今はまだ、構わない。……己自身で、その眼の意味を。そして、扉の意味を理解していくのだ」
それだけ言うと、翼を広げた。彼の体から暖かい「何か」が地面へ流れていくのを感じ、三人はふと飛び上がると、その龍を見つめる。
「私は、居るべきところへ帰ろう。……きみ達の無事を願う」
優しい笑みを残し、そのまま、太陽の光に溶け込むようにして姿を消してしまった。ユーはそれを呆然と見送った後、自身の頬を摘み、グニグニと引っ張る。
「ユー」
ジューメに声をかけられて振り返ると、彼は大剣の腹をこちらに向けていた。磨かれている刀身に鏡のようなに映っているのは、口の端から血を流している自分。そのほかにも、痣や、爪がかすった跡が残っていた。
「夢か?」
「……ううん」
気づけばヴェントも、ユーと同じように自分の両頬を引っ張っていた。ジューメは苦笑しながら大剣をしまい、笑う。
「おいおい! しっかりしろよ、ガキども」
未だ呆然としている二人の頭を、軽く握った拳で、小突くのだった。
「とにかくこれで、敵の親玉は解った。……ルシアルの長、大天使コンダム。龍の体を奪うほどの力の持ち主だ。……だが、オレは。受け身は嫌いなんだが?」
片方の眉を上げながら、ユーを見た。彼はジューメを見返し、ヴェントを見上げ、うなずく。
「コンダムって人に、会いに行こう。……どうして、ボク達を滅ぼそうとするのか……どうして、あんなことをしたのか。ちゃんと聞くんだ」
しっかりとした声調に、二人は同時にうなずいていた。それから一度地上へ向かい、ジューメは問答無用でユーの上着をめくると体を触った。
「わわ!」
「おーお、ひっでぇ痣。ま、骨はどうもなってないみたいだな……あんだけ強かに尾で打ちつけられておいて。ヴェント、ちょっとお前の剣見せろ」
と、ジューメがユーのことを放した瞬間。ユーは鋭く周囲を見ると走り出していた。それを慌ててヴェントが追い、剣の手入れを始めようとしていたジューメも、道具を乱雑にまとめて袋へ突っ込むと追いかける。
ユーを追って行った先には。翼が折れ、左腕をダラリと垂らしながらも木に寄りかかり、荒い呼吸を繰り返しているルシアルの兵がいた。




