6-4
ハンマーだったそれは形を変え、人の姿になっていた。それは龍よりも少し小さいくらいの大きさで、開いている口の奥からは、鋭い針が覗いている。ユーが深く息を吐き出しながら、腕を開いていくと、連動するようにそれも動いた。
「ホーロウ……我が傀儡となり、意に従え」
龍が一声鳴き、姿を変えたマトゥエ、ホーロウに掴みかかった。ユーが同じように、掴みかかるようなそぶりを見せると、ホーロウもそれに従う。体中の血管は浮き出、顔を紅潮させながらも、ユーはホーロウを通して龍と取っ組み合いを始めていた。
「おい、ユー!」
「ジューメはっ……今のうちに、どこを攻撃すればいいか……探ってくれ! あんまり長くは……持た、ないぞ!」
取っ組み合いを開始して十数秒ほどしか経っていないのに、ユーの額からは汗が止めどなく流れ、呼吸を荒くしていた。ジューメは大剣を構え、こちらを狙ってくる尾を掻い潜りながらも、龍の全身へ視線を走らせる。
再度龍が唸り声をあげた時。ジューメは金色の龍に異物を感じ、顔を上げた。一気に頭もとまで飛びあがり、額を凝視する。
そこには、小さな宝石が埋め込まれていた。
「ユー! 額の宝石だ!」
「わかった!」
と、ユーは体を震わせながらも、頭を上げていった。確かに龍の額に、黒く光る宝石がある。
「……クッソ……ホーロウの大きさじゃ、頭突きは無理か……なら」
ユーが微かに口を開くと、龍に押され、体がわずかに弓なりになった。それをどうにか力任せに押し返し、息を吐きながら口を開いていく。
ホーロウの喉の奥に見えていた針が、徐々に口の中から伸びてきた。そのおぞましい姿に、ジューメは背を、冷たい汗が流れるのを感じる。
(……あぁ、確かに一歩間違えたら、世界は終わるかもしれねぇな)
暴れる龍を押さえつけながらも、その針の先端が、宝石へ届いた。ピシリ、とわずかにヒビが入り、針はより奥へ侵入していく。
額の宝石が砕けると同時に、龍は頭を抱え、耳をつんざくような悲鳴を上げた。ユーはその咆哮に鼓膜を突かれ、目をむき、今度こそ気を失う。ジューメは落ちていくユーの体をしっかりと掴み、龍の咆哮を、奥歯を噛みしめて耐えた。彼が気絶すると眼は消え、ホーロウも姿を消している。
金色の龍の咆哮に。大地が、大気が、大海が揺れた。
それが治まると、龍は頭を抱える腕をゆっくりと解き、ユーを脇に抱えるジューメを見た。初めに見た時とは違い、穏やかな、暖かい瞳をしている。
「……私の戒めを解いてくれたのは、きみ達か」
喉を鳴らしながら発した声は、心地よく感じた。金色の龍が地面へ降りていくと、ジューメもそれに従う。
「ジューメ!」
先に戦いの場を離れていたヴェントが、降りてきた龍に怯えるようにして背に抱きついてきた。
「今の鳴き声はなに? ユーはどうしたの? それに、それに」
混乱している彼の頭を優しく撫で、ユーを地面へ横たえる。龍がそっと、その体に口を近づけると、ユーは目を覚まして短い悲鳴を上げた。跳ね起きるとジューメの後ろに隠れ、隣にいるヴェントを見上げる。
「え、な、なに? ジューメ、ヴェント? 何がどうなって?」
「お前ら、落ち着けよ。……金色の龍よ。オレ達竜人の間で、伝説にのみ出てくる存在よ。……お前は一体、何者だ」
静かな声で、目はギラギラと光らせながら、ジューメは問いかけた。龍は頭を下げたまま翼を折りたたみ、ジューメのことをじっと見ている。
「炎の龍の子よ。お前は、どこまで知っている?」
「オレ達竜人の先祖は遠い昔、龍と同じ種族だった。体の中には龍の血が流れている。
炎の竜人ならば、灼熱地獄に住む真紅の鱗を持つ龍の血をひき。
水の竜人ならば、水底に住む青い鱗を持つ龍の血をひき。
風の竜人ならば、遥か山の頂に住む青緑の鱗を持つ龍の血をひき。
雷の竜人ならば、天空に住む、黄色の鱗を持つ龍の血をひいている。……これが、各集落に伝わる、古い伝承。古いおとぎ話だ」
ジューメが言い終ると、龍はわずかに首をかしげながらも、目を細めてうなずいた。
「まぁ……その、おとぎ話、は。おおよそ正解だ。間違えてはいないな」
「だがその中に、金色の龍は出てこない」
ユーとヴェントはただ、二人の会話を聞いていた。ジューメの目は真剣で、対する龍の目は、どこまでも優しい。
「……その四種族のほかに、光と闇の龍がいるのだ。私は、光の龍。……そしてきみは」
と、ユーに目を止めた。




