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6-3

 その言葉を合図にしたか、龍は尾を振り上げた。ユーは腕を十字に重ねるようにして体をかばい、それを正面から受け止める。その衝撃は骨の芯まで響き、思わずクロウを落としそうになった。緩んだ手に力を再度込め、吹き飛びかけた体を、翼をいっぱいに広げて止める。

「ユー! 一人でやれる相手じゃねぇ、こっちを追い払うまで逃げてろ!」

 怒鳴るようにジューメは言うが、ユーは龍の目線の高さまで飛びあがると、背に眼を展開させた。そこからマトゥエを取りだし、深く息を吐く。

「……バーカ。大人しく、逃げ回らせてくれるような相手かよ」

 マトゥエを両手で構えた瞬間、龍は再び、尻尾を振り上げる。それをマトゥエで打ち返し、その勢いのまま体を縦向きに回転させ、尻尾を振り上げた格好のままガラ空きになっている龍の腹へ振り落した。腹部にマトゥエが直撃したにも関わらず、龍の口元には冷たい笑みが浮かんでいる。

「効いてねぇ……!」

 一瞬動きが止まったユーの体を、龍の手は、あっけなく払い飛ばした。その衝撃に肺の中は全て吐き出され、脳は揺れ、翼を動かすことを忘れる。重力に捕まり、マトゥエの重さで腕を強く引かれ、地面へ向かっていった。

「ユー!」

 ヴェントの声に、我に返った。落ちている体に力を入れ、翼で大気を掴み、再び飛びあがる。

 声をかけてくれたヴェントを見てみると、彼はルシアルの兵に押され、ジューメの助けも期待できないようだった。頬からは血が流れ、服も所々、裂けている。


「てめぇ!」


 ユーは吼えると、マトゥエをその兵に向かい、振り上げた。あまりに不意の事だったためか、彼はマトゥエの直撃をくらい、上に吹き飛ばされる。剣が折れる音のほか、何かが潰れるような音がした。

「ぐっああ!」

 彼の片翼は折れ、左腕もおかしな方向を向いていた。羽ばたくこの出来ない翼では空を掴むこともできず、その兵は地上に向かって落ちていく。ジューメと戦っていた四人の兵はそれを見て彼から離れ、ユーを静かに睨みつけた。

「貴様……! 隊長を!」

「お前ら……オレ達を殺しに来ているんだろ。それならこっちも、お前らを殺す気で迎えるだけだ。……文句は言わせねぇよ」

 凍るようなその目に、ルシアルの兵は息をのみ、互いに目で合図をすると背を向けて逃げ去った。それにジューメは眉を寄せたが、すぐにユーと並ぶ。


 兵は逃げて行ったが、龍はまだ、この場に残っているのだ。


「ジューメ、気をつけろ。オレでもこいつの一撃で気を失いかけたんだ」

「そうだろうな……あいつら、厄介なもんを置いていきやがる」

 愚痴りながらも、二人はヴェントへ視線を向けた。彼は肩で息をしながらも剣を構え、手を震わせながらも、龍のことをにらんでいる。

「ヴェント、逃げろ。オレとジューメでこいつの相手をする」

「オレ達も、こいつの隙をついて逃げる。こんな奴の相手、真面目にやってられるか」

 二人の顔からは、血の気が引いていた。ヴェントは唇を噛みながらも、頷き、地上へ降りていく。

 龍はそんなヴェントに興味を示すことなく、ユーだけをまっすぐに見ていた。それにユーは口角を上げ、その目を、まっすぐに見返す。

「面白い……まさか、マトゥエを変えないといけない相手が出てくるとは、思いもしなかったぜ……」

 と、ユーはマトゥエを体の前に持ってきた。目を細め、龍との間に火花を散らす。

「ホント、こいつだけは、あんまり使いたくないんだがね……」

 マトゥエの形が、徐々に変わっていった。面に描かれている顔の一つが軋んだ音と共に口角を上げていき、口を開く。

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