3-2
リ・セントーレを遠く離れた頃、ヴェントはようやくユーの手を放した。ユーは辺りを見回し、深く息を吐き出すとヴェントに深く頭を下げる。
「……ごめん。ボクのせいだ」
「何が?」
平然と返すヴェントに、ユーは目を向くと顔を上げた。あたりを見回し、警戒しながらも、ヴェントはユーのことをいつもと変わらない表情で見ている。
「何が、って! 見てなかったの? ボクは……あいつらに狙われてる。ボクが何も言わなかったから……ヴェントは、ボクを助けてくれたよ。だけどそのせいで君もきっと、危ない目に遭う。そんなのって!」
拳を強く握り、うつむきながら怒鳴るユーの肩に、手がそっと置かれた。恐る恐る顔を上げると、そこにはやはり、普段通りのヴェントがいる。
「ユーを助けたのは、ボクが勝手にしたことだよ。なんだろう、何も考えてなかった。……だからユーがそういう風に思うことはないよ。それよりも、あいつらはいったいなんなの?」
ユーは静かに首を振り、口をきつく閉じた。ヴェントの手を肩から払おうと手を伸ばす。だがヴェントは逆に、力を込めてユーの肩を握った。それから正面に回ると顔を覗き込み、意地でもユーと目を合わせようとする。
「ユー、ボク達は友達だよね。だからユーが困ってる時には助けるし、それが当然だとボクは思ってる。……もしきみが、ボクのことを友達だと思ってくれているのなら、話して。このまま放っておけって言われても、絶対に納得しないからね」
無言のまま、必死にヴェントから視線をそらしていたユーだったが、観念したように小さく頷くと顔を上げた。それにヴェントは微笑み、ユーの手を握ると、近くに見えた洞窟に入る。中に入ると翼を畳んでユーを自分の隣に座らせ、そっと辺りをうかがった。
「……うまく、まけたみたい」
ユーは膝に額を押し付け、ゆっくりとした呼吸を繰り返していた。ヴェントはそんなユーの背中をなでながら、彼が口を開くのを、ジッと待つ。小刻みに震える姿は、怯えているようだった。
「……ヴェント、ボクが生まれた村の話から、してもいい?」
顔を上げないまま、ユーは言った。掠れる声に、ヴェントは耳を彼に近づけ、頷く。
――生まれたのは、竜の国の、小さな隠れ里。そこに住む竜人はみんな、黒い髪に黒い瞳を持っている。……そこは、ほかの竜人たちに知られることのなかった、闇の竜人の領域。そしてボクは、その村に住む一家、オスキュリートの子供なんだ。
闇の竜人は、ほかの竜人たちとは違い、昔から隠れるようにして生きてきた。そしてオスキュリートの一族は、その村の中でも違う存在だった。その血族は、体のどこかに「眼」が描かれている。そしてその眼からは微量の「力」が流れており、その力を解放することにより、巨大な力を使うことが出来た。




