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ここまで話し、ユーは自身の両手の甲をヴェントに見せた。いつもしている、眼が描かれた手袋に首をかしげていると、ユーは深くため息をつく。
「……この下に。ボクは、眼があるんだ。……どうしても好きになれなくて、だけど眼を持つ者として、眼のことを意識していなさいって、母さんにこの手袋を作ってもらった。母さんは知らないけど、父さんはお腹のところに、眼があったと思う」
初めてユーと会ったとき。手の甲を見ようとして、手を叩かれたことがあった。それはこの「眼」が原因だったのかと、ヴェントは静かに見入る。
――だけど村の人たちはそれを気にすることなく、普通に接してくれた。ボクも、毎日のように友達と一緒に、追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたり……。楽しく、生きてた――
そんなある日。村長を家に招いて食事をしているときに、母はわずかに顔を曇らせていた。竜人とは違う、純白の翼を持っている彼女のそんな表情を見て、村長は柔らかく微笑む。
「レガー、きみはもう、闇の竜人の一員だ。……そんなに、心配そうな顔をするんじゃない」
「そうだよ、大丈夫。……きみは心配することはないよ、すべてうまくいくさ」
と、父も包み込むように母を抱きしめる。それでもどこか不安そうに、悲しげにうつむいている母を見て、ウィユは首をかしげながらその膝の上によじ登った。
「お母さん、だいじょうぶ?」
「……ありがとう、ウィユ。大丈夫よ」
目は伏せたまま、それでも母に頭を撫でられ、ウィユは嬉しそうに瞳を閉じた。
その時。暗闇のはずの視界が、赤く染まった。直後に母の叫び声、村長の震える怒鳴り声。そして、父が喉を鳴らす音が同時に鼓膜に刺さる。
「ルシアル……! どうやって、この隠れ里を!」
強く抱きしめる母の腕からどうにか抜け出し、窓から外を見た。揺らめく炎と、母と同じ金色の髪をした竜人が、村の人たちを赤色に染めていく。
「あなた!」
「なんということを……」
「お前たちは、ウィユを連れて逃げろ! 絶対に、その眼を絶やすな!」
村長は叫び、玄関の傍に置いていた剣を掴むとドアを蹴破るようにして家を飛び出した。母はきつくウィユを抱きかかえ、父も三枚刃の爪に似た得物、クロウを手にしてともに飛び立つ。
母の肩越しに、炎に包まれる村が、再度見えた。いつも遊んでいた自分の家の前の小道、広場に、木登りをして遊んだ木々。そして……優しかった、村の人たち。それらがみんな、炎の中に見えた。目を凝らしてみると、襲撃者の何人かと戦っている村長の姿もその中に見える。目を逸らそうとしても、閉じようとしても。体は言うことを聞いてくれなかった。ただただ、ウィユはその目に、燃える村を焼きつけていく。
突如、両親が地面に降りたったかと思うと母の腕を下ろされ、背を強く押されていた。茂みに顔から突っ込む形になってしまい、擦りむいて痛む顔を押さえながらも振り返る。
「オスキュリートの血筋の者だな……」
「それに、あなたは」
金髪の竜人が、すぐ近くにいたらしい。ウィユは震えながらも手で口をしっかりと塞ぎ、茂みに隠れながらも会話に耳を澄ませる。
「……そうよ。光の竜人、ルシアルの集落の者たちよ。……私は何を言われても、されても文句は言えない。だけれど、関係のない村の人たちを傷つけたこと……それは許されません!」
「息子には手を出させないよ」
光の竜人に向かってクロウを突き出し、母も上着の裏から短剣を取り出して振り上げる。そうしながらも二人は視線を一瞬ぶつけ、上空へ向かった。それを追ってルシアルの兵二人もその場からいなくなる。
ウィユは人の気配が全くなくなったころ、茂みから顔を出した。背を押された際に、ズボンに挟まれた紙を広げる。一体、いつこんなものを書いたのだろう。そこには母の字で短い文章があった。
――ウィユ、両手の眼は決して使ってはいけません。この国の首都、リ・セントーレに向かいなさい。お父さんとお母さんは、いつでもあなたの傍にいます――
紙の裏には、簡単に首都の位置が描かれていた。ウィユは何度も手紙を読み返し、それを丁寧に懐にしまう。そして、赤く輝く村を振り返ることなく、翼を広げた。




