89.魔法学校のラスボス様⑥
つい数日前から突如として始まった学園生活。
教師役をやっている我が保護者達は楽しそうにしていますし、彼女らの破天荒ぶりに慣れたわたしも実は結構楽しんでおりますが、元々この学校に通っていた皆さんはどう思っているのでしょうか?
『では、今日は魔法使いに効果的なコンビネーションを教えてやろう! まずは瞬き一つの間に間合いを詰めて、すかさず脇腹に左フックを一撃! すると大方の相手は肝臓打ちの苦痛で身体をくの字に曲げるのでな、そこで髪の毛を強く掴んで下方に引っ張りつつ手頃な高さに来た顔面に膝蹴りを一発! これで暗黒の魔法使いとやらも無様に地を這うであろう。余裕があれば膝による蹴り上げと同時に肘の振り下ろしを後頭部に決めてやれれば更にグッドだ!』
まあ実戦的かつ実用的ではあるのでしょう。
魔法学校で教えるべき内容なのかは分かりませんが、逆らったり逃げたりしたらどうなるかは初日のうちに骨身に刻み込まれていますし、数日経った今では誰もが素直に言われた通りにしています。
「先生、質問です! 今の技をやろうとした相手の髪の毛が、ええと……涼しげなヘアスタイルの人が相手だった場合はどうしたらいいですか?」
『くくく、よい質問だぞ委員長。敵がハゲだった場合は髪を掴むのに比べホールドが弱くなって追撃から逃れられる可能性が僅かなり高まるが、そういう時は左右から両耳を思い切り挟むような形で打って鼓膜破りを狙うなどするのが効果的だ。では、二人一組になってスパーリング始めい!』
ちょっと馴染みすぎな気もしますが、まあ熱心なのは悪いことではないはずです。
真面目な優等生といった印象だったソフィさんなどは、その真面目さを妙な方向に発揮して、徒手格闘で敵を制圧するノウハウを着実に吸収しておりますし。
「このっ、くっ、動きながらだと強化が途切れる!」
「あ痛ぁっ!? 腹斜筋の鍛えがまだ甘いか!」
「へへっ、あえて自分から当たりにいって額で受けてやったぜ!」
他の皆さんに関しても大なり小なり似たようなもの。
なんというか、若い人の順応性ってすごいですねぇ。
いえ、わたしも同じ年齢ではあるんですけど、元から魔法に馴染んでいた皆さんは早々に異世界式の魔法やバイオレンスな授業への順応を進めているようです。あるいは一種の現実逃避や集団洗脳という線もあるかもですが。
わたしはまだツルギ様から教わった瞑想や体操をやりながら、魔力とやらを感じ取る初歩の段階で早々につまづいているのですが、他の方々はあっという間に例の身体強化術を覚えて元気いっぱいに跳んだり跳ねたりしています。
「ホウキで飛ぶのも良いけど、自分の脚で二階の教室くらいまで跳べるってなったら楽しくなってきちゃって」
「そうそう、素手でデカい岩を割ったりすると強くなった実感あるよな」
「正直、最初は夜中のうちに脱走しようかって思ってたけど残って良かったね」
明らかにフィジカル偏重の異世界魔法は、彼ら彼女らにとって大変に興味深いものだったのでしょう。わたし以外のクラスメイトは座学の授業が始まってからの一日か二日で身体強化を体得し、今では授業時間外ですら校庭や廊下をビュンビュン走り回っているくらいです。
速く走れるようになったり重い物を持てるようになったのが楽しいのか、放課後になると校庭でスポーツや筋トレなどに励む学友の姿も頻繁に見るようにもなりました。なお、これが魔法学校として相応しい光景なのかについてはノーコメントとさせていただきます。
「皆、すごいですねぇ。わたしも本当にあんな風になれるのかな?」
ちなみに、わたしと同じく初心者コースから始めたドラゴロウさんは、その人間離れした才能により一日で通常コースに合流。一人だけ落ちこぼれている身としては複雑な状況ですが、幸いなことにクラスの皆さんは優しくしてくださいます。元々の彼らの性格もあるのでしょうが、これについては主にわたしの地味な特技のおかげでしょうか。
『みんな! やっと翼が治ったから約束通り背中に乗せてあげるね!』
「ええと……サヤさん、ドラゴロウさんは何と?」
「はいはい、通訳ですね。翼が完治したから希望する人を背中に乗せて飛んでくれるそうですよ」
「あら、それは楽しそう。サヤさんが竜語が分かって助かりましたね。ほら、先生に通訳をお願いするのはちょっと怖いですし……」
こちらの主観的には最初から普通に喋っているだけだったので気付くのが結構遅れてしまったのですけれど、どうもドラゴロウさんの扱う竜独特の言葉は他の生徒さんには分からないらしいのです。わたしの耳には厳つい見た目に似合わぬ少年のように聞こえる声も、恐ろしげな唸り声としか思えないとかどうとかで。
上級生が教わる魔法生物学とやらの先生や校長先生は竜語を解していたので、わたしのようなインチキを用いずとも努力によって習得可能な知識の類だとは思うのですが、普通はこんな近い距離でお喋りに付き合ってくれるドラゴンなんてまずいません。そもそも学ぶための練習をすること自体が難しいジャンルなのでしょう。
「はーい、順番に並んでくださいね。それじゃドラゴロウさん、どうぞよろしく」
『うん、まかせて!』
ともあれ、ドラゴン相手の通訳という一芸のおかげでクラスの輪にも幾分か馴染めてきました。慣れない分野の勉強や過剰なまでにフィジカル特化の訓練は大変ですが、それでも半月ほども繰り返していると僅かなり慣れてきたように思えます。
当初の目的の一つであった昼夜逆転生活の矯正もできましたし、同年代のお友達と仲良く過ごす生活は良い意味で大変に新鮮なものでした。率直に言って、この学校での暮らしは非常に充実したものだったのでしょう。
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さて、そんなある日のことでした。
『くかかっ、喜べ生徒共! 今日は遠足に行くぞ!』




