88.魔法学校のラスボス様⑤
神様の気紛れに巻き込まれた皆さんには気の毒ですが、ともあれ我々のスクールライフは本格的に始まりました。初日はクラスの大半が失神するまで走らされた影響で、ちゃんとした授業と呼べるものを受けられたのは翌日以降になってからでしたけど。
『やあやあ、ごきげんよう諸君! この時間はこの私、ツルギ先生がキミ達にとっては未知の技法ということになる異世界式の魔法を教えてあげよう!』
教壇の上にポツンと置かれた剣が喋る光景は、不思議な現象に馴染みのある皆さんにとってもなかなか奇妙に感じられるようでした。元々、魔法なんてまったく無縁の生活をしていたわたしでもすっかり慣れたくらいですし、さほど時間を要することなく馴染んでくるとは思うのですが。
それより肝心なのはツルギ様による授業の中身。
昨日の長距離走とは違って教室内だけで完結する座学ではありますし、ひとまずは周囲の皆さんも警戒心を緩めているご様子。窓の外から大きなドラゴンが室内を覗き込んでいるのが気になる人もいるみたいですけれど、そのドラゴロウさんも今や名実ともに我らのクラスメイト。できることなら早めに打ち解けて仲良く過ごしたいものです。
『私の地元とこの世界とでは魔法の方向性が少なからず違うようだけど、生物由来の魔力をどうこうして何らかの現象を起こす技術という点では根本的に同じものだからね。魔力の量や扱う際の感覚は最初からそこそこみたいだし、簡単な術ならすぐ使えるようになるんじゃないかな?』
完全なるド素人にして普通人であるわたしにはピンと来ない部分ですが、一言で魔法といっても別世界同士では少なからず差異があるようで。
とはいえ差異があるのと同じくらいに共通点もあるらしく、最初から多少なりとも魔法に親しんでいた皆さんは、その共通する部分を足がかりにすれば早々にコツを掴めるだろうとのことで……つまり、わたしはそのお仲間には含まれないわけですけれど。
『ははは、安心したまえ。サヤ君にはちゃんと初心者用のカリキュラムを用意してあるからね』
「それはどうも、お手数おかけします」
『それと、そっちのドラゴロウ君の魔力量は先生方と比べても軽く十倍以上あるっぽいけど、魔法として自在に操るのには不慣れだそうだからね。彼もサヤ君と一緒に初心者コースで基礎固めからやっていこうか』
聡明なツルギ様には、こちらの不安など最初からお見通しだったようで一安心。
昨日聞いた限りだと、魔法の習得には特別な血筋や生まれつきの素養が大きなウェイトを占めるということだったので、そういったハンデがどの程度影響するのかは気になりますが。
『この世界だと生まれつきの素養が一定以上ある子達をここみたいな専門の教育機関で伸ばす方針みたいだけど、私の地元じゃあ練習次第で誰でも覚えられる技術ってことになってるからさ。覚えの早さとか、どれくらい高度な術を使えるかに関して才能がモノを言うのは否定しないけど、本気で取り組んだのに全く何ひとつ覚えられないっていう人は滅多にいないからね』
なるほど、それなら大丈夫かな?
わたしがその滅多にいないという極度の落ちこぼれではないという保証はありませんが、まだ何もしないうちにそこまで悲観的になることもないでしょう。それに話を聞いているうちに、どんなことができるようになるのかワクワクする期待感も湧いてきました。
『それじゃあ、そろそろ異世界式の魔法の一発目いってみようか。それは……ズバリ、身体強化! 読んで字の如く、筋力を強めて重い物を持てるようになったり、皮膚を鉄みたいに硬くして攻撃を弾いたりとか、シンプルながら奥深い術なんだよ。あと戦闘になった時も、とにかくパワーとスピードを馬鹿みたいに高めて、敵が何かするより早く殴れば大抵何とかなるからね!』
うーん……魔法という神秘的なイメージに反するフィジカル特化。
腕力が上がるという効果自体は日常の様々な場面で広く役立つ応用性がありそうですが、例として挙げられた使い道が問題です。果たして、これは未来ある若人に伝授してよいものなのでしょうかね?




