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ラスボス様は破壊したい!  作者: 悠戯
第二章『いろんな世界のラスボス様』

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87.魔法学校のラスボス様④


 真っ赤なドラゴンを前にした生徒達は、腰を抜かしたり震えて泣き出したりと酷い有り様でした。わざわざ教材を獲ってくるほどの教育熱心さも、これでは逆効果でしかありません。



『まったく! 勝ち負け以前に、揃いも揃って戦意喪失とは舐めておるのか!』


「だって、ドラゴンなんて勝てるわけないし……」


「そうですよ、僕達まだ学生なのに」


「生きたドラゴンの本物なんて初めて見た……」



 口ぶりからしてラメンティア様は十分に加減したつもりだったようですが、いきなり巨大な竜を相手に実戦形式の実技というのは授業のレベルが高すぎたのでしょう。


 とはいえ、かく言うわたしも偉そうなことは言えません。

 少し前に似たような生物を見慣れていたおかげで逃げたり泣いたりこそしませんでしたが、この細腕であの頑丈そうな巨躯をいくら叩いたところで効果があるはずもなし。かえって自分の手を怪我するだけで終わりそうです。



「でも、わたしも今は生徒ですし……まあ一応。えいっ」



 うーん、手が痛い。

 無駄と知りつつ握った拳でドラゴンのお腹のあたりを叩いたものの、思った通りに自分の手が痛くなっただけ。威力が低すぎたのが幸いしたのか骨折などはしていませんが、これでは何千何万発繰り返したところで結果は同じでしょう。



「というか今気付きましたけど……このドラゴン、いつの間にか大人しくなってません? 連れて来られてすぐの時はパニックになって暴れてただけなのかな?」



 殴った後で気付くというのも間抜けな話ですけれど、さっきまで暴れていたドラゴンは今では子猫のように身を丸めて身体を地面に横たえています。そういう姿勢でなければ、そもそも体格差のせいでお腹に手が届くことさえなかったはず。

 身をギュッと縮めたまま小刻みに震えているのは、いきなり襲われてここまで攫われて来られたことへの恐怖心が原因でしょうか。



『ひいっ、今誰か触った!? それより、ここどこ!? 怖いよぅ……』


「あら?」



 なにやら聞き覚えのない声がすぐ近くから。

 その内容からするに、目の前のドラゴンのものでしょうか。

 以前に見た竜達は言葉らしきものを喋ってはいませんでした……単に話すよりも早く息の根を止められていただけかもしれませんが、そもそもの前提として似てはいても違う世界の生き物なのです。もしかすると、この世界のドラゴンは言語を操る知性があるのかもしれませんね。



「あのぅ、もしもし? わたしの声が聞こえますかね?」


『あれ、声が聞こえる? もしかして、目の前の人間のヒト?』


「ええ、そうですそうです。その人間のヒトです」



 幸い、あちら側にコミュニケーションに応じる意思があったようで一安心。それはそうと「人間のヒト」って表現は、なんだか「頭痛が痛い」みたいですねぇ。



「それで分かる範囲で疑問にお答えしておきますと、ここは魔法使いの子供が通う魔法学校ですね。わたしも今日入学したばかりですし、具体的にここで何をやってるのかとか、あと地理的にどこの国のどこどこ地方にあるとかは全然知らないんですけど」



 そして不幸にも悪の神様に目を付けられてしまった貴方は、授業のための教材としてここまで攫われてきたのです……と、正直に全部言ってしまっていいものかは迷うところです。まあ誤魔化したところで遅かれ早かれ知ることになるでしょうし、言っちゃいましたが。



『そんな、ひどい……ただ巣穴でお昼寝してただけなのに』



 ええ、まあ、それはそうなんですけど。

 意外と理性的なドラゴンさんだったせいもあってか、わたしも話しているうちに可哀想に思えてきました。このあたりは最初から人間を襲う怪物として設計された、ゲームモチーフの世界の怪物との違いでしょうか。



「ラメンティア様……可哀想ですし、逃がしてあげません? ほら、授業に使う教材や課題としては高度すぎて生徒さん達のレベルと合ってないみたいですし」


『やれやれ、サヤは甘いな。だが、却下だ!』


「却下ですか……じゃあ、仕方ないですね」


『そんなっ!? 諦め良すぎない!? もうちょっと粘って!』



 なにしろ巫女の身で仕える神様に逆らうわけにもいきません。

 駄目元で伺いを立てた時点で、同情分の義理は果たしたということで。



『今はレベルに見合わずとも、一週間もあればちょうど良い程度になるであろう。その時に改めて新しいのを捕まえに行くのは面倒だ』


『そ、そんなぁ……』



 生徒の皆さんは今は遠巻きに我々を囲んで恐る恐る様子を見ているようですが、これが数日だけでドラゴンさんと戦えるように仕上がるのでしょうか。まだ教育らしい教育を何もしていない新任教師の指導力については何とも言えませんが。



『それと、ついでだ。おい、ドラ公』


「……えっと、呼ばれてますよ、ドラゴンさん?」


『えぇっ、ドラ公ってぼくのこと!? ぼくにはちゃんとドラゴロウって名前が……』


『そんなもん知らん。で、ドラ公。生徒連中が仕上がるのをのんびり待っているだけなのも退屈であろう。そこで、この神が貴様もガキ共と一緒に鍛え上げてやろう。光栄に思うがよいぞ! おい、校長。こやつの入学手続きも済ませておけ!』


『そんな勝手な……』



 ドラゴンさん改めドラゴロウさんも何故だか新入生仲間ということに。

 これには校庭のベンチの陰に身を潜めていた校長先生も苦笑いを浮かべていますが、攫われて来た当初のパニック状態を脱した後は見た目に反して大人しくしていますし、学校の敷地内で暮らすこと自体に大きな問題はないでしょう。サイズ的に教室に入るのは無理そうなので、座学の授業は開け放った窓越しに受けることになりそうですけど。



『では授業を再開するぞ!』



 急遽、授業内容の変更および新入生を迎えるアクシデントはありましたが、そんな程度で自分を曲げるラメンティア様ではありません。授業の難度をいくらか易しいものにした上で、生徒達の弱みを的確に補う方向で考えたようです。



『貴様らは戦いに臨む心構えがなっておらぬゆえ、まずは強靭な精神力を養うべく走り込みから始めるぞ。魔法使いもまずは体力! 十分な体力があれば大抵のことはなんとかなる。なんとかならんかった奴は体力が足りなかったに過ぎんのだ! というわけで、今から校庭百周! ほれ、ドラ公。貴様が一番後ろから前の者を追いかけてやるようにすればやる気も出るであろう。くかかかっ、モタモタしておったら踏み潰されるぞ!』



 言うまでもなく、逃げようとすれば竜より恐ろしい先生の鉄拳が飛んでくるわけで。何人かの生徒は魔法で呼び出したと思しきホウキに乗って空を飛んで逃れようとしていましたが、即座にホウキを真っ二つに折られた上で頭にゲンコツを落とされていました。


 こうなっては、ドラゴン含む生徒達は悲鳴を上げながらも死に物狂いで足を動かすほかなし。他人事のように言ってはみましたが、当然わたしもその例外ではありません。


 やがて体力が尽きて失神した者が一人また一人と倒れ始め、授業の終了を告げる鐘が鳴った頃には校庭はすっかり死屍累々といった有り様になっておりました。



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