85.魔法学校のラスボス様②
我々がこの世界に来たのは今から二時間ほど前のこと。
そこから何がどうなって転入生やら新任教師やらになる流れとなったのか、まずはそのあたりのおさらいから入りましょうか。
◆◆◆
ギャンブルに明け暮れた都市を離れて新たな世界に。
そうして飛び出した先は、周囲のどこを見渡しても木しか見当たらない山奥でした。いえ、そう断定するのは実は不正確というか、少々ややこしい事情があるのですけど。
「今回もまずは近場の人里を目指す感じですかね? このくらいの森ならバイクで走れないこともないでしょうし。今回は道路も見当たらないですから、どっちを目指して走ればいいのかは分かんないですけど」
『サヤよ、寝ぼけておるのか? 人里というか人が大勢いそうな建物なら、すぐ目の前にあるではないか』
「はい?」
『はて?』
この世界に来て早々、わたしとラメンティア様とで周囲の光景に対する認識に齟齬があることに気が付きました。わたしの目には木々が茂るばかりの山林に見えていたのですけれど、ラメンティア様には最初から石造りのお城に似た大型建造物が見えていたらしいのです。
『ああ、はいはい。部外者の認識を誤魔化すタイプの結界がここら一帯に張ってあるっぽいね。サヤ君みたいに魔法に馴染みのない人が、建物の存在に気付けなくなる感じのやつ』
『ふむ、言われてみればそんなのがあるな。効果がショボすぎて逆に気付かんかったな、逆に。どれ、それじゃ特に意味もなくグーで殴って破ってみるとするか。フンッ』
その原因に関しては、ツルギ様によって一瞬で解明。
そして次の一瞬で、その結界とやらの破壊まで完了しました。
もう慣れっこになってきましたが、恐ろしいまでのスピード感です。
「うわ、びっくり! こんな大きい建物がこんな山奥にあったんですねぇ。なんで姿を隠してたんでしょう?」
『さっきみたいな結界があったってことは私が知る魔法と同じか、それに近い技術を有する個人や集団が利用してる施設なんじゃないかな? で、そういう異能力は基本的に社会から秘匿する方針だから……みたいのが割とよく聞くパターンかな? いや、さっき来たばっかりだし実際のところはまだ分かんないけどね』
『ところで、これは今思い当たったのだが、その大事な結界をこうしてブチ壊してやったのだ。順当に考えれば侵入者の排除目的なり新たな結界の張り直しなりで、ここを管理しておる者がそろそろ顔を見せるのではないか? 細かい事情は、そやつらを締め上げて吐かせれば大方分かるだろう』
これまで不思議な現象も色々見てきましたが、ただの森だと思っていた場所にいきなり大型建造物が現れるというのはなかなかのインパクトがありました。
ところで、この建物はいったいどういう性質のものなのでしょう。
一見するとお城のようではありますが、王族が住んでいて国の運営に関わるお仕事をするような施設であれば、治める対象に当たる国民が住む街がセットになっていないのは些か不自然。
お城の中にはより軍事施設としての性格が強いモノもあるはずですし、戦時の軍事拠点として考えるなら人里から離れた山奥にお城だけがあるのが絶対にあり得ないとまでは言えませんが。
『ふむ、かなりの数の気配を感じるが……声や体格からして大半は子供のようだ。どうやら、ここは学校のような場所らしいな。どれ、そういうことなら折角だしアレやってみるかアレ。クラシックなヤンキー漫画でたまに見る、暴走族が敵対するチームの奴が通う学校の校庭にバイクで乗り込んで一般の生徒に絡んだりしながら挑発するやつ』
『うんうん、「そういうことなら」の前後で理屈が全然繋がってないのがグッドだね。少なくとも、来るかどうかも定かじゃない出迎えを待つよりも確実ではあるだろうし』
このあたりのお二人の会話は横で聞いていても大半意味が分かっていませんでしたが、一応の方針は決まったということなのでしょう。お世辞にも平和的とは言えない方針のようですが、そもそも悪の神様に穏当さを期待するほうが間違いということで、ええ。
そうしてバイクに跨った我々は、たまたま近くにあったからという理由で推定学校施設へとカチコミをかけようとした……その寸前で。
「ほっほっほ、元気が良くて結構ですが、しばしお待ちを。その凄まじき神気、さぞ名のある神様とお見受けいたしますが?」
いったい、いつの間に現れたのやら。
エンジン音を響かせるバイクの目と鼻の先の距離に、豊かな白髭を蓄えたトンガリ帽子のお爺さんが出現していたのです。少し前のゲーミリア様の世界でも似たような服装の人を何度か見かけましたが、魔法使いというのはこういう感じの格好を好む方が多いのでしょうか。
恐らくは、これから乗り込もうとしていた学校の関係者と思しきご老人。
まだこちらが話す前からラメンティア様の正体を見抜いたあたり、如何にも只者ではなさそうな風格です。それでバイクのすぐ前に立っている彼に対するラメンティア様の反応はというと、
『おっと、アクセルが滑った!』
「うおおおっ!?」
いつもの悪戯心が出たのでしょうが、躊躇うことなく前方に向けバイクで突進。
まさか轢かれるとは思っていなかったお爺さんは、それでも高齢とは思えない見事な反射神経と身のこなしで咄嗟に横っ飛びに転がって不意討ちを回避しました。
『ほう? 思ったよりやるではないか、ジジイ。上手く避けられた褒美に先程の問いに答えてやるが、如何にも悪は偉大なる神である。で、ここはどこで貴様は誰だ?』
お爺さんが避けられずにそのまま轢かれていたら、どうする気だったんでしょうね。
それはさておきこちらのご老人、実は魔法学校の校長先生だったそうで。
彼からこの世界および学校についてのお話を伺う流れの中で、ツルギ様がこの世界特有の魔法に興味を示したり、逆に校長先生が異世界の魔法について知りたがったりで意気投合&利害が一致。
ついでに最近の昼夜逆転生活を正してわたしに健康的な生活をさせるのに寮暮らしは都合が良いだろうとのことで、我々のことを臨時の体験入学生や特別講師として校長権限で受け入れて下さったというのが大まかな事情でありましたとさ。




