81.賭博破壊録サヤ⑤
まあ、こうなってしまった以上は仕方ありません。
とりあえずは出来る限り健闘する方向を検討すると致しましょうか。
「おおっとォ、命が懸かった勝負を前にしてこの落ち着きぶり。これは天才少女の余裕の顕れかぁーー?」
いつの間に天才になったんですかね、わたし?
挑戦者があんまり弱いと周りのお客さんが興醒めする上に賭けが成立しなくなってしまいそうですし、一応は中立の司会者さんとしては事実無根だろうが肩書きを盛って少しでも勝ち目があるように見せたいのでしょうか。
では、こちらもなるべく場が盛り上がるよう勝負に集中するとしますかね。
この地下クラブはちょっとした広場くらいの面積が背の高い金網で仕切られていて、その中にはわたしと対戦相手の方と司会者さんの三人だけが入って勝負を行う形となるようです。いったいどんなゲームをやるのかは未だ明かされていませんが。
ラメンティア様とツルギ様は、金網内にいるわたしから見てちょうど真正面あたりに陣取っているご様子。こちらの気を知ってか知らずか、まだ勝負が始まる前から楽しそうに笑っています。
「ふっ、まさか子供が相手とはな。お嬢ちゃん、無事にお家に帰れるよう早めのギブアップをオススメしておこう」
「はあ、そうですか。お気遣いどうもです」
対戦相手となるのは、恐らくは隻眼なのか片目を革の眼帯で覆ったダンディな中年男性。この秘密の賭場においてはなかなか人気のあるプレイヤーのようで、周りの客席から彼を応援する声がチラホラと聞こえてきます。
こんな場所で顔が売れているということは、危険な勝負に臨んだ経験は一度や二度ではないはず。ギャンブラーとしての実力も確かなものなのでしょう。
あれこれ観察していると、いつの間にやら勝負の支度も整ったようです。
目の前のコレの何をどうすれば勝ちになるかは分かりませんが。
「それじゃあ、ご注目! いよいよ今夜のゲームを発表するぜェェ! その名も……『狂気的ティーパーティー』!」
昨日と同じスロットやルーレットだったら新しくルールを覚える手間がなくて楽だったのですが、司会者さんが告げたのは生憎とわたしの知らない未知のゲーム。
相手の人だけが慣れてるゲームだと困るなぁと不安になりかけましたが、幸いその心配は無用。続く説明を聞いた限りでは、この秘密クラブにおいては毎回新しい種目が用意されるため、いずれか一方のプレイヤーだけが熟練しているがゆえの不公平というのはないそうで。お客さんの飽きを防ぐ目的もあるにせよ、品性や良識とは無縁の集まりなのに変なところでフェアですね。
「さて、お茶会の準備ができたところで『狂気的ティーパーティー』のルールを説明するぜェ! プレイヤーの二人は、ここに用意された茶菓子を交代で一つずつ食べていくッ! ただしッ、この美味そうなケーキやクッキーのうち半分には恐ろしい猛毒が仕込まれているのさァ!」
ははぁ、そういうことでしたか。
ここのスタッフらしき人達がお茶とお菓子が乗ったテーブルを運んできた時は不思議でしたけど、どうやらそういう事情だったようです。
「どれに毒が仕込まれているか見た目や匂いで事前に察知するのは不可能ッ! そして毒の強さには二種類あり、弱い毒なら体格次第で三つ四つまでは耐えられるが、一つだけある強い毒に当たれば一口で血ヘド吐いて即死確定ッ!」
当然といえば当然ですけど、人体の毒物への耐性というのは体格の大きさによって多少の違いがあるわけで。本来、子供のわたしにとっては不利なルールと言えるでしょう。
お菓子の種類は様々ですが、その数は全部でニ十個くらい。
うち十個が毒入りで、その中の一つが常人なら即死の猛毒。
まあ、それはともかくとして、途中でお腹がいっぱいになって食べられなくなったら試合放棄で敗北の扱いになりそうです。腹具合を計算して、なるべく小さめのお菓子から取っていったほうが良いかもですね。
「これだけじゃあ単なる運任せの勝負……だがッ、このお茶が解毒剤になっていて毒の効果を腹の中で打ち消せるのさァ! その解毒効果は、カップ一杯でおよそ弱い毒の菓子二個分! もちろん、即死しちまったら解毒も何もないけどなァ!」
席の両側に置いてある小さめのティーポットのサイズからして、解毒剤を使えるチャンスは各自二回までといったところでしょうか。このお茶をどういうタイミングで飲むのかに、このゲームの駆け引きの妙があるようです。
「ルールの説明は以上だッ! さあ、どっちが勝つか賭けた賭けたァ!」
◆◆◆
まあ、普通に勝ったんですけど。
ベリーの乗ったタルトが特に美味しかったです。
「おおっとォ! まさかの大番狂わせ! 可憐なる天才少女サヤが、毒の影響をまるで感じさせない完璧なるポーカーフェイスで終始圧倒! 中盤で解毒剤を使い切った眼帯野郎が毒の蓄積に耐えきれず倒れたのに対し、未だ苦しげな表情をまったく見せていませんッ!」
いや、実は結構苦しかったんですけどね。
なるべくサイズが小さいのから取っていくつもりだったんですけど、まだ食べたことのないケーキとかプディングとか美味しそうなのについ手が伸びてしまって。幸い、無味無臭の毒だったのかお菓子の風味を邪魔したりもしてませんでしたし。
そうやって食欲と好奇心に任せて食べたい物を取っていったせいか、最後のほうはもうお腹がパンパンでした。自分自身こそが最大の敵だったというわけです。
「正直、そんなのあったなって感じだったけど……」
無論、わたしの勝利は高度な駆け引きの結果などではないインチキによるもの。
未知の言語が分かるようになるのに比べたら地味な上に普段使いどころもありませんし、自分でもついさっきまで存在を忘れかけていたくらいでしたが……なんと、わたしは『毒無効』なる地味超能力を持っていたのです。
なので、ゲームのルールを聞いた時点で勝利を疑う余地はほとんどありませんでした。自分が食べたのが毒だったのか無毒だったのかも分かりません。
一応、最初の二、三個あたりまでは、能力がちゃんと効果を発揮するのか少し怖くはありましたけどね。
「対戦相手の人、大丈夫ですかねぇ?」
担架で運び出されていった時は弱々しくも動いていましたし、最後まで即死毒を引いていなかったのは流石の勝負運。あの運の強さなら、多分治療が間に合うんじゃないでしょうかね。
「さあさあ、最年少勝利者にインタビューだッ! ズバリ、勝利の秘訣は!」
「ええっと、そうですねぇ……」
もう勝負も終わったことですし早々に退散したかったのですが、不本意ながら周囲のお客さん達の注目を一身に集めてしまっている状況。これに答えないことには帰してもらえないでしょう。
とはいえ、地味超能力の件を正直に話すのが不味いというのは流石に分かります。ある意味、ここが一番の難関だったかもしれません。
「多分、神頼みが通じたんじゃないですかね?」
なので、こんな風に誤魔化しておきました。




