80.賭博破壊録サヤ④
少し時間が飛んで翌日の夕方頃。我々は昨夜のカジノ近くにあるブティックにて、楽しくショッピングなどしておりました。
「ど、どうです? どこか変じゃないですか?」
『いやいや、ちゃんとサヤ君に似合ってると思うよ。そのうち社交界デビューなんてしたら、近い年頃の男の子達が放っておかないんじゃないかな?』
「えぇ!? そういうのは、わたしにはまだ早いんじゃないかと……っ」
これまでは地元世界の王都で購入した古着をほとんどずっと着通しでした。
一応、翌朝までに乾くよう計算した上で夜中のうちに洗濯したり、あと冬山でそのままの格好は厳しいものがあったので、反社会的勢力の皆さんを襲ったついでに大人用のブカブカのコートを拝借したりは必要に応じてしていましたが。
それがここにきて初めて、自分用の新品の服を手に入れることができたという次第でございます。それも見るからに洗練されたデザインのパーティードレス。サイズ的に子供用なのは仕方ないとしても、ただ袖を通しただけでも正直かなり気分がアガります。
『私も詳しく聞いたわけじゃあないけど、支配人君の話だと今日行くカジノは昨日と違ってドレスコードがあるらしいからね。これなら少なくとも門前払いされることはないと思うよ』
「ドレスコードですかぁ……やっぱり、お金持ちの社交場みたいな感じなんですかね?」
本日は昨夜とは別の特別なカジノに繰り出す予定だそうで。
昨日の可哀想な支配人さんのコネと伝手を駆使して、ラメンティア様が入場の許可を取り付けさせたと伺っていますが、それ以上のことはまだ何も聞いていません。
これまでの人生であまりに縁がない世界すぎて、イメージしようにも上手くできないというのが正直なところです。ドレスコードが存在するような会員制の賭場ということで、お金持ちの人達が優雅に過ごす上品なサロンのような空間を漠然と想像してはいましたが。
『おお、サヤも支度が済んだようだな。眠気は大丈夫か?』
「はい、言われた通りにお昼寝しておいたので」
『うむ、結構。この店の前まで支配人に送迎の車を回させておいたのでな、ちと早いがそろそろ現場に向かうとするか』
ブティックに入った時はまだまだ明るい時間帯でしたが、退店時には夕日がビル群の向こうに沈み始めていました。多くのカジノにとっては、これからの時間が一日の本番でしょう。果たして、この宵闇が明ける頃にこれから向かうカジノが原型を留めているのでしょうか。
◆◆◆
……なるほど、たしかに会員制の特別な賭場ではあるのでしょう。ただし、わたしが想像していたような上品な雰囲気とは大幅に方向性が違ったみたいですけれど。
「レディィィィィス&ジェントルメェェェェン! 血と狂気に飢えた紳士淑女の皆々様、長らくお待たせいたしましたァァァァ!」
都市内某所、とある廃ビルの地下に設けられた秘密クラブは満員御礼。司会者さんの口上に煽られてか、まだ勝負が始まってもいないのに客席から凄まじいまでの熱気を感じます。
「うおおおお、殺せぇぇぇぇ!」
「早く! 早く血を見せてくれぇ!」
「ぐふふ、今日の挑戦者はどんな死に顔を見せてくれるかのぉ……」
お客さん達の身なりからして、なるほど、たしかに裕福な方々ではあるのでしょう。残念ながら、いくら財力があっても品性を購入することは難しかったようですが。多分、品切れだったのでしょう。
『くっくっく、品行方正な一般人向けのカジノもあれはあれで良かったが、やはり賭場というのは命をチップ代わりにするくらいでなければな!』
「ははぁ、この盛り上がりようはそういうことでしたか……」
『賭博が盛んな都市であれば、裏社会の者が仕切るこの手の集まりがあるだろうと思っていたのだ。あの支配人はこれまで極力こういう連中と関わらぬようにしていたらしいがな。それでも広い意味での同業ゆえ、伝手の心当たりくらいはあったというわけだ』
ただ単にこの場所を探し当てて居合わせた客や運営側の人間を襲ってお金を奪うだけなら、うちのラメンティア様なら造作もないことでしょうけど、強盗ではなくプレイヤーとしての参加が目的なら相応の手順を踏まねば難しい。
昨日のカジノでの空前絶後の大勝ちをほとんどチャラにする条件が、この危険な場所に参加するための情報の提供および口利きだったというわけです。
まあ、それだけなら別に大した問題でもありません。
うちの神様の反則的能力をギャンブルに応用した場合の威力は昨夜のうちに実証済み。それ以前に、この賭場を仕切っている人達の用意できる手段ではラメンティア様に傷ひとつ付けるのすら不可能でしょう。
全然心配なんて要らなかったはずなのです。
プレイヤーとして参加するのがラメンティア様であったのならば、ですが。
楽しめるのか気分を悪くするだけかは実際見るまで分からないにせよ、わたしとしては安全な客の立場から悪趣味な催しを気楽に眺めているだけのつもりだったのですけれど……。
「では、本日の挑戦者を紹介いたしまァァァァす! なんと、当クラブの歴史上最年少プレイヤー! 最年少の挑戦者は最年少の勝利者となって生き残れるのか!? 可憐なる美少女博徒ォォ……サヤァァァァ!」
「あ、どうもです。どうもどうも」
こんな大勢の前で可憐だとか美少女なんて言われたら照れちゃいますねぇ。看板負けして皆さんをガッカリさせずに済めばいいんですけど……いえ、問題はそこではありませんでした。
命をチップ代わりにするらしい死のギャンブル。
わたしの素の実力と運だけで勝負したらあっさり負けて死んでしまうのは今から目に見えておりますが、はてさて本日の神のご加護は如何なものでしょうか?




