79.賭博破壊録サヤ③
『ああ、あれか? あんなもん特殊能力でもなんでもないぞ。普通にボールの動きを見切って結果を予測したに過ぎん。一定以上の使い手とガチ戦闘やる時はお互いが未来予知に等しい精度の予測をできるのが最低限のハードルであるし、それと比べたらあの程度は児戯に等しいわ』
ルーレットの種明かしについては以上だそうで。
以上というより異常と言うべきところなのでしょうけれど、特に超常的な不思議能力など使っていない以上は、やはりイカサマには当たらないと考えるのが妥当でしょうか。
「ところで、このチョコレートケーキ? これ美味しいですねぇ。ほら、前にどこだかの女神様からカツアゲした不思議パワー入りのコインに似た味がします」
『そういえば、そんなこともあったな。おいウェイター、ケーキのおかわりだ! ホール丸ごと持ってくるがよい!』
スロットに続いてルーレットでも大勝した我々は、現在カジノ内の一角にあるラウンジで休憩および次の勝負に臨む前の準備中。お茶やお酒や簡単な食べ物などを頂けるスペースは、普段ならきっと和やかな雰囲気で楽しめる場所なのでしょう。
けれども、現在は妙に緊張感に満ちているというか、好奇と不安の入り混じった視線を感じるというか……まあ不本意ながらも天才ギャンブラー少女としての名声を得てしまったわたしが一因なのだと思われますが。
『そんなことより、サヤ。渡した本には目を通したか?』
「はい、一応は。あんまり自信はないですけど……」
次の狙いは手札を交換しつつ役の完成を目指すカードゲームだそうで。
これまでのスロットやルーレットはぶっつけ本番でもできなくはないシンプルな遊びでしたが、より複雑なルールのゲームとなれば役の完成形を把握すらしていない状態では流石に厳しい。そんなこんなで、こうしてお茶とお菓子を頂きながらカジノ内の売店で購入したばかりの初心者向けルールブックに目を通していたという次第です。
『くくく、続けて二回も大勝ちしたせいかカジノの連中が明らかに警戒しておるな。大方、こちらが何かイカサマでもしているのではないかとつまらぬ疑いを持ち始めておるのだろうが』
「なにせ、わたしですら気付くぐらい視線を集めちゃってますからねぇ」
ビギナーズラックという現象の実在性は存じませんが、仮にそんな初心者限定のボーナス期間があるとしても普通は一回限り。そう何度も連続で起きるものではないでしょう。
今現在わたしは二回連続で勝ったわけですが、多分カジノ側の感触としては純然たる幸運によるものかどうかギリギリ断定できないでいる、くらい。もうあと一回でも同じような大勝ちを重ねたら、たとえ具体的な不正の指摘はできずとも『何か』しているという確信に至るものと思われます。
『もしくは、純粋にサヤのことを神懸かった腕前と幸運の持ち主と思うかだな。腕前はともかく、ある意味神懸かり的であるのは間違いないがな』
「ですねぇ。ありがたや、ありがたや」
これも一種の神の加護と言えるんですかね。
ちょっと直接的すぎる気はしますけど、まあ頼もしいことに違いはありません。
さて、いつの間にやら目の前の食べ物も綺麗さっぱり食べ終えたことですし、ぼちぼち次のゲームへ向かうことにしましょうか。
◆◆◆
「本当にいいのかなコレ? あ、交換はなしでいいです、このままで。はい、手札オープン……えっと、たしかロイヤルストレートフラッシュ、で合ってます?」
相変わらず、わたし自身には勝負をしたという実感すらありません。なにしろ、こちらはディーラーさんが配ったカードを一度も交換すらしていないのです。
初心者向け教本曰く、このポーカーなるゲームには色々な種類があるようですが、今回遊んでいるのは客同士でチップの奪い合いをするタイプではなく、胴元となるディーラーを相手にするタイプ。ちなみにここのカジノのハウスルールだと、ロイヤルストレートフラッシュは賭け金が元の八百倍になる設定だそうです。
「お、おお、おおお客様……大変失礼だとは存じておりますが……」
『やれやれ、イカサマ対策の身体検査か? サヤ、ちと付き合ってやれ』
案内された別室にて女性スタッフによる身体検査を受けるも、当然ながらイカサマの痕跡など一切ありません。どうせラメンティア様が何かしたのだとは思うのですが、勝負の席に着いていたわたし本人はその『何か』の正体すら知らないのです。
「お客様、誠に恐れ入りますが……実はですね、その……」
『おお、支配人か。くくく、なにしろ前のルーレットで勝った分を全部突っ込んだからな。どうせ、カジノの支払い能力を超過して配当を払うに払えないというあたりであろう?』
「仰る通りでして、はい……」
可哀想に、支配人さんは今にも泣きそうな顔をしています。
ここまでの勝負の模様は散々に他のお客さんの注目を集めてもいました。
いくら客の一人が大勝ちしたからといって、強引にこちらを脅して黙らせ勝負自体を無効にするような反則も、今後のカジノ経営を考えるなら良い手とは言えないでしょう。まあ、それは元より不可能かつ最悪の選択ではあるにせよ。
いったいうちの神様はどうするのかしら、とラメンティア様と支配人とのやり取りを他人事のようにボンヤリ眺めていたのですけれど。
『まあ、悪も別にここを潰したいわけではない。そうだな、全部とはいかぬが、最初のスロットで勝った分以外は返してやってもよい』
「ほ、本当でございますかっ!?」
『うむ、二言はない。悪の寛大さに泣いて感謝するがよいぞ。サヤも構わんな?』
「え、ええ、はい。わたしは別にどうでも」
あれ、妙に優しい?
そう思ったのも束の間。
『ただし、支配人よ。支払いを勘弁してやる代わりに、ちと聞きたいことがあってな? 場合によっては、紹介状の用意なり口利きなりをさせることにもなるかもしれんが』
タダより高い物はない、という言い回しが今回のケースに当てはまるかは微妙なところでありますが。果たして、憐れな支配人さんはどんな無理難題を押し付けられることになるのでしょうか。




