78.賭博破壊録サヤ②
てっきり、わたしが何かやり方を間違えて、スロットマシンとやらを壊してしまったのかと早とちりしそうになりましたが、
「おめでとうございまーす! 当カジノ開業以来初めての大当たりです! あ、申し遅れました。私、ここの支配人でございます」
どうやら、真相はそういうことだったようです。
少なくとも壊れた機械を弁償する必要はなさそうで一安心。
そもそも最低限のルールすら知らない状態でやってみての結果ですし、勝った実感や嬉しさなどよりも周囲からの注目を過分に集めている居心地の悪さが上回るくらいのものですが。
『くかかかっ、いわゆるビギナーズラックというやつであろう。おい、支配人。このコインは現金に換えられるのか?』
「そちらのラッキーなお嬢様の保護者の方でいらっしゃいますか。ええ、もちろん換金可能でございます。コインの量が多いので当方のスタッフにお任せくださいませ」
『うむ、それなら半分は換金して残りはそのままにしておけ。くくく、ツキが残っているうちに勝負を重ねるのも一興だろう?』
「ええ、ええ、仰る通りかと」
当のわたしが狼狽えている間にも頼もしすぎる保護者とカジノの方との間で話は進み、あっという間に拾ったコインが大量の札束へと化けていました。
この世界の金銭価値については未だ分かっていませんが、周囲の皆さんの反応からして相当の大金であるのは間違いなさそうです。ちなみにゲームコインに関しても、先程のと似たデザインながらも一枚あたりの価値が百倍もある色違いのコインになっています。
『とりあえず、今の儲けでここの上階にあるホテルの部屋を十日分ばかり取らせておいたぞ。別にどこでも構わんが、支配人の奴は最上階のロイヤルスイートだとか言っていたな』
「よく分かりませんけど、きっとすごく高いお部屋なんでしょうねぇ」
あれよあれよという間に当面の拠点まで確保できたみたいです。
我々にしては大変に珍しく暴力を伴わず、多分この国の法律にも抵触しない形で足場を固められたのは間違いなく良いことなのでしょうけれど……ここからは周りの皆さんに聞こえないよう声を潜めながら聞きました。
「それで、ラメンティア様? さっきの台で大当たりが来るって何で分かったんです?」
『ああ、そんなことか。なに、周りの連中が遊んでいるマシンの内部構造を視れば、この程度の機械の仕様は大体分かる。あと何回転で当たりが出るか、もな。開業以来初めての大当たりがどうとかは、純然たる悪の幸運によるものであろうが』
遊ぶ台を指定された時点で何かあるとは思っていましたけれど、真相はそんなところだったようです。恐らくカジノのルールにも機械の内側を透視してはいけない等は書かれていないと思いますし、これがイカサマに当たるのかというと多分問題ないわけですが。
『そんなことより、スロットを一回やっただけでは遊び足りぬ。わざわざゲーム用のコインを半分残しておいたことだし、他のやつも色々と試してみるとするか。サヤ、次は何がよい?』
「さっきの一回きりじゃなくて、他のもわたしが担当する流れなんですね……とはいっても、そもそもルールが分かる遊びが全然ないんですけど」
『うむ、ならば最初のうちは比較的シンプルなやつから攻めるとするか。そうだな。あそこのルーレットなどはどうだ? ほれ、ディーラーが落とした球が回転する盤のどこに入るかを当てるゲームだ』
「えっと、じゃあ、それで」
説明を聞いた限り、いくつもの役を覚えないといけないカード遊びなどよりは僅かなりとも簡単そうです。卓の近くで眺めているうちに、どういう手順で賭ければいいのかも何となく分かったように思いますし。
『おっ、ちょうど前の客が一人抜けたようだぞ。おい、ディーラー。この娘がそこに入るが構わんな?』
「どうもどうも、失礼しますね」
ルーレットの仕組みは至極単純です。
基本的には0から36までの数字が書かれた円盤のどこにボールが落ちるかを当てるだけ。とはいえ、確率1/37狙いの一点賭けなんてそう当たるものではありません。
なので、当たった番号が奇数か偶数かであるとか、赤か黒のどちらかであるかとか、あとは1~12、13~24、25~36のいずれかに入るかを選ぶか等々。もっと現実的に当たるであろう賭け方もできるそうです。もちろん当たり確率が低いほどに、当たった時のリターンは大きいわけですが。
「おや、あちらはさっきスロットで大当たりを出していたお嬢さんでは?」
「ははは、ラッキーガールと同じ卓とは縁起が良いね」
「いやぁ、どうも恐縮です……」
先程の大当たりは、やはりカジノ中の注目の的となっていたのでしょう。
こちらは覚えていませんでしたが、さっきの騒ぎの際にわたしの顔を見に来ていたお客さんも少なくないようです。変に注目されても居心地が悪いばかりで全然嬉しくありませんけど。
まあ機械式のスロットマシンならともかく、人の手で球を投げ入れるルーレットならイカサマのやりようはないはずです。ここは適当に負けてさっきの儲けを幾らか吐き出し、程々に注目が減ったあたりで退散すればいいだろうと……わたしにも、そんな風に思っていた時期がありました。
「ええと、それじゃあ適当に……」
『サヤよ、赤30に全部だ』
「あ、えっ」
ディーラーの方が盤を回転させてボールを投入、それから賭けを締め切るまでの短い時間に、ラメンティア様がわたしの耳元でそんな言葉を囁きました。真意を問い質す暇もないまま、半ば反射的に言われた番号に手持ちの全額を入れた結果は……。
「はぁ!? い、いえ、失礼……さん、じゅうばん……A席のお客様に三十六倍の配当です……!」
「はい?」
『おお、また勝ってしまったな! くくく、ビギナーズラックとは恐ろしいものよなぁ』
正直わたし自身は何がなんだかも分かってないのに、同卓で賭けていた他のお客さんや近くで見物していた野次馬までが一斉に歓声を上げました。どうやら倍率三十六倍の一点賭けに勝った……らしいのですが、さっきと同じで勝利の実感は皆無です。
ディーラーさんは顔色を真っ青にしながらも、わたしの手元に大量のコインを寄越してきました。あらかじめ卓内に用意されていた分だけでは支払い額に足りなかったのか、他のスタッフさん達が急いで追加のコインを取りに走ってもいる様子。せっかく一枚あたりの価値が百倍も高いコインに換えたのに、これではまた持ち運びに難儀してしまいそうですねぇ。




