76.ゲームの世界のラスボス様⑨
『いやぁ、残念っすねぇ! あっはっは、うん、残念残念!』
ラメンティア様の言葉を聞いたゲーミリア様は、それはもう満面の笑みで喜んでいました。なにしろ、ちょっと目を離した隙に自分の世界を滅ぼしかねない危険極まる存在が、これでようやくどこかへ行ってくれるのです。
有史以来、間違いなく最大にして最悪の危機をどうにか乗り越えられたとあっては、これほどの喜びようも決して大袈裟とは言えないでしょう。
『くくく、そうかそうか残念か。だが、安心せよオタク。悪は貴様の世界を結構気に入ったのでな、そのうち気が向いたらまた来てやろう。どうだ、嬉しいだろう?』
『そ、そうっすか……あはは、わーい……』
これまで訪れた他の世界でもラメンティア様は毎度楽しんでいたように見えましたが、まだ立ち去る前から再訪を約束するあたり、この世界を特に気に入ったのは間違いなさそうです。
まあ、いつか再び同じトラブルに見舞われるのは間違いないにせよ、とりあえず当分の間は平和が続くはず。ゲーミリア様には心を強く持って頂きたいものですね。
「じゃあ、わたしからも一応。ゲーミリア様、色々とお世話になりました。この世界のアイデアの元になってるっていうテレビゲーム? それはちょっとよく分からないんですけど、それでも楽しかったですよ」
『そっすか。それは……ボクも悪い気はしないというか。正直、ちょっと……結構、でもなくて……ぶっちゃけ、かなり嬉しいっすね。元々は自分が楽しむためだけに創った世界っすけど、それを他の誰かが遊んで楽しんでくれたってのは』
出会いのキッカケこそ非常に困ったものでしたし、その後も大変なことは山のようにありましたが、それでも僅かなりとも迷惑以外のポジティブな記憶がゲーミリア様に残ったのなら幸いですね。
『うんうん、自分のためだけの創作活動もそれはそれで悪いわけじゃあないけど、やっぱり創ったモノが誰かを楽しませる経験っていうのは格別だからね。私にも覚えがあるけど、クリエイター冥利に尽きるというやつさ。ゲーミリア君さえ良ければ、この世界を気に入りそうな知り合いに宣伝してお客さんとして来てもらったりしようか?』
『えっとぉ……興味は大いにあるんすけど、外向けに公開するとなると作り込みの詰めが甘い部分がまだ結構あるのが気になるというか。今のところはお気持ちだけ……』
『そうかい? まあ、無理強いするものでもないからね。気が変わったら次に来た時にでも声をかけてくれたまえ』
『……っす』
ツルギ様の提案には結構迷っている様子でした。
わたし達に関しては突発的なアクシデントみたいなものだったでしょうし、これまで自分が楽しむためだけに創っていた世界を能動的に外の人に見せるとなると、まだまだ抵抗が大きいのでしょう。受け答えの雰囲気を見た限りでは、満更でもなさそうに思えましたが。
ともあれ、この世界での冒険も本当の本当にこれでおしまい。
久しぶりに異空間の収納から取り出したバイクに跨ると、我々はこの世界に来た時と同じように、ラメンティア様が空間に開けた穴へと飛び込んで行ったのでありました。
◆◆◆
そうして飛び込んだ穴の先。
周囲に人影や建物は見当たりませんが、アスファルトで舗装された道路があり、なおかつ等間隔に並ぶ街灯で夜道が照らされているということは、恐らく人類の滅びた無人の世界というわけではないはずです。
とりあえずは道路に沿ってバイクを走らせる流れとなり、なんとはなしに直前までいたゲーミリア様の世界の感想など言い合っていたのですけれど。
『ラメンティア君、今回はいつになく優しかったんじゃない? あのゲーミリア君だけど、能力面は結構高いのに、卑屈で小物っぽい女神ってところに既視感でも覚えたかな?』
『おい、五月蠅いぞ、ツルギ』
優しかった……ですかねぇ?
たしかに見た限りでは直接ゲーミリア様を殴ったり蹴ったりはしていませんでしたけど、行く先々であれこれ壊して散々に苦労をかけていた覚えがあるのですけれど。
それに関しては一旦流すとして、既視感というのはどういう意味合いでしょう。
文脈からするに他に小物かつ有能な神様がどこかにいて、その方とゲーミリア様に似ている部分があったから、うちのボスの当たりも幾分か穏当なものになった……みたいな感じのようですが。
『ははは、サヤ君もそのうち会う機会があるんじゃないかな? ラメンティア君の母親……いや、親かな? 別にお腹を痛めて産んだわけではないからねぇ……なんというか、原材料の生産者みたいなポジションの神様が地元にいてね』
「ラメンティア様のお母さん……的な?」
『そうそう、それ的な』
ツルギ様も言葉選びに迷っているあたり、ずいぶん複雑なご家庭みたいです。一年ちょっと前に生まれた子供が、こうして地元を離れてあちこちの異世界で暴れ回っているあたり、だいぶ荒れ気味な家庭環境を想像してしまいます。
でも、その親御さんに似ている神様への対応が柔らかくなったということは、ラメンティア様もその方を憎からず思ってはいるのでしょうか。そのあたりへの興味自体は大いにあるのですけれど。
『貴様ら、いつまでも下らん話をしているでない! そんなことより、ほれ、遠くに街の灯りが見えてきたぞ。どうやら高層ビルがバンバン建つような進んだ世界のようだ』
唐突な話題の切り替え方に、照れ隠しのようなニュアンスが感じられたのは気のせいでしょうか。直接そのあたりを聞いたら流石に機嫌を損ねてしまいそうなので、今ここでわたしの口から触れることはしませんが。
ともあれ、そろそろ今現在の世界に意識を向けるべきでしょう。
この新たな世界で最初に辿り着いたのは眠ることのない摩天楼。
夜中であっても眩い光に照らされた欲望渦巻く大都市で、いつも通りにラメンティア様が……ではなく。何故かこのわたしが、無敵の天才少女ギャンブラーとして数々のカジノを荒らし回ることになろうとは。




