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ラスボス様は破壊したい!  作者: 悠戯
第二章『いろんな世界のラスボス様』

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75/92

75.ゲームの世界のラスボス様⑧


 主にうちの神様に起因するトラブルは多々ありましたが、その後数日に渡るゲーミリア様の世界での冒険は順調に進んでいきました。


 特に印象に残ったのは、いくつもの世界を経てようやく、生まれて初めて海を見ることができたことでしょうか。地元時代から本で読んだり話に聞いたりして漠然と想像していましたが、絶え間なく打ち寄せる波の音や独特の潮の香りは実際に体験してみないことには分かりません。


 実際、それ自体にはなかなかの感慨があったのですが……。



「うー……あー……わたし、船嫌い……」


『大丈夫っすか、サヤさん? 船酔いを治す用の回復アイテムとか用意しておけば良かったっすかね』


「い、いえ……お構いなく……」



 眺めるだけならさておき、わたしに船旅は向いていなかったようです。

 せっかくの貴重な機会でしたが、ほとんど船室のベッドで横になって唸っているばかり。船員の方のお話だと時間が経つにつれ自然と慣れて克服できるそうですが、今後は可能な限り船での移動は避けたいところです。


 まあ、そんな苦しみも目的地である別の大陸に着くまでのこと。

 よくよく考えてみれば当たり前ですけど、ラストダンジョンのあった最初の大陸は大魔王および配下の怪物の勢力圏内ゆえ、人類は肩身の狭い状態を強いられていたのでしょう。


 そんな物騒な土地から移ってきた新たな大陸は、街中のみならず街の外の街道も常に大勢の人が行き交う賑わいを見せていました。なんでも近隣の国の騎士団が巡回して、人を襲うような怪物や盗賊を定期的に狩っているため安全な行き来ができるのだそうで。



『平和過ぎてつまらんな。前の大陸と違ってモンスターもほとんどおらんし。ところで普段は自分で殴るほうが楽しいので滅多にやらんが、悪は配下となる魔物を自由に生み出して操ったりとかもできるのだ。それで油断しきった連中をちょいと脅かしてやるのはどうだ?』


「どうだ、と言われましても……」



 せっかくの平和が身内のせいで脅かされるところでしたが、そんな風に見境なく荒らし回ったら、あちこちの街や村が警戒態勢に入って観光に支障が出るのは確実。そのことに実行直前に思い当たったらしく、危ういところで世界の危機は回避されました。


 あちこちの街で美味しい物を食べたり、風光明媚な景色を楽しんだり、複雑怪奇な地下迷宮の壁を破って最深部まで一直線に突き進んだり、天を突くような巨塔を根本から圧し折って倒したり。


 ちょくちょく気紛れを起こしては危険な真似をしようとするラメンティア様の気を逸らすのにはゲーミリア様共々に苦労しましたが、不特定多数の民間人を巻き込まずに済んだあたり、我々にしては非常に珍しく平和的な旅路だったのではないでしょうか。

 例のリセットで時間を巻き戻すのは結構疲れるのか、あちこちでの破壊活動の後始末を強いられたゲーミリア様は途中から肩で息をするほどバテバテになっていましたが。


 そんなこんなで新たな大陸を楽しく冒険すること十日ほど。特に明確なゴールを定めず、西へ東へと気の向くままにフラフラしていたのですけれど……。



 ◆◆◆



 ここは先程申し上げた平和な大陸の中でも特に平和な農村地帯。戦いを生業としようと志したばかりの駆け出しが、弱いモンスターを相手に経験を積むのに適した土地だそうで。


 モンスターの持っているお金や経験値とやらは基本的に相手の強さに比例するそうですし、ここらでいくら張り切っても大した稼ぎにはならないのでしょうが、それでも安全に戦いに慣れることができるのは魅力的なのでしょう。

 見るからに安っぽい武具を身に着けた若者達が、へっぴり腰で武器を振り回している光景がちらほらと見られました。


 だから、というわけではないのですが。



『くくく、サヤ、そのまま動かなくなるまで殴るのだ! 頭だ、頭を狙え!』


「分かりました……え、えいっ」



 わたしはそこらで拾った大きめの石をギュッと握り締めると、ラメンティア様に拘束されて動けずにいた大型犬サイズのコウモリの頭に力いっぱい振り下ろしました。


 地元時代に生きた魚やニワトリを刃物で〆たことくらいはありましたけど、撲殺特有の硬い何かが砕けるような感触や湿った音にはゾっとします。ですが、もう殴打(ヤッ)てしまった以上は無駄に長く苦しめないよう少しでも早くトドメを刺してあげるのが情けというものでしょう。


 ガッ、ゴッ、グチャリ。


 追加で三発ほど殴ったら、いよいよ大コウモリの生命力も完全に尽きたようです。

 死ぬと同時に灰みたいになって消えてなくなるのは、瀕死の獲物が一か八かの反撃に出てきたり死んだフリをしている可能性を考えずに済んで幾らか気楽ではありますね。殴打の最中に浴びた返り血も、本体と一緒に綺麗さっぱり消えてくれましたし。



【サヤはジャイアントバットをやっつけた!】


【8ポイントの経験値を手に入れた!】


【10ギョールドを手に入れた!】



 と、ここでお馴染みの声が聞こえてきました。

 最初は戸惑いましたが、なにしろ道中でラメンティア様がモンスターを倒すたびに何百回と流れていたわけで。あれだけ聞けば流石に慣れるというものです。



【サヤはレベルが上がった!】



 おや、これは初めて聞きますね。

 続けて力や素早さが何ポイント上がっただのといった情報も流れてきますが、正直なところ強くなった実感は全然ありません。重い荷物を持てるようになるとか、長く歩いても疲れにくいとかの効果があったら嬉しいのですけれど。



『くかかっ、なにしろせっかくのRPG風味の世界だ。サヤも記念にレベルアップの一つくらい経験しておいても良かろう!』


「は、はあ……お気遣いどうもです?」



 急に目の前の生き物を殺せと命じられた時は驚きましたが、これはもしかして悪の神様なりの気遣いなのでしょうかね。だとすると、あまりにも方向性が物騒ですが、まあ他の世界では絶対できない貴重な経験には違いありません。



『うむ、こんなところか。まだまだ完全に遊び尽くしたわけではないのだろうが、ひとまずはこの世界を一通り堪能したと言ってよかろう。ぼちぼち次の世界に向かう頃合いだな』



 そして、これにてこの世界での旅も一段落。

 名残りは尽きませんが、そろそろお別れの時間がやってきたようです。


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