74.ゲームの世界のラスボス様⑦
『そういえばさ』
ラストダンジョン最寄りのモヨリの街の酒場にて。十人掛けのテーブルを埋め尽くすほどのご馳走をひとしきり堪能したあたりで、ツルギ様がこんな話題を出してきました。
『この世界だとお金って倒したモンスターが落とすものだろう? その場合、造幣って概念は人間社会にあるのかなって』
そこらをうろついている生き物を倒せば、死体を解体したり皮やお肉を売る過程を経ずにいきなり現ナマが手に入るというのは確かに便利ではあるのでしょう。わたしには到底できそうもありませんが、腕っぷしに自信がある人にとっては効率よく稼げる仕事になりそうです。
とはいえ、わたしの知る貨幣経済と比べてヘンテコに過ぎるのは否めません。
そんな風にお金の入手を野生の生き物に頼る世界で、果たして遺漏なく経済活動が回るものなのだろうか。ツルギ様の疑問はそのあたりにあるのでしょう。
『設定上、代々の大魔王がいる間はモンスターの討伐行為が事実上の造幣になるのかもだけど、それだと平和な時代になると貨幣が不足してきそうだし。それともモンスターが落とすのと同じ形状の貨幣を別に造ってたりするのかな? もしくは物々交換でやり繰りするようになるとか?』
わたしの暮らしていた王国ではお金の偽造は死罪相当の重罪だったはず。
他の多くの国でも恐らく似たような扱いだったと思われます。
しかし人の手で造ったお金とそこらの怪物を倒して得たお金の価値や見た目が全く同じなら、贋金の取り締まりというのは事実上不可能ということになりそうです。既知の常識と違いすぎていて単にそういうものとして受け入れてしまっていましたが、どのようにそのあたりを解決しているのでしょうね。
『ふっふっふ、良い質問っす! とは言っても、別に大したことはしてないんすけどね。このあたりヨソの世界の人が聞いて腑に落ちるかは微妙っすけど、ほら、このステータス画面の所持金欄のとこ。どこかの国がボクが教えた手順に基づいて公に発行したお金かモンスターが落としたやつ以外の贋金だと、いくら持っててもこの所持金欄に数字が反映されないんで。で、そんな即バレする犯罪なんて明らかに割に合わないんで自然と誰もやらなくなる的な?』
「ははぁ、このステータスって意外と便利な使い方があるんですねぇ」
『あと貨幣の流通量に関しては、経済活動の様子を見ながら討伐されるモンスターの落とす金額を上げ下げすれば大体なんとかなるんで。まあ、その時々の大魔王の方針によっては自軍のモンスターを倒しまくって貯めたお金を人間の国に一気に流して経済破壊とかやることあるんで、そういう時はあえて見逃したりもするっすけどね』
どうやら問題のみならず、解決法までもこの世界独自の仕組みに依るようで。
他の世界ではとても真似できそうもない方法ですが、ゲーミリア様の口ぶりからするにこの世界はこれで上手く回っているのでしょう。
『そうだ、ステータスの話が出たことで思い出したぞ! おい、オタク! 悪のステータスがエラーで開けんとはどういう了見だ? 舐めとんのか、おいコラ?』
『ひぃ、舐めてないっすよ!? あ、肩とか揉むっすかね、へへへ……え、それはいい? ええと、それはそうとアレはボクも気になってたんで、再発防止のためにも一度しっかり調べておきたいっすね』
どうやら、ここまでの話題は一段落した様子。
直前にステータスの話が出たことから転がって、今度はラメンティア様のステータスだけ表示できない問題へと議題が移った模様です。
『じゃあ、試しにそのエラー表示を出してもらえるっすかね? はい、どうもっす。ええと、それじゃあ……うん? え、なんすかコレ?』
「ゲーミリア様、ラメンティア様の、その、エラー? それがどうかしたんですか?」
『どうかしてるも何も、明らかにコレが原因というか……管理者権限で表示可能な桁数を増やして強引にステータスを見てみようと思ったんすけどね。数字が大きすぎてパッと見で桁が分かんないまではいいとして、こうしてる今も凄い勢いであり得ない量の経験値が増え続けてレベルが上がり続けてるというか。ざっくり毎秒何千回か何万回かくらいの勢いでレベルアップしてまして……でも、どう見てもラメンティアさん今は普通に座ってご飯食べてるだけっすよね? ああ、皆さんも見てみるっすか?』
そう言われたので席を立ち、ゲーミリア様の後ろから肩越しにラメンティア様のステータスらしき表示を見てみると……レベルや力や素早さやら、ほとんどの項目の数字が凄まじい勢いで増えています。
『一応、ボクの世界だと勉強とか筋トレとか、あと普通の家事とか日常生活でも積もり積もればレベルが上がる仕様になってはいるんすよ。モンスターの討伐に比べたら効率はだいぶ落ちるっすけど。だから、ただの飲み食いでも真剣に味わえばちょっとくらいは経験値が入ってもおかしくないんすけど……いくらなんでも多すぎないっすかね? ちなみに、この世界基準だとレベルが三桁に到達する人すら何十年に一人出るかどうかの大天才って感じっす』
そもそもレベルという概念に不慣れな身にはピンと来ない部分も多々ありますが、この会話中だけで何百万だかレベルが上がるのが異常だというのは流石に分かります。その原因については……実のところ、心当たりがなくもないのですけれど。
「これ、もしかしてアレですかねぇ? わたしの世界を出る直前にやってたみたいな、ヨソの世界の神様から上納されてくる神様パワー的なやつ。あとは人間から向けられる信仰とか畏れも力の源になるってお話でしたっけ?」
『うむ、その通りだ。いちいち覚えとらん世界も多いが、まあ少なめに見てもこれまで千近い世界の神や人類をシメてきたのでな。その連中からの上納プラス人間共の信仰で、こうしてメシ喰ってるだけでも勝手にどんどん強くなるという寸法よ。悪の体感的には大体一週間ごとに倍々ペースで力の総量が増しておる』
『ちなみにラメンティア君が生まれてからの経過時間を約55週間として、その間ずっと倍々ペースで力を増していたとすると、2の54乗で……今は生まれた時より一京八千兆倍くらい強い計算だね! 奪った権能とか覚えた戦闘技術も含めたら、実質的にはもっとかな?』
ツルギ様の補足を聞いても数字がおかしすぎて全然ピンと来ません。
数多の異世界の中にはラメンティア様より強い存在もいるということでしたけど、この成長ペースなら誰が相手でもすぐ追い越してしまうのでないでしょうか。
『いいや、そう容易くはいかぬ。無論、いつかは悪こそが最強になる気でいるのだがな。悪の知る悪と張り合える連中も大体似たようなペースで強さを増しているゆえ、そう簡単には追い越せん』
『ちなみに私やラメンティア君の地元の友達のことだよ!』
『……いや、友ではないが? で、その地元というのがバカみたいに戦闘力のインフレが極まったバカの世界でな。能力や性格の相性もあるゆえ一概には言えぬが、悪に対抗できそうなのはざっと十人前後といったところか?』
なんと恐ろしい世界もあったもの。
傲慢さと自信については他に類を見ない悪の神様がこのように言うということは、謙遜や冗談ではなく本当にこれだけ強い人達が二桁に達しそうなほどいるのでしょう。そんな世界がよく滅びずに続いているものです。
『悪以外は揃いも揃って存在自体がギャグみたいな連中だが……まあ、悪も別に嫌いではない。いずれ気が向いたらサヤにも会わせてやろう。ついでだ、オタクも来るか?』
『いえいえいえ、滅相もないっす!? ほら、ボク人見知りするほうなんで!』
せっかくのお誘いもゲーミリア様は必死に首を横に振って拒否していましたが、わたしは結構興味があります。この何もかもがデタラメな神様が生まれた場所とは、果たしてどんな世界なのやら。いつになるかは分かりませんが、いつかラメンティア様の生まれ故郷を訪れる時を楽しみにしておくとしましょうか。




