73.ゲームの世界のラスボス様⑥
そんなこんなで、めくるめく冒険の旅に出たわけですが。
『おっ、今のモンスターはそこそこカネ持っておったな。一匹で1800ギョールドはなかなかアツいのではないか? とりあえず一億匹くらいブッ殺して絶滅させるか?』
『いやいや、この世界にいるの全部合わせてもそんな数いないっすから。再出現のペースを多少上げるくらいならできるっすけど。あとは落とす金額をイジるとか……いや、そもそもお金目的なら管理者権限で資金無限モードとかもできるんすけど』
『ふっ、悪は過程を大事にする神なのだ。具体的には、圧倒的な力で弱者を蹂躙するのが大好きという意味なのだが。あと簡単に手に入り過ぎるのは、ゲームを楽しむという主旨からは外れてしまいそうでな』
最初のうちはちょっと怖かったですけど、ゲーミリア様曰く、単純な戦いの強さに関しては最初のギガダークさんが一番強かったそうです。
小山のように大きい巨人やら小さめの村くらいなら丸呑みにできそうな大蛇やらも、うちのボスにかかれば一律パンチ一発でノックアウト。そういう荒事方面での緊張感はもはや欠片もありません。
先程までいたラストダンジョンとかいうお城の近く、我々が今いる辺りはこの世界でも特に強力な怪物が出るそうな。そんな危険地帯ですら今の有り様なので、ここから移動しても危険が増したりはしないでしょう。
「あれだけ大きい死体が勝手に消えてなくなるのは便利ですねぇ。皮とかお肉を取れないのは損のような気もしますけど、あんなのが残ったまま腐ったりしたら病気の元になりそうですし」
『あれ、そうなるとこの世界の人達が普段食べてるお肉はどこから確保してるんだろうね? モンスター以外については普通に死体が残るのかな?』
『はいはい、ツルギさんが言ったのが正解っす。モンスターに関しては、人々の邪念や欲望が大魔王の秘術で実体化した尋常ならざる生命体……みたいな設定でやってるので。もちろん実際にはラスボスはそのあたりノータッチで、管理者のボクが増やしたり減らしたり都度調節してるんすけどね』
『くくく……それ、貴様が真の黒幕として自分が生み出した世界の連中に倒される系のやつではないか?』
これまで見てきた世界の中でも、生命の生き死に関する法則は大変にユニークです。
これ以外にもゲーミリア様が啓示を与えた……という体で個別に設定を変更した人は、たとえ死んでも最後に立ち寄った町や村で生き返れる仕組みがあるそうで。ギガダークさん(一回目)と一緒にお亡くなりになった正義っぽい人達は、まさにそのパターンだったようです。
そういう風に生き返れる保証があるなら命懸けの戦いに身を投じるハードルも下がるでしょうし、実際そうすることでその時々の大魔王を打倒し得る人材を発掘しているのだとか。
『ちなみに、さっき死んだギガダーク君は初代から数えて三百七十二代目の大魔王っすね。ラスボス役の肩書きは常に大魔王とは限らずちょくちょく変わったりもするんすけど、ここは便宜的にラスボスイコール大魔王ってことで。場合によっては1シーズンの中に三人とか五人とかの大魔王を同時に出して、互いに共闘とか牽制し合ったりとかのバトルロイヤルみたいなパターンもあったっすねぇ』
俯瞰視点から眺めている分にはなかなか面白そうな気もします。
その都度、騒動に巻き込まれる人間の皆さんは大変でしょうが。
『いやいや、これは人間の皆さんの為でもあるんすよ。前の大魔王がやられて世界が平和になっても、まあ何十年とか早いと十年以内とかで今度は人間の国同士がギスったりするもんで。長めに平和が保っても百年とか二百年っすかねぇ。そこで人類共通の敵を用意したり影響力のある著名人の思想をちょい捻じ曲げて、同じ種族同士で争ってる場合じゃない的な方向に誘導をですね……ここだけの話、危険な侵略志向の国とか差別意識が強い個人には、多めにモンスターを差し向けて消えてもらったりとかもして』
『うむ、やっぱり真の黒幕ポジションだな貴様。その一方で、さも全面的に人間の味方のようなフリをして信仰を集めるとは、なかなかの悪辣ぶりだと褒めてやろう』
三百七十二代の中には同じ時代に活動していた方々もいるようですが、先代の大魔王が倒されてから次代が現れるまでの期間を考えると、ゲーミリア様の活動期間は最低でも数千年、もしかすると更に数字の桁が増えるのかもしれません。
目の前の一歳児は流石に例外中の例外でしょうし比較対象にはなりませんが、自信なさげな振る舞いに反して実は結構すごい神様なのではないでしょうか。この世界だけの特権だとしても、そもそも普通の神様はわざわざ他の世界に出向いて喧嘩を売り歩いたりしないでしょうし、神様としての活動に不便や不足があるわけではなさそうです。
『いやいや、それほどでもないっすよ……うへへ』
もっとも威厳のなさは相変わらずなんですが。
さて、ラストダンジョンを出て色々とお喋りをしながら二刻ばかり歩いた頃。
「ふぅ……久しぶりに長距離を歩くとちょっと疲れますねぇ。最近はバイクで楽してたせいもあるかもですけど」
『ツルギは例外としても流石に一台に三人乗りは厳しいのでな。単に目指す人里まで移動するだけなら他にいくらでも方法はあるのだが、今は普段以上に過程を愉しむのが目的ゆえしばし我慢せよ』
『ボクも一応ファストトラベル的な管理者権限で世界中のどこへでも移動できたりはするんすけど、今のところはラメンティアさんの方針に従う感じで。逆らったら怖いので』
わたし自身は全然戦ったりしていないのですが、そもそもの体力が貧弱なせいか次第に疲れを無視できなくなってきました(ちなみに普段のバイクは、ラメンティア様が空間に穴を開けて豪快に放り込んでいました。なんでも無限にモノをしまったり捨てたりできる、どこかの大穴に繋がっているとか)。
巫女の身で神々の足を引っ張るのは気が引けますが、肉体に重くのしかかる疲労感は気合や精神論でどうにかするのは難しい。ここから先の道程次第では休憩を提案すべきかとも思ったのですけれど、
「あれ、遠くに建物がいっぱい? あれはもしかして……」
『ああ、あれはラスダンから最寄りのモヨリの街っす。ぼちぼち日も落ち始めた頃合いっすし、今日はあそこで宿を取って豪遊する方向で如何っすかね?』
街の名前の安直さにはあえて触れませんが、ようやく普通の人間が暮らしている普通の人里に辿り着いたようです。これまでの世界でも現地のグルメや文化を大いに楽しんできましたが、はてさて、この世界ではどのような美味しい思いができるのやら?




