72.ゲームの世界のラスボス様⑤
この世界の成り立ちおよび概要については掴めました。
神様が人間の娯楽に影響を受けて世界を丸ごと創造したというのは驚きですが、その張本神たるゲーミリア様は、なんというか、こう……大変に腰が低くて親しみやすい御方のようで。
もっと直接的かつ正確な表現を用いるとどうしても悪口になってしまうので、あえて言葉を濁してお伝えする形になることをご承知おきくださいませ。
『ふむ、やはりそういうコンセプトの世界であったか。まあ、それよりもだ……おい、脱サラオタク』
『だ、脱サラオタク……もしかしなくても、それボクのことっすよね? いやまあ、モロにそのまんまなんで別にいいんすけど……ええと、それで何か質問っすか?』
『うむ、先程貴様が使った“リセット”とやらについて疾く教えるがよい』
話題が一段落したところで、今度はラメンティア様からゲーミリア様へと新たな問いが飛びました。リセットというのは、恐らくあの時間を巻き戻したやつでしょうかね。
『悪も前に似たような真似をやったことはあるが、まず前提としてあの手の時間をどうこうする系の権能というのは、いくら神であっても気軽にポンポン使えるようなものではない。そして貴様はどこからどう見ても大した力のないザコとしか思えん』
『ええまあ、全部その通りなんで別に気にしてないっすけどね、はは……』
気にしていないとは言いつつも、ラメンティア様による忌憚のない言葉の暴力で地味にメンタルへのダメージが入っているご様子。それについては頑張って我慢してもらうとして、やはり時間を巻き戻すというのは神様基準でもなかなかの大技扱いのようです。
何かと卑屈な振る舞いが目立つゲーミリア様ですけど、実はこう見えて凄い特技があったりするのでしょうか。それだと地元で冷遇気味だったという先程の話と食い違うようにも思うのですが。
『神の価値というのは、何も単純な力の総量や戦いの強さだけで決まるものではない。もし貴様がショボい見た目に反して時空間への強力な干渉が可能な能力など持っているなら、頭からガブリと喰い殺して権能を奪うのも視野に入れてはいるのだが……どうも、そういうのとは違う気がするのでな。いや、それでもワンチャン狙いの駄目元で試してみるのはアリか?』
『わーっ、ナシナシ、ナシでお願いするっす!? ちゃんと説明するので、どうかお慈悲を! あ、靴とか舐めたほうがいいっすかね、へへへ……』
『それは要らん。喰わんでやるから、さっさと言え』
ここで抵抗や反論を試みていたら本当に危なかった可能性がありますが、ゲーミリア様のあまりの小物ぶりに流石の悪の神様も調子を乱されてしまったのかもしれません。特に暴力沙汰に発展することなく、平和的に能力の説明へと移りました。
『でも本当に大したことはしてないっすよ? そもそもの世界を創る段階で、自由にセーブやロードができるようなギミックを仕込んでおいただけなんで。さっきみたいなバグデータは丸ごと削除してなかったことにしたりして。まあだからして、正確にはゲームによくあるリセットとはちょっと別物なんすけどね』
『少々ややこしいが、要するに貴様が疑似的な時間の巻き戻しやら他の強権を振るえるのは、最初からそのように創られたこの世界の内側のみ。他の世界では何の役にも立たんゴミみたいなものということだな?』
『ですです! いやぁ、話が早くて助かるっす!』
暗に自分には食べるほどの価値がないと主張しているのでしょう。
セーブだのロードだのに関しては正直ほとんど分かっていませんが、ゲーミリア様が絶対的な力を行使できるのは、あくまで御自分の世界の中だけだということは分かりました。
よくよく考えれば、この世界の外から来た我々は、普通の人間であるわたし含めてリセットの影響を全く受けていませんでした。ここまでの自己申告に偽りはないと考えて問題なさそうです。
『ふむ……悪も色々な世界を見て回ってきたが、なかなかの独創性だと褒めてやらぬこともない。あとはセーブデータの細かい仕様とか、悪のステータスを閲覧できない不具合だとか聞きたいことは他にもいくつかあるが、そのあたりは旅の最中に折を見て話せばよかろう』
一応、これで話が一段落したということでいいのでしょうか?
ゲーミリア様としては用が済んだのなら早々に立ち去って欲しいのが本音と思われますが、今のラメンティア様の口ぶりからして少なくとも今すぐにこの世界からお暇する流れにはなりそうもありません。
『では、ツルギとサヤ。それとオタク! 何故だかラストダンジョンの中だけでやたらと時間を喰ってしまったが、ぼちぼち自慢の世界を見物に行ってやろうではないか! ごく普通の旅人に扮して冒険をするのだ!』
『えっとぉ……ボクは冒険する皆さんを遠くから温かく見守る方向じゃあ駄目っすかね?』
『くかかっ、駄目だ! まあ観光案内のガイド役のようなものだと思っておけ。あとサイフ役な』
そんなこんなで、ここから先はいよいよ冒険の時間です。
怪物がそこらをほっつき歩いてる世界を冒険するというのは少し怖いですし、早くも半泣きのゲーミリア様にはちょっと悪い気もしますけど、この不思議な世界を皆で旅するのはなんだかとっても楽しそうな気がします。




