70.ゲームの世界のラスボス様③
まあ、考えるまでもなくラメンティア様が原因なんでしょうねぇ。
せっかく暗雲が晴れたはずの青空は真っ赤に染まり、わたし達の周囲に無数に飛び出てきたのと同じ【警告! 世界に深刻なエラーが発生しました!】というメッセージで埋め尽くされている有り様です。
更には、メッセージのみならず不快な音が四方八方から鳴り響く始末。その甲高い音をどう言い表すべきかは、わたしの語彙および経験からは例えるべき言葉を思い付かなかったのですけれど、
『ああ、これはアレだね。パソコンがエラー吐いた時みたいなビープ音。この世界の趣向からして分かってたけど、ここの世界の神様はどうもデジタル文化に傾倒してるみたいだね』
「ははぁ、よく分かりませんけど前の世界で見た『でんわ』の親戚みたいなものですか? アレも音が鳴ってましたし」
『ははは、遠い親戚とは言えなくもないのかな? 使いこなせれば便利な道具なのは間違いないし、そのうち機会があったらサヤ君にも教えてあげるよ』
『そんなことより、このままでは耳障りかつ目障りで敵わん! どれ、ちょっと大陸でも叩き割って静かになるか試してみるか?』
『ぱそこん』云々は一旦置いておくとして、今はこの事態をどうにかするのが先決でしょう。そのために地面をグーで殴ろうとするのは正直どうかと思いますが。
『ちょっとちょっと、ラメンティア君や。ここでやると天井が崩れてきてサヤ君が危ないからさ、大地を割るならどこか屋外に出てからにしたまえよ』
「いやぁ、お手数おかけしてすみませんね」
『ふっ、構わん。悪の寛大さに伏して感謝するがよい。では、城の外まで移ってから改めて惑星を真っ二つに――――』
なんだか破壊規模が無意味に上がっている気がしますが、ここで注目すべきポイントはそこではありません。ラメンティア様が続くセリフを言い終えるより前に、どこからともなく闖入者が現れたのです。
『ちょ、待っ!? 待って待って待って!? お試し感覚で世界を滅ぼすのやめて!』
故ギガなんちゃらさんのお城の窓をガシャンと突き破って飛び込んできたのは、癖の強い茶髪に丸眼鏡が特徴的な女の子。背丈がわたしより少し高いのと顔立ちの印象からして、年齢は十代の半ばくらいでしょうか。
あくまで、彼女が人間であればの話ですけど。
『うん? 貴様、その気配からして神か?』
『そういうアナタは、どこか違う世界から来た神様みたいっすけど、いったい何の恨みがあってボクの世界を……っと、のんびり自己紹介してる場合じゃなかった!?』
一人称が『ボク』の少女神は、なにやら酷く慌てているご様子。その理由は……わざわざ考えるまでもなく、未だに増え続ける警告メッセージと鳴りやまないビープ音のせいなのでしょう。
『ああもうっ、話はあと! エラーの原因は……メッセージウィンドウへの物理的過負荷!? はぁっ、何それ!? そのせいで世界中の共通システム全部がイカれたとか、どんな馬鹿力で殴ったんすか?』
『なんだ、悪への質問か? くかかっ、なぁに指向性を変えれば太陽系を軽く消し飛ばす程度の威力よ。ちなみに宇宙全部をワンパンで滅ぼすのが今の目標だな』
『えぇ、何ソレ引く……っと、あった!』
必死に世界の状態を回復させようとしていると思しき少女神が、すぐ横の悪神に殴られないかが心配でしたが、どうやらラメンティア様は相手が何をしようとしているのかが気になっているようです。
わたしの『ステータス』やエラー表示よりも遥かに大きく複雑な文章が書かれた板へと忙しなく指を走らせ、そしてどうやら解決のため必要な項目を見つけ出したようです。
『ええと、最後に保存したのは今から72時間前かぁ……うん、まあギリ許容内! じゃあ、話は状況が落ち着いたらちゃんとするっすから、とにかく今は……“リセット”!』
はて、いったい何がどうなったのでしょう?
少女神が『リセット』なる言葉を呟いた直後、一瞬視界が暗転したと思ったら……、
「あら?」
『む?』
『おや?』
わたしとラメンティア様とツルギ様が、同時に疑問の声を上げました。
場所はさっきまでと同じギガなんちゃらさんのお部屋。
ですが、どこにもエラー表示は出ていませんし、耳障りなビープ音も鳴っていません。その一方で窓の外に見える空は分厚い雷雲で隠れていますし、玉座には亡くなる直前にチラっと見えたギガなんちゃらさんと思しき方が五体満足の姿で座っています。
これは、つまり……。
「時間が、巻き戻った?」




