69.ゲームの世界のラスボス様②
『はいはい、なるほどね! うん、大体分かったよ』
どこからともなく変な声が聞こえた直後、ここまで静かにこの世界についての考察を進めていたらしいツルギ様がそんなことを言い出しました。わたしの保護者二名もこの世界に来るのは初めてのはずですが、どこか余所の世界で似たような場所があったのでしょうか。
『いや、場所とは少し違うな。ちなみに悪もおおよその趣向は把握したぞ』
『まあ、あれは知ってさえいれば一発だけど、そもそものジャンル自体に触れたことがない子がすぐに理解するのは厳しいだろうからね。特にサヤ君に落ち度があるわけじゃあないよ』
そこはかとなく無力感を覚えなくもないですが、それに関しては毎度のこと。
なんなら、お二人と出会うより前と比べたら気分的にはずっとマシです。
「それで結局、この世界はどういうアレなんです?」
『うむ! 大方、ここを創った神の趣味なのだろうが、端的に表すと「ゲームの世界」だな!』
『補足すると、さっき扉にぶつかって倒された奴が大魔王ギガなんちゃらとかアナウンスで言われてたからね。さっきのより強い裏ボスもどこかにいるのかもだけど、あのなんか適当な流れで死んだのがラスボスで、ここのお城はいわゆるラストダンジョンってやつなんじゃない?』
いわゆる、と言われましても全然ピンと来ませんが。
まあ更に時間をかけてじっくり見て回れば腑に落ちるものと期待しておくとしましょうか。それよりも気になる点として、このあたりまで喋ったあたりで窓の外に大きな変化が現れました。
「あら? なんだか曇ってたのが急に晴れてきましたねぇ」
『多分だけど、さっき雑に死んだギガなんちゃら君が邪悪っぽいムードを保つために天候をあんな感じにしてたのが、死んだことで元の空模様に戻ったみたいな感じかな』
「はぁ、ムード作りですか? そのためだけに日当たりの悪さとかカミナリの音を我慢するとは、ギガなんちゃらさんも酔狂な方ですねぇ」
どうせお天気を操れるなら、農地や砂漠に過不足なく雨を降らせるなどすれば大勢の人に喜ばれそうなものですけど。まあ、この世界にはこの世界なりの文化や美意識があるのでしょう。
『ちなみにギガなんちゃら君と戦ってた人達は、この世界の平和を取り戻すために戦ってた勇者とか英雄的な? 急にキラキラして消えたのは……流石に飛躍が過ぎるかもだけど、どこかにあるセーブ地点に再出現したのかもね。ラメンティア君にやられてそうなったあたり、厳密には死んだのとも異なる特殊な仮死状態というか。そのへん含めて要確認かな?』
文脈から察するに、こことは別の場所で生き返った的な感じでしょうか?
一方でギガなんちゃらさんは同じように生き返れなかったあたり、誰でも同じように復活できるわけではなく一部の方だけの特権なのかもしれません。
『まあ、いつまでもここにおっても仕方あるまい。とりあえず近場の人里でも襲いに……っと、忘れておった。ゲーム趣味の神が創った世界であれば、ほれ、ステータスだのメニュー画面だのを出せるのではないか?』
『さっきのアナウンスでもラメンティア君の名前を言ってたし、何かしらの手段で私達の状態を読み取っているのはありそうだね。私の場合はパーティメンバーじゃなく装備枠になってるかもだけど』
『ぶっちゃけ陳腐な感があるのは否めんが、悪はアレ結構好きだぞ。ククク、数字のデカさで誰彼構わずマウントを取ってくれるわ!』
またまた意味の分からない話題になってしまいました。
ここに来る前の雪山の山荘や荒野の世界に比べても、全体的に不明点が多い気がしますねぇ。そして考えても答えが出そうにない疑問については、無理をせず早々に聞いてしまうに限ります。
「はいっ、質問です! その『ステータス』とか『メニュー』って何ですか?」
『口頭で説明してもいいんだけど少し面倒だし、どうせなら実物を見せたほうが手っ取り早いかな。サヤ君、ちょっと実験に付き合ってもらえるかい? この世界独自のキーワードや動作が必要なタイプだと山勘で当てるのは難しいけど、とりあえず定番どころを押さえておく程度はね』
「はい? ええ、やれと言うならやりますけど」
幸い、指示された実験というのは非常に簡単な内容でした。
いくつかの語句のパターンを入れ替えながら、ひたすら唱えるだけ。
「じゃあ、順に言っていきますね……『開け』『メニュー』、『開け』『ステータス』……何も起こりませんね?」
『いいから、いいから。そのまま続けて』
「はい、それじゃあ……『表示』『メニュー』、『表示』『ステータス』……」
この実験に何の意味があるのかすらも正直分かっていませんが、これくらいなら疲れることもありません。指示された語句を入れ替えながら実験を続けること更に数分間。
「……『状態』『開示』……ええと、次は……『ステータス』『出ろ』……あっ、何か薄い紙か板みたいのが空中に出てきました!」
『うん、ご苦労さま。今のが正解の組み合わせだったみたいだね。細かい言い回しの差を許容可能かは後で調べるとして、何が書いてあるか読み上げてもらっていいかい?』
特定の言葉に反応して出てきたのは、材質不明の薄っぺらい何か。
特に支えもないのに、わたしの胸元くらいの高さに浮いています。
で、そうやって出てきた『ステータス』に書かれていたのは……。
【名前:サヤ】
【職業:巫女見習い】
【年齢:12】
まず目に付いたのはこのあたり。
ここまでは元より分かり切った自分自身のプロフィールでしたが、
【レベル:2】
【力:5】
【素早さ:7】
それ以外にも色々な項目がありますが、このあたりを見ただけで先程の疑問については解消しました。恐らくは、見た通りにわたし自身のスペックを数値化したものなのでしょう。
比較対象となる他の誰かの数字を見ないことにはイマイチ判じかねますが、まあ、どう考えても高くはないのでしょうねぇ。
『じゃあ、次はそれを閉じられるか試してみてもらえるかい? ああ、問題なさそうだね。それじゃ次は発音なしで念じるだけで開閉ができるかどうか……ところで、ラメンティア君は何をやってるのかな?』
『ああ、サヤと同じキーワードを試してみたのだがな、妙な表示が出るばかりで悪のステータス画面が出てこんのだ! サヤ、さっきの組み合わせは「ステータス」と「出ろ」であったな?』
「え、ええ、そうですけど……」
このまま続いて『ステータス』とやらの検証をするのかと思いきや、ここで予想外のトラブルが発生しました。わたしと同じように試したラメンティア様は、何故だか『ステータス』ではない別の文字列が表示されるようなのです。
『ラメンティア君、一応聞くけど接続詞の「と」は抜いて試したよね?』
『当然だ。というか、単純なキーワードの間違いならば何も出てこんのが道理。エラー表示だけが出るのはおかしかろう?』
エラー表示というのは最初よく分かりませんでしたが、ラメンティア様の横からちょっと失礼して覗き込んでみると……、
【エラー! ステータスを表示できません】
と、そんな文字列だけが並んでいます。
もしかして神様は『ステータス』の対象外だったりするんですかね。
それとも、あまりに数字が大きすぎて表示しきれないとかでしょうか。
『ううむ、悪の能力値がいったい何不可思議や何無量大数あるのか見てみたかったのだが……いや、この程度のトラブルで諦める悪ではない! こういうのはだな、こう、ナナメの角度で思いっ切り叩けば直ると相場が決まっているのだ! こいつめっ、この!』
諦めの悪さも並大抵ではない神様は問題の【エラー! ステータスを表示できません】を、ゲンコツや手刀でボコボコに叩き始めました。
わたしが自分の『ステータス』を触ろうとしたら幻のように指がすり抜けてしまいましたし、何らかの超常的な能力を駆使して本来触れないモノに無理矢理触っているのでしょう。
その甲斐あってか、と言うべきかは微妙な線ですが。
『……おっ?』
今度はラメンティア様の胸元に出ていた【エラー! ステータスを表示できません】だけではありません。お城の中にも外にも、空や地面にも見渡す限りそこかしこに、
【警告! 世界に深刻なエラーが発生しました!】
……という、明らかに尋常ではないメッセージが次々飛び出てきたのです。




