07.襲った村に火を放とう!
『他の神がどうだかは知らぬが、悪は普通に人間の店で買い物とかするぞ?』
神様にお金が要るのか疑問でしたが、少なくとも目の前の女神様にとっては必要なのでしょう。失礼ながら、仮に店屋に入っても代金を払わずにそのまま品物を持っていきそうなイメージがありましたが、ちゃんと支払いをする意思があるとは意外です。
『うむ、良い品物には相応の対価が支払われるべきゆえな。もっとも、手持ちが足りぬ場合はカネの代わりに神に品物を捧げる栄誉をくれてやることもあるが』
ええと、つまりお金が足りない場合は結局タダで奪い取るということですね。
イメージ通りで安心するやら、これからお仕えする上司の行状を知って不安になるやら。ラメンティア様は法律や官憲なんてモノともしないでしょうが、これから一緒に行動するわたしは何かの拍子に共犯扱いされて捕まらないとも限りません。
いえ、罪がどうこうと言うのなら今まさに村を略奪している真っ最中なのですけれど。
『ここいらには昨日来たばかりゆえ、この国の貨幣の価値というのはイマイチ分からぬが……まあ、どう考えても多くはないのだろうなぁ』
現在、村の広場で待機している我々の前には、村民の皆さんが家から持ってきたお金と食料が積み上げられているわけですが……その量と質はお世辞にもよろしいとは言えません。
麦と萎びた野菜と、あとは僅かな干し肉程度。
本来であれば収穫で忙しくしているべき秋頃とは思えない寒々しいラインナップです。
お金に関しても決して多いとは言えず、仮に後先考えずに手持ちの財産を全て使い切って外から食料を買い付けたとしても、村の全員が春まで生き残れるかは怪しいところ。生贄なんて出しての神頼みに縋るまで追い詰められた寒村としては、まあ妥当な懐事情なのでしょうけれど。
『おい、長老とやら。本当にこれだけか? 他の連中も隠すと為にならぬぞ?』
「ほ、本当です!? 本当にこれしかないんです!」
可哀想に怯え切った長老様の様子からして、どこかに秘密の食糧庫やヘソクリが隠してあったりは本当にないのでしょう。流石のラメンティア様も存在しない物資を奪うことはできないようですし、この有り様を前には呆れるばかりで怒る気にもなれないようです。
『ううむ、シケた村だとは思ったが、まさかこれほどとは思わなんだ。悪が何もせずとも、長くて数年のうちには完全に全滅するのではないか? くかかっ、ウケる』
「ウケないで下さいよ……」
わたし個人はこの村とはもう半分縁が切れたようなものですが、そうして客観的に状況を見られるようになったおかげもあってか、ますます村の絶望的な状況が理解できてしまいます。
全財産を一箇所に持ち寄って余力の乏しさが可視化されたことで、村の人達も同じような理解に達してしまったのでしょう。全体的に暗い空気が漂っていました。そして、その僅かの余裕さえも、今まさに理不尽な神様に奪われようとしているわけですが。
「あのぅ、ラメンティア様? 神様の偉大な御力でもって、その、村を救ったりとかってできないですかね……? あ、いえ、無理そうなら全然結構なんですけど」
『くくっ、サヤよ。神を挑発する勇気は買うが、次はもう少し上手くやるのだな。まあ、今回は初回サービスということで大目に見てやろう。無論その程度は造作もない……見ているがよい』
あれ、ちゃんと頼みを聞いてくれるんだ?
それ自体も驚きでしたが、本当に驚くべきはこの先のこと。
昨晩も刃物や食器が何もない地面からザクザク湧いてくるのにビックリしましたが、どうやらラメンティア様は思っていた以上に色々なことができるようです。
「なんだ、畑が光って……み、見ろ、刈ったばかりの麦がまた生えてきた!?」
「他の野菜もだ。芽を出したと思ったら、あっという間にこんなにでっかく!」
「こんな大豊作、今まで見たこともねぇ!」
村の皆さんもビックリです。
ラメンティア様がチラリと視線を向けただけで、村中の田畑から作物が溢れんばかりに実ったではありませんか。普通なら種を植えてから収穫できるようになるまで何か月もかかるモノでも、ほんの数秒のうちにグングン育ってしまいました。
これなら余裕で冬を越せるどころか、余った食料をよそに売って少なからず蓄えを作ることもできるでしょう。なんとも現金なもので、神の偉業を目の当たりにした人々は笑顔でラメンティア様を拝んでいます。
『うむうむ、悪は多才で多芸ゆえ豊穣神の真似事など造作もない。痩せた土を肥やしたり、汚れた水源を浄化したりなども同じく楽勝である……がッ!』
ですが、皆さんが素直に喜んでいたのはここまで。
「ん、なんだ煙が……ぎゃあっ、畑に火が!?」
「せっかく実ったのが全部燃えちまう!」
「せめて燃え尽きる前に少しでも……アチチッ!?」
ああ、もったいない。
せっかくの大豊作は幻に。
実った作物はひとりでに火がついて燃え始め、最初から全部が幻だったかのように燃え尽きてしまったではありませんか。
『くくっ、馬鹿め! すごいスキルで身近な問題を解決しつつ、ほどよく生温い感じに田舎で農業系スローライフ……みたいのは、まどろっこしくて悪の性に合わん! 却下だ!』
『ちなみに、これはあくまでラメンティア君の個人的な好みの問題であって、特定の作品やジャンルを毀損する意図はないということを強調しておくね!』
ツルギ様が誰に向けて何を言っているのかは分かりませんが、要は十分な能力があるからといってそれを使う気になるとは限らないということでしょうか。だとすると、いよいよこの村は滅びを待つばかりとなってしまいますが……。
『やれやれ、世話の焼けるヤツらだ。まだ他に助かる道は残っておろう。親切な悪がそれを教えてやろうではないか』
これは……結局、別の形で助ける気はあるということなんでしょうか。
直接何かするまではしなくとも、ヒントくらいはくれる気があると?
わたしは村の皆さんと一緒に、藁にも縋る気持ちで気紛れな神様のお言葉を待っていたのですけれど、
『者共、農具でも包丁でも何でもよいから武器を持て! くかかかっ、今から全員で隣の村に略奪に行くぞ!』
……うん、まあ、そんなことだろうと思ってましたよ。




