06.村を襲ってお金と食料を奪おう!
まさか生きて再びこの村に戻ってこようとは。
立場上、色々と複雑な気持ちはありますが、それでも幼い頃からの思い出が沢山ある大事な故郷には違いありません。ここ数年の間に家族を亡くして暮らし向きが苦しくなる前は、幸福な記憶も色々とあったのです。
『ほれ、駆け足! さっさとカネと食い物をありったけ寄越すがよい!』
今現在、その故郷は凶悪な賊の襲撃を受けておりました。
というか、他ならぬわたし自身がその一味なわけですが。
「な、なんだぁ、あの女……」
「っていうか、あの後ろにいるのはサヤでねぇか?」
生贄になったはずのわたしがいることに村の皆さんも早々に気付いたようですけれど、果たして何をどう説明したものか。こちらとしても理解できていることは大して多くもないですが、とりあえずは大事な前提から伝えるべきでしょうか。
「ええと……こちら神様でして、お名前をラメンティア様と仰るそうです」
生贄にされた娘がのこのこ生きて戻ってきた形になりますが、決して役目を放棄して脱走を目論んだわけではないのです。下手に村の人々の怒りを買わぬよう、まずはそのあたりの事情を穏当に伝えないといけません。
「詳しく説明すると長くなるんですけど、この方にお仕えさせていただくことになりまして。いやぁ、ラメンティア様の寛大さには感謝してもしきれませんねっ!」
『くかかっ、分かっておるではないか、サヤ。身の程を弁えて誠心誠意励むがよいぞ』
幸いと言うべきか、ラメンティア様の容姿は明らかに只人のソレとは異なります。
その並外れた美貌に加えて、明らかに人間のものではない頭部のツノを見れば、決してわたしがデタラメを言っているのではないと分かっていただけることでしょう。
「なっ、神様だって……!?」
「と、とりあえず拝んどくか……?」
「サヤも嘘吐いてる感じではないしなぁ」
村の人達も手を合わせて拝んだりしています。まだ半信半疑ではあるのでしょうが、否定する材料もないから消極的に信じておく、くらいの感触でしょうか。
まあ、そもそもの問題点として村の信仰対象である神様とは別物なわけですけれど。
本物の山の神様は、昨晩お亡くなりになって美味しく食べられてしましました。
そのあたりを上手いこと誤魔化しつつ、昨夜のわたしと同じような誤解をしてくれるよう誘導できたらいいなぁ……なんて、この悪の神様がそんな姑息な企みに付き合ってくれるはずがありません。
『おい、サヤ。ここで一番偉いヤツはどいつだ?』
「一番というと長老様ですねぇ。ああ、ちょうど来たみたいですね。あのお爺さんですよ」
生贄にされた娘が神様を連れて戻ってきた。
そんな話を誰かに聞いて慌てて家を飛び出してきたのでしょう。
息を切らしながら駆けつけてきた長老を目にしたラメンティア様はというと、
『ほう、貴様が長老か?』
「は、はい。それで貴女様は本当に……」
『如何にも、神である。とはいえ、貴様らが信じていたショボい山のマイナー土着神などではないぞ。そやつはこの悪がブッ殺して喰ってやったわ。なかなか美味かったぞ。な、サヤ?』
ここで話を振らないで欲しいなぁ……。
というか、いきなり正直に白状しちゃいましたよ。
「なっ、なな、こ、殺……!? な、なんたる罰当たりな……!」
『やかましい!』
「ぐはぁ!?」
あ、普通に殴った。
巨大なイノシシの神様を殴殺する拳を人間に向けたりしたら一発で死んじゃいそうなものですが、見たところ長老様は地面に倒れ伏したもののキチンと息をしていますし意識もある様子。ラメンティア様はちゃんと手加減してくれたのでしょう。いえ、そもそもお年寄りを殴りつける行為自体がだいぶアウト寄りだとは思うのですが。
『まったく、神と神との事情に覚悟もなく口を挟むでないわ。フンッ!』
今の『フンッ!』で、長老様が殴り倒されたのを見て咄嗟に止めようとした男の人達が腕の一振りでひとまとめに薙ぎ倒されてしまいました。いずれも死んではいないようですが、ラメンティア様の狙いは果たしてどこにあるのでしょう?
『やれやれ、根性のないヤツらだ。サヤ、そなたには生贄にされた恨みがあろう。このジジイ共を殴っておくか? よい、悪が許す!』
「い、いえ、遠慮しておきます……」
『そうか? なんだ、つまらん』
もしかして、ラメンティア様はわたしの為にこのような暴虐を……いや、ないない。あり得ません。まだ短い付き合いですが、それくらいは分かります。
それに、こうして生きて再び顔を見たら何か感じることもあるかと思いましたが、村の皆さんに対する怒りや恨みという感情は全然ピンと来ないというのが正直なところ。ここで言われるがままお年寄りに暴力を振るっても、ただただ後味が悪いだけでしょう。
不幸中の幸い、ラメンティア様としてもわたしに暴力を強制する気まではなかったようで、すぐに関心を別の方向に向けてしまいました。それが良いか悪いかというと、まあどう考えても悪いのですが。
『では改めて、村にある全てのカネと食料を用意せよ。ほれほれ、早くせんとこのジジイがどうなっても知らぬぞ?』
ここで最初の要求に立ち返ってきたわけですが、今度は人質がいる上に悪の神の絶大な力を見せつけられた皆さんの反応は素早いものでした。でも、そもそも神様にお金って必要なんでしょうかね?




