67.名探偵だよ、ラスボス様⑩
『おい、若造。貴様を殺したのはこの女で間違いないな?』
ミステリというジャンルをほとんど知らぬ身ではありますが、殺された当人を生き返らせて犯人を明らかにするのが普通ではないのは流石に分かります。
見たところ、さっきまで殺人被害者だった男性は蘇ったばかりか服すら破れていない様子。このまま周りが何も言わなければ、本人も殺された夢を見ただけと思い込みかねない……いえ、泊まっている部屋の壁と天井に大穴が開いている状況は明らかに尋常ではないですけど。
神様案件に不慣れな他の皆さんも死者蘇生には驚いていましたが、それでも同じ研究会の皆さんが床ないしは天井の穴越しに説明すると、被害者の方も自分が殺されたことをどうにか思い出したようです。
『偉大にして寛大なる神の力で蘇ったとはいえ、自分を殺した女に対する恨み言の一つや二つはあるだろう? くくく、それを存分に吐き出してやるがよい!』
一度は自分が殺した相手から恨み言を聞かされる。
想像するだにメンタルに響きそうな嫌がらせですねぇ。
下手をしたら殺人犯だったお姉さんのほうが心を病んで自害しかねない、と思いきや。幸か不幸か、被害者のお兄さんには神様の思い通りに動くつもりはないようです。
「いや、たしかに自分が殺されたのは驚いたけど、それこそ夢の中の出来事みたいで実感があんまりないっていうか。それよりもキミに殺されるほど恨まれる理由に心当たりがないんだけど……」
なんとも煮え切らない反応ですが、死因は心臓を一突きされてのほぼ即死だったようですし、殺される前に長々と痛めつけられたとかでないなら案外こんなものなのかもしれません。
それより御本人が気にしているのは殺害の動機。
そういえばここまで犯行動機については誰も触れていませんでしたが、殺された当人にも心当たりがないとなると、それこそ犯人自身が口を割りでもしない限りは分からないでしょう。
場合によっては、ここから更に動機を聞くためラメンティア様による追加の暴力が必要になるかもと思われましたが、
「心当たりがない、ですって? よくも、いけしゃあしゃあと!」
おや、どうやら素直に話してくれるみたいです。
ボコボコに殴られたせいで冷静さを欠いたとすれば、あの恐るべき一幕にも意外な合理性があったのかもしれません。官憲や法律など物ともしない神様でもなければ到底オススメできませんけど。
「私、見たんだから……先月、駅前で一緒に歩いてた女は誰よ! 貴方のこと信じてたのに、浮気だなんて酷いわ!」
ああ、はいはい。
そういう感じのお話でしたか。
流石に刃傷沙汰にまで至ったことはないものの、わたしの地元でも近くの村の誰々さんがその手の話で揉めたとかは聞いた覚えがありました。まったく、世界が違っても人間のやることには大差ありませんねぇ。
「先月の駅前……? ……ああっ、それは誤解だよ。あの子は僕の妹なんだ! キミへの誕生日プレゼント選びに付き合ってもらっただけなんだよ!」
「ええっ、妹ですって!? そんな、私……誤解して何て酷いことを……」
「いや、キミをそんな風に誤解させて思い詰めさせた僕が悪いんだ。どうか許してくれ、ハニー!」
「ああ、こちらこそごめんなさいダーリン!」
なんだか、すごく雑な感じに事件が終わりつつあるようです。
ところで、このやり取りを眺めていると無性に腹が立ってくるのは気のせいですかね。
「そうだ、怪我の具合は大丈夫かいハニー!」
「ええ、大丈夫よダーリン! 愛の力があればこれくらい!」
「それは良かった。愛してるよ、ハニー!」
「ええ、私も愛してるわ、ダ」
『ええい、やかましいわアホ共!』
彼女さんがダーリンと言い終わるより前に、ムカッ腹が立ったらしいラメンティア様が二人を殴り飛ばしました。まあ、今のはわたしですらイラっときましたし無理もありません。見れば他の皆さんも何かしらの溜飲が下がったのか、心なしスッキリしたような顔をしていますし。
『まったく、なんというくだらん動機だ! もっとこう、実はこの男が女の生まれ故郷に火を放って一族郎党皆殺しにした復讐とか、この女が付き合った男を殺さずにはいられない変態性癖の連続殺人鬼だったとか、悪はそういう面白そうな動機を期待していたのだ!』
それらの動機が本当に面白いのかについてはノーコメントとさせていただきますが、うちの神様がガッカリするのも納得のしょうもないオチでした。まあ現実の殺人事件など、大抵はつまらない理由で起きるものなのかもしれませんが。
「じゃあ……事件も解決したみたいですし、各自お部屋に戻って寝直す感じですかね?」
最後の徒労感のせいか、わたしのみならず他の皆さんも忘れていた眠気が急激に押し寄せてきたようです。自然と解散して部屋に戻る流れとなり、この恐るべき殺人事件はなんともスッキリしない形で終結を見たのでありました。
◆◆◆
そして翌朝
「ありがとうございました! またのご利用お待ちしております!」
美味しい朝食を堪能した我々は、ニコニコ笑顔の御主人に見送られてペンションを後にしようとしていました。
今朝は昨晩の猛吹雪が嘘のような快晴無風。
これなら昨夜の最後に殴り倒された二人も、無事に街の病院に搬送することができるでしょう。先程、研究会のお仲間が未だ自力で動けない二人の荷物を車に運び込んでいるのが見えました。
なにしろ肝心の死体がないわけですし、恐らくはお姉さんが殺人の罪に問われることもなさそうです。しいて言えば、うちの神様にボコボコにされたのが罰ということになるのでしょうか。
もう二度と会うことはないと思いますが、できれば今後は傍迷惑な誤解をして短慮に走る悪癖を治して欲しいものですね。
「ところで、ラメンティア様。お金、全部置いてっちゃって良かったんですか?」
『うむ、どうせ他の世界ではこの世界のカネは使えんしな。ゴミを捨てて行くのと同じことだ。拾った奴がそのゴミをどうしようが興味はない』
ある意味で今回の事件の最大の被害者だったペンションの御主人が、妙にご機嫌な理由がコレでした。この世界のお金の相場は未だによく分かりませんが、どうやら壊れた箇所を修理した上で大幅にお釣りが出るくらいはあるようです。お金の出所が出所なので、あまり大っぴらにしないほうが良いだろうとはこっそり伝えておきましたが。
途中で変なアクシンデントがあったとはいえ、ここの宿のサービス自体は素晴らしいものでした。御主人には今後とも頑張ってペンションを盛り立てて頂きたいものです。
「おや、お嬢さん方もこれから出られるところですか。ああ、こちら私の家内です。昨晩の騒ぎにも気付かぬくらい深く眠っていたおかげか、風邪はすっかり良くなったようで」
老夫婦の旦那さんの隣には上品そうなお婆さんの姿が。
事件の伏線でも何でもなく、本当に風邪を引いて眠っていたのが治っただけ。
昨夜の騒ぎに終始巻き込まれず済んだこの老婦人こそが、実は今回の一件で一番ラッキーだったのかもしれませんね。なんにせよ、お元気になられたようで良かったです。
さて、それで肝心のわたし達ですが。
「次はどんな世界に行くんです?」
『特に決めてはおらぬが、昨日のようなつまらんオチは当分御免だな。悪の敵とするなら、やはり相応の格がある者でなければ物足りぬ』
『そうかい? 私は結構楽しかったけどな。尻切れトンボだった感は否めないけど、それなりに活躍できた気はするし』
現状の予定はノープラン。
またしてもラメンティア様の直感任せでどこかの異世界に向かうことになりそうです。前の荒野の世界から使っているバイクに跨った我々は、この世界に来た時と同じようにどこへともなく走り去るのでありました。
※この作品が面白いと思ったらブックマーク登録やポイント評価やレビューや感想やページ下部の顔のヤツをお願いします。




