66.名探偵だよ、ラスボス様⑨
もっと早くに全部白状しておけば多少なりともマシな解決編を迎えられたことでしょう。
別に殺人犯を気遣う義理などないですけど、事ここに至ってはわたしにできるのは犯人の無事を祈るくらいです。まあ、巫女であるわたしが祈る相手こそ、今まさに暴力で何もかもをメチャクチャにしようとしている神様なわけですが。
「な、何よ……触ったら訴えるわよ!?」
『くっくっく、安心せよ。悪は他の連中の言うように、チマチマとした身体検査などする気は毛頭ない。そもそも、たかが殺人事件を解決する程度の些事に、そのような手間をかける必要など最初からないのだ』
推定犯人のお姉さんは異様な迫力を放つ神様に気圧されてか後退りしていますが、元より大して広い部屋というわけでもありません。すぐ壁にぶつかって追い詰められてしまいました。
『くくっ、ここは一応お決まりのセリフを言っておくか。犯人は貴様だ!』
「な、いったい何を根拠に!?」
『根拠だと? ふっ、簡単だ……そういう目をした!』
「ひどい!?」
『大人しく罪を認めねば殴るぞ! いや、この際認めても殴る!』
「本当にひどい!?」
『馬鹿め、証拠がなければ安心だなどと高を括ったのが運の尽きよ!』
直後、本当にお姉さんの顔面ど真ん中にグーパンチが突き刺さりました。
首から上が消し飛んでいないあたり手加減に手加減を重ねてはいるのでしょうけど、その上でなお見事に鼻血が噴き出すくらいの威力はあったようです。
人殺しとはいえ暴力沙汰に慣れているわけではないのでしょう。
可哀想なお姉さんは悲鳴を上げながら床に倒れ込みました。
『やれやれっ! 大体、前から思っていたのだがっ! 世の名探偵共は、何故ああも七面倒くさい方法でっ! 事件を解決するのだっ!』
そもそもミステリなるジャンルに不見識なわたしには、そのあたりの事情はイマイチ分かりませんでしたが、セリフに『っ!』が挟まれる度に倒れたお姉さんに対して殴るわ蹴るわ。
うっかり殺したり意識を飛ばさないように、なおかつ反抗の気力など湧かせないように。この絶妙の加減ぶりは、もはや芸術の域にあると言っても過言ではないかもしれません。
「あらら、お姉さん泣き出しちゃいましたね。流石にちょっと可哀想な気が……」
『やれやれ、人殺しの癖に根性のない奴め。では、そろそろトドメといくか』
もう十分に心と身体を傷めつけたように思うのですが、ここから更にトドメを刺すというのは流石にやり過ぎというか本当に死にかねないのでは……などと心配しながら見守っていたのですけれど、ラメンティア様の言うトドメとは肉体ではなく精神に対するモノを意味していたようです。
それだけでは意味が分からないと思いますので、もう少し詳しく説明しますと、
『ほれ、皆の衆。少し下がれ』
お集りの皆さんを二歩か三歩ばかり下がらせたかと思ったら、301号室の床を躊躇なく踏み抜いて大穴を開けてしまったではないですか。それを見たペンションの御主人が泡を吹きながら白目を剥いて倒れてしまったのは別にどうでもいいとして、問題はこの後です。
『くくく、まあ見ておれ』
犯人のお姉さんの首根っこを掴んだラメンティア様は、そのままピョンと真下の201号室に飛び降りました。当然、そこには刃物で胸を刺された被害者の死体がそのまま……あ、いえ、今さっきの新たな破壊で床だったか天井だったかも分からない破片に埋もれてますね。
『よっ、と』
「え」
うちの神様は、なんと殺人被害者の遺体を躊躇いもなく踏みつけました。
それも、胸に深々と刺さっていたナイフが抜け出るほどの勢いです。
ですが、本当に驚くべきはこの後。
『おい、いつまで寝ておる。さっさと起きんか馬鹿者』
「ん、うぅ……あれ? 僕はたしか……」
なんか普通に被害者が生き返っちゃったというか、蘇生ができるならここまでの過程は丸っきり全部無駄だったのではないでしょうかね?




