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ラスボス様は破壊したい!  作者: 悠戯
第二章『いろんな世界のラスボス様』

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64.名探偵だよ、ラスボス様⑦


 ツルギ様が301号室の調査を申し出た時点で薄々察してはいましたが。

 どうやら犯人は201号室で被害者を殺害した後に、何らかの方法で直上の客室へとよじ登ることでドアを開けずに現場から脱出したのでしょう。



『恐らくだけど、この301号を今夜確実に無人とするために偽の予約を入れていたんだろうね。例の来なかった十人目の正体はそんなところだと思うよ。ああ、サヤ君。そのベッドの脚を調べてもらえるかな。不自然な傷とか付いてない?』


「はい、只今……ああ、ありますあります! 窓側の脚にだけ変な位置に傷ができてます」


『うん、思った通りだよ。どんなに寝相が悪い客が寝たところで、流石にベッドの脚に傷なんてできやしないだろうからね。犯人は殺人を実行するため201に向かうより先に、そのベッドの脚に縄梯子かロープみたいなものをキツく結んで窓の外から下階に垂らしておいたんだろう』



 推理を主導するツルギ様にとっては単なる確認作業でしかなかったようです。

 旅行カバンの底に縄梯子なりロープなりを隠し持ってきた犯人は、犯行前に無人の301号室にそれらをセット。そうやってあらかじめ脱出ルートを作っていたのなら、密室の謎などあってなきが如しというものでしょう。



『ふふ、でも犯人にとっては予想外に困ったことがあったんだろうね。あったんだろう、というか……まあ、外をウロウロ徘徊していた私達の存在なんだけど。

 元々の計画では301に逃れた後は、脱出に使ったロープなんかは丸めて外に投げ捨てるつもりだったんじゃないかな? でも、ふと窓の下を見たら冬眠に失敗したクマみたいにラメンティア君が歩き回ってるわけだろう? よじ登ってるタイミングでたまたま目撃されたら完全にアウトだし。逆に、私達が目撃してなかったということ自体が犯人が先にこっちの存在に気付いていた状況証拠になるんだけど。

 で、本来なら脱出に使った道具は朝までに深い雪に埋もれて春までそのまま、おおよその位置に当たりを付けておいてこっそり回収して処分しに来れば済んだんだけど、これでは下手に投げ捨てたりしたら物音ですぐバレてしまうかもしれないもんね』



 犯人はさぞかし慌てたことでしょう。

 ついでに言えば、元々の予定では死体が発見されるのは翌朝以降になる見込みでした。朝までの時間の猶予があれば、自室でこっそり縄を燃やすなどもできたかもしれませんが、そんな時間的余裕もほとんどありませんでした。


 かといって、重大な証拠品であるロープを自室に隠すのは論外。

 自分が犯人だと自白しているも同然ですし、置いておける場所は限られます。



「あっ、これじゃないですか? クローゼットの隅に丸めて置いてあるの。いくつか結び目があるのは、下の階から登って来る時に握り締めやすいようにする工夫っぽいですねぇ」


『うん、ご苦労さま。ああ、オーナー。形式的に一応聞くだけ聞いておくけど、このペンションではクローゼットの中にロープを備品として置いてたりは?』


「いえいえ、そんなワケありませんて」



 これで重要な証拠を一つ確保できました。

 とはいえ、これだけでは誰かがロープをこの部屋に捨てて行ったことしか分かりません。犯人を特定するには、もう一工夫が必要でしょう。



『厳密な科学捜査とかすれば、この犯人がロープをよじ登った時に残った微細な皮膚片をDNA鑑定したりとかでも特定できるかもだけど。あ、でも用心して手袋を着用してたら難しいかな? どっちみち現状だと科学の力に頼るワケにもいかないし、このまま昔ながらのアナログな推理を進めていくとしようか』



 でぃーえぬ……何でしょう?


 他の皆さんは特に引っ掛かりを覚えることなく話に付いていっている様子ですし、異世界のド田舎出身者としては妙な疎外感を覚えてしまう状況です。



『予定とは違ったものの、これで一応は邪魔なロープも手放せたわけだ。自分も容疑者の一人になってしまうのは避けられないにせよ、このままでは後から来た警察も犯人を決め打ちする確証はない』



 ここまでは順調に推理を進めているように思えましたが、301号室の捜索で確定したのは密室からの脱出手段のみ。ここから、どうやって犯人を絞り込むのでしょう?



『まあまあ、そう焦るものじゃあないよ。この事件にはまだよく分からない点が残っていただろう? ほら、諸君の部屋にイタ電がかかってきた件なんだけど』



 ああ、あの何か鳴ってたやつですね。

 他の皆さんの部屋でも同じように鳴っていたということでしたが。



『殺人や密室からの脱出という山場を越えた犯人だけど、最後に最大の難関が待ち受けていたわけさ。この301号室から廊下に出るところを万が一にも誰かに見られてしまったら、せっかくの苦労が水の泡。時間が時間だけに人が出歩いている可能性は低いけど、自然な心理としてこの重要な局面を運任せにはしたくないんじゃないかな?』



 その気持ちは分からなくもありません。

 それと例のあの機械との関係はどうもピンと来ないのですけど。



『なに、簡単な話だよ。部屋にいる時に電話がかかってきたら普通はどうするかな? そう、電話に出ている時は誰だろうと確実に部屋の中にいることになるよね。単純だけど、なかなか効果的なんじゃないかな? あるいは電話のベルが鳴っているのにも気付かないくらい深く眠っているのかもだけど、それならそれで安心だ』



 ふむふむ、つまりどういうことなんでしょう?



『犯人にとって、ほとんどの電話は本命の狙いを隠すためのフェイク。私とラメンティア君が屋外にいたのは見てただろうから、あの電話は301号室の出入りを目撃し得るサヤ君を302号室の中に確実に留め置くのが真の狙いだったんだろうけど……ふふっ』



 はて、今のお話に笑いどころはありましたかね?



『これについては犯人君に同情するよ。ミステリとしてはアンフェアもいいところだろうし。話は変わるけど、サヤ君や。キミ、さっきから微妙に話題に付いてこれてない感があるんじゃないかい?』


「ええと、その……どうもすみません」


『いやいや、別に責めてるわけじゃあないから勘違いしないでくれたまえ。なにしろ彼女と他の全員とでは前提とするモノが違うのでね。まさか知らないはずがない、みたいな先入観に犯人が捉われたのも無理はない』



 前提が違うというなら、それはまあ違って当然。

 なにしろ、こちとら異世界人です。

 あれ、でも単にここと違う世界の出身というだけならツルギ様やラメンティア様も同じですし、他全員と違うみたいな表現にはならないような?



『まあ、あまり長々と引っ張るものでもないだろう。サヤ君、さっきから微妙にハブられ感を与えてしまってすまないね』


「いえいえ、そんな……」


『そのお詫びというワケではないんだけど、キミがさっきから気になっているであろう疑問に答えてあげよう。さあ、遠慮なく言ってごらん?』



 それはまあ気になる点は多々ありますけど。

 話の流れ的に直接的に犯人の正体を問わせようとしている風ではありません。



「では、遠慮なく。場の雰囲気からして皆さんにとってはきっと常識みたいなものなんだろうなぁとは思いますし、すごく変な質問に思えたら申し訳ないんですけど、別にふざけてるわけではなくてですね」



 さっきからの話題に関連する疑問というなら、やはり……。



「あのぅ……さっきから皆さんが言ってる『でんわ』って何ですか?」



 あの音が鳴るヤツだとは思うのですが、「出る」とか「かける」とかさっぱり意味が分かりません。結局、あれは一体どういう道具なんですかね?



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