61.名探偵だよ、ラスボス様④
さっきの破壊音の発生源は、どうやらペンション二階の客室フロアだったようです。
壁が破られた際に舞い散ったであろう建材の破片が廊下のあちこちに散乱していますし、大きな音に驚いた他の皆さんも続々とこの二階に集まってきていますし、それより何より壁に大きな穴が開いた客室のすぐ前でうちの神様が愉快そうに高笑いをしています。
『くかかかっ、マヌケ面共がぞろぞろと集まってきおったな! おっ、サヤも起きてきたか。ちょうど、これから面白くなるところだぞ』
「いや、いやいやいや、面白くないですよ! な、なんで私のペンションに大穴が……!?」
真っ先に声を上げたのは、一階から上がってきたペンションの御主人。
まあ大事な財産が壊された現場を目撃したわけですし、動揺するのも無理はありません。残念ながら、この状況においては悪手としか言えませんが。
『やかましい!』
「ぎゃぁっ!?」
『今は悪が喋っておるところであろうが。文句なら後で聞いてやらんから少し黙っておれ!』
「ひ、ひどい……まだローンが二十年も残ってるのに……」
案の定、正当な抗議の声を上げた御主人はラメンティア様のゲンコツを落とされて悶絶する羽目になりました。というか、よくよく聞いたら文句を受け付ける気もないみたいですね。
『では、改めて。夕食の席にいたのはこれで全員だな?』
「ええと……ひぃ、ふぅ、みぃ……あれ? 一人足らなくないですか?」
夕食の席にいたのは宿泊客が八人に御主人が一人の計九人。
ですが、この二階廊下に集まってきた人数を指折り数えても、八人しかいないようなのですけれど。いない一人に関しては……三階から一緒に降りてきたお姉さんと同じく、ミステリ研究会とやらに所属するお兄さんのお一人でしょうか。
『いや、そいつもちゃんとおるぞ? ほれ、その壁の穴の奥、客室の真ん中あたりの床をよく見てみよ』
「え、はぁ……ひっ!?」
ラメンティア様に促されて壁に開いた大穴の向こうに視線をやると、そこで初めて室内に人が倒れているのに気が付きました。わたしに続いて他の皆さんも穴の奥を覗き込み、そして同じように驚いている様子。
「お、おい、お前何倒れてんだよ……?」
「は、早く彼に手当てを!」
まず真っ先に同じ研究会の皆さんが壁の穴を潜り抜け、それぞれ声をかけたり手当てを試みたりしています。このあたりは一見すると常識的な反応に思えますが、残念ながら応急処置が有効そうには到底見えません。どんな名医だって、左胸にナイフが深々と突き刺さった死体を治すなんて不可能でしょう。
これまで病気や飢えや寒さで亡くなった人の御遺体は地元時代に何度も目にしてきましたが、明らかな他殺死体というのは独特の迫力がありますね。
『やあ、諸君。ここで注目すべきは壁の穴じゃあなくて、そのすぐ横で閉まったままのドアなんじゃないかと言っておこうか。ほら、しっかり鍵で施錠されているだろう? ついでに、そこの被害者君のすぐ横に転がってるのがこの部屋のキーなんじゃないかな?』
ツルギ様に指摘されてここでようやくドアに注目しましたが、たしかにキチンと施錠されているように思えます。つまり、ついさっき壁が破られるまでは、この客室はいわゆる密室だったということになるのです。
単に脱出するだけなら窓から飛び降りれば下には分厚い雪のクッションがありますが、ただの人間が極寒の猛吹雪吹き荒れる山中に飛び出して無事で済むとは思えません。
部屋のどこかに犯人が逃げずに潜んでいれば謎も何もないですが、廊下からおっかなびっくり室内を覗き込んだ限りでは誰かが隠れているようには見えません。建物のオーナーとしての責任感からか宿の御主人が部屋に踏み入り、タンスの中やベッドの下などを覗き込むも人影らしき姿はなかったようです。
『ふっ、重要な証拠をそのまま保存するために、あえてドアではなく壁を蹴破った悪の心遣いに伏して感謝するがよい! いやぁ……流石の悪も本物の密室殺人とか初めて見たぞ。正直ちょっとテンション上がるな!』
「いやいや、テンション上げてる場合じゃないですって」
……と悪の神様に言っても無駄なのは分かっていますが。
ちら、と他の面々の様子を窺うも、とても演技で慌てたフリをしているようには見えません。果たして、この中の誰かが恐るべき密室殺人を実行した殺人者なのでしょうか?




