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ラスボス様は破壊したい!  作者: 悠戯
第二章『いろんな世界のラスボス様』

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59.名探偵だよ、ラスボス様②


 殺人事件が起こりそうだの何だのと物騒な話題で盛り上がっていた我々……いえ、わたし個人としてはあまり触れたい話題ではなかったのですが。特に声量を抑えていなかったせいか、どうやらその会話は他の宿泊客にも聞かれていたようなのです。



「あはは、たしかに定番ですよね!」


「うん、あるある! アレでしょ、猛吹雪で電話線が切れて警察に連絡できなかったり、あと氷を使ったトリックなんかもありがちだよね」



 などと盛り上がっているのは、わたし達と一緒に夕食の席を共にしている他のお客さん達。自分達が泊まっている建物で人が死にそうだの何だのと言われたら普通は嫌な気分になりそうなものですが、どういうわけか楽しげにあるあるネタなど話しています。その「あるある」を全然知らない身としては、若干の疎外感を覚えなくもないですが。



「実は僕達、大学のミステリ研究会の合宿で来てるんですよ」


「そうそう、だからこの手のネタには結構うるさいっすよ」


『ほう、ますますお誂え向きだな。この手の場所を舞台にした筋書きだと、ミステリ研究会だの同好会だのといった連中が、見当外れな素人推理で散々場を荒らした末に死体になって床に転がるのがお約束というものだろう?』



 ただでさえ尊大な上に失礼なラメンティア様の物言いにも、ミステリ研究会を名乗る皆さんは笑顔で大人の対応をしてくれています。


 こちらのグループは男性三人に女性一人の四人組。

 わたし達は神様と巫女と剣が全員揃って同じ部屋に泊っているのですが、あちらは贅沢にも一人一部屋を使っているそうで。一見するとにこやかに食事や会話を楽しんでいるように見えますが、この中に先程ラメンティア様が感じ取った殺気の主がいるのでしょうか?



「おやおや、なんだか面白そうな話をされてますな。おっと失礼、私も若い時分はその手の小説を随分と読み漁ったもので、ついつい口を挟んでしまいました」



 と、途中から会話に入ってきたのは温和で理知的な雰囲気のお爺さん。

 食卓に着くタイミングでの自己紹介を聞いた限りでは、つい最近まで学校の先生をされていたとか。現在は奥様と一緒にあちこち旅行しながら悠々自適の隠居生活を堪能なさっているそうです。元の職業的に、なんだか勝手に親近感を覚えてしまいますねぇ。



「妻は急な冷え込みのせいか風邪を引いてしまったようでしてな。他の皆さんに伝染(うつ)してはいけませんし、今は客室で養生しております」


「あら、それはお大事に」



 ミステリ趣味の皆さんは、これも何かのトリックの伏線なのではないかと趣味の悪い盛り上がり方をしていますが、流石にこんな人の良さそうなお年寄りが悪事を企むということはないでしょう。


 そうそう、ついでに自己紹介で思い出しました。

 他の皆さんと同様に、異世界から来た我々も食事前に自己紹介をしたのですが、



『神だ!』


『剣だよ!』


「あの……ええと、巫女見習いです」



 あの時の形容しがたい空気感をなんと説明したものでしょうか。

 どう見ても作り物ではなさそうなツノが頭から生えているとか、剣が喋っていたりだとか、一応の証拠となりそうなモノもないわけではないのですが、皆さん明らかに反応に困っているようでした。そりゃそうです。あの冷え切った空気から、よくここまで持ち直したものですよ。


 ここまで、ミステリ研究会の皆さんが四名。

 お一人はこの場にいませんが、老夫婦が二名。

 そして我々グループが三名。

 合計で九名の宿泊客をご紹介してきたのですが、ここで気になる点が一つ。



「そこの端の席、食器が並んでるってことは単にスペースが余ったわけじゃなくて、他に誰か座るはずだったんですかね?」



 食卓は全部で十人掛け。

 そのうち埋まっている席は八つ。

 内一つは老夫婦の奥様の席として、それと同様に空の食器だけが置かれている席が更にもう一つあるのです。単に席が余っただけなら、わざわざ食器を並べるものでしょうか?



「ああ、その席ですか。実は本日の予約がもう一人分入ってたんですけどね、この時間になっても結局いらっしゃらなかったもので。もしかすると、猛吹雪のせいで来るのを諦めたのかもしれませんねぇ」



 と、これはペンションを一人で切り盛りしている御主人の言。

 そもそも宿に来てすらいない予約客がいたということなら、この空席にも説明は付くでしょうか。ミステリ趣味の皆さんは相も変わらず物事の裏を深読みして、謎めいた十人目の客の正体が実はこの場にいる誰かなのではないか、などと言って楽しそうにしていましたが。


 まあ、それは流石に深読みがすぎるというものでしょう。

 現在、この山荘にいるのは宿泊客が九名にオーナーの御主人が一名の計十名。

 神様や喋る剣をその中に含めるべきかには検討の余地があるかもですが、そういったややこしい問題を抜きにしたら、これで間違いないはずです。


 別に人を見る目に大した自信があるわけではないですが、パッと見た限りではこの場にいる皆さんが凄惨な殺人事件など起こすようには見えません。お約束だの何だのと色々言われてましたけど、このまま最後まで何も起こらず肩透かしってパターンが一番濃厚なんじゃないでしょうかね?



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