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ラスボス様は破壊したい!  作者: 悠戯
第二章『いろんな世界のラスボス様』

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58/60

58.名探偵だよ、ラスボス様①


 ごうごうと音を立てて降る猛吹雪。

 窓の外は一面真っ白で、すぐそこにあるはずの林すら見えません。

 まさに、人間の立ち入りを拒む死の世界と言えましょう。



「いやぁ、実に良いお風呂でした。それにお風呂上りにいただく、この……アイス? わざわざ冬の盛りに温かい屋内で氷菓とは、なんだか悪いことをしてる気分ですねぇ」


『くくっ、悪の巫女としては随分とみみっちぃ悪事だな。まっ、確かに美味いが』



 すぐ外は吹雪が吹き荒れているというのに、屋内にいるわたし達はのんびりお風呂に浸かってから氷菓を堪能するという贅沢ぶり。ここの宿……ペンションと言うそうです……のサービスには素晴らしいものがありますね。


 まるで、お大尽になったような気分とでも言うべきか。

 このペンションに来るより前に、最寄りの街で一番大きかった(過去形の理由はお察し下さい)マフィア組織に殴り込んで、こじ開けた金庫の中身を粗方拝借してきた甲斐があるというものです。



『ロクでもない非合法組織の金庫で眠ってるよりは、私達が豪遊するのに使ってあげたほうがお金だって幸せというものだよね。浄財、浄財!』


「そ、そういうものですか……」



 先程のお風呂で念入りにブラシでゴシゴシ磨いたおかげか、今回はツルギ様もご機嫌です。ここに来る前の荒野の世界だと、水が貴重だったせいもあって水浴びなども満足にできていなかったんですよね。


 それと前の世界との違いを一点挙げるなら、ここではわたしも知るような貨幣経済がちゃんと機能しているという点でしょう。物々交換が全て悪いわけではないにせよ、やはりお金という道具が使えないのは何かと不便なものでした。


 資金の出所については都合よく忘れてしまうとして、この新たな異世界は大変に文明が進んでいる世界のようです。奪ったお金の大半は硬貨や貴金属ではなく、精巧な絵や数字が描かれたペラペラの紙でしたし。

 その紙のお金をチェックイン時に分厚い束で渡された宿の御主人は、金額が多すぎることに不審を抱いてか妙に顔が引きつっていましたけど。あれは恐らくですが、犯罪絡みのヤバい資金なんじゃないかと疑っていたのではないでしょうか。はい、大正解です。とても良い勘をされてらっしゃいます。


 まあ被害者のマフィア組織が現地の官憲に被害を訴えるかというと微妙な線ですし、そもそも居合わせた構成員の皆さんに逆らう気力が残っているとも思えません。ついでに言えば、この猛吹雪では現地の捜査機関がこの山荘にまでやってくるのは不可能でしょうし……ええ、色々と疑わしくはあっても、我々の滞在および宿賃の支払いが拒まれることはなさそうだということで。



「ふぅ、ご馳走さまでした……正直もうちょっと食べたくはありますけど、お菓子を食べ過ぎてお夕飯に障ってはいけませんし」



 我ながら、なんとも贅沢極まる悩みです。

 チェックイン時の説明によると、夕食は泊っているお客さんが一斉に食堂に集まって食卓を囲む形式となるそうです。恐らくは、料理を提供する段取りやら調理時間との兼ね合いでしょうか。

 

 たまたま居合わせた面識のないお客さんと食卓を共にするというのは、好奇心一割に対して不安九割といったところ。何か些細なことで機嫌を損ねたラメンティア様が、他の人達を殴ったり建物を壊したりしないかというのが不安の主な原因ではあるのですが。


 まあさっきのアイスクリームとやらを頂いた限りでは他のお料理にも期待が持てそうですし、食べ物の味に満足していれば余計な諍いを起こしたりする危険は……ちょっぴりでも下がったらいいですねぇ。



『では、メシの時間まで部屋でゴロゴロと……ん?』


『おや、どうかしたかいラメンティア君?』



 しかし物騒な気配は既に忍び寄っていたのです。

 それも、わたしの想像とはまったく別の方向から。



『いや、なにやら妙な殺気を感じたような気がしてな。ほんの一瞬だけだったが。あれでは、この建物のどこかからという程度しか分からんな』


『ははは、それは面白いね。ほら、なにしろ雪山の山荘といったら、嵐の孤島と並んで凄惨な殺人事件が起きるのが世の常識みたいなとこあるし?』


「そうなんですかっ!?」


『うむ、これに関してはツルギの言う通り本気(ガチ)真実(マジ)だ。もっとも、この世界の連中がそのあたりのお約束を理解しているかまでは分からんがな』



 なんですか、その恐ろしいお約束は……!?


 世界が違えば常識が全然違うというのは多少なりとも理解できてきたつもりでしたが、わたしの覚悟はまだまだ甘かったようです。本音を言えば、今すぐにでもチェックアウトしてこのペンションから離れたいところでしたが……。



『もし殺人事件が起こったら、その時こそ私の知性の見せどころだね! 思わせぶりな発言を無意味に連発して、イタズラ半分で状況をかき回してやろうじゃあないか』


『では、悪は関係者に片っ端から因縁を付けて真犯人の疑いをかけていくか! くっくっく、なんだか楽しくなってきてしまったな?』


『うんうん、早く何か起きてくれたらいいねぇ』



 こちらの身内二名が事件の発生を心待ちにしている状況では、脱出は到底叶いそうもありません。もし本当にペンションの中にいるどなたかが物騒な事件を起こそうと企んでいるのなら、絶対にロクでもない目に遭うことになるので、実行前に思い留まるようお伝えしておきたいところですねぇ。


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