53.世紀末世界のラスボス様②
『ぺっぺっ!? なんだコレは! とても食えたものではないではないか!』
幸い、貴重な種モミはそのまま消化されることなく吐き出されました。噛み潰されたモノも幾らかあるようですが、まだ形を保っているのを拾い集めれば植えるのに支障はないでしょう。
「そりゃそうですよ。加熱調理どころか脱穀すらしてないんですから」
『そういうものか? さっき奪ってきた権能の中には料理関係のやつもあったと思うが、そもそも悪は調理などというチマチマした真似はせんのだ』
せっかくのすごい能力も、使う気がなければ無いも同然のようでして。
この世界の作物がわたしの世界のソレとどの程度違うかは分かりませんが、素直に考えるなら籾殻を取ってから粉に挽いてパンを焼くなり、鍋で煮込んでお粥にするなりして食べるのがオーソドックスな調理法となるでしょうか。少なくとも、生のまま籾殻ごと噛むよりは美味しくなると思います。
「そもそも量がこれっぽちじゃ大してお腹が膨れそうもないですし。ここはお爺さんの希望通りに一旦増やして、それからご相伴に与るのが一番美味しい結果になるんじゃないですかね? ね、お爺さん?」
「そ、そうですそうです! 皆さんどうやら随分と腕が立つようですし、しばらくワシらの村で用心棒などしてもらえたら、お礼としていくらでもご馳走しますですハイ」
ちょっと誘導が露骨すぎましたかね?
うちのラメンティア様が普通に種モミが育つのを悠長に待つとは思えませんし、お爺さんが想像している流れとは大幅に異なる展開となるでしょうけど、このあたりが穏当かつ建設的な落としどころではないでしょうか。
『やれやれ、仕方がない。巫女の口車に乗せられてやるとするか。ジジイ、バイクには乗れるか? ちょうどそこに一台落ちているから、それで貴様の村に向かうとしよう』
流石に一台に三人乗りは厳しいですし、都合よく別のバイクが落ちていて助かりました。言うまでもなく先程の野盗が乗っていたヤツなのですけれど、お爺さんとしては危うく強盗に遭いかけたわけですし、ここは迷惑料として頂いてしまってもいいでしょう。果たして、我々と彼らのどちらが強盗なのか一瞬疑問に思いもしましたが。
◆◆◆
「ここがワシの村ですじゃ。おーい、戻ったぞー!」
バイクで走ることしばし。
わたし達は無事にお爺さんの住む村へと辿り着きました。
「あっ、スミスの爺さんが帰ってきたぞ!」
「食料は見つかったのか?」
「ほれ、種モミじゃ! これで米が作れるぞい!」
村の人口はパッと見た限り五十人いるかどうかといったところ。
着ている物も随分と年季が入っているようですし、皆さんずいぶん痩せています。下手をしたら、わたしの地元よりも暮らし向きが厳しそうです。
それに食糧事情に余裕がないのは分かっていましたが、失礼ながら村内のほとんどの家が廃墟同然のボロボロ状態なのが気にかかります。
『ふむふむ、私の見たところボロボロなのは表面だけで、ちゃんと鉄筋が入ったコンクリート造りのようだよ。こう見えて案外頑丈なんじゃないかな? ここの暮らしぶりには不釣り合いなしっかりした構造だけど、察するに戦争や大災害なんかで元々あった高度な文明が崩壊したのが今のこの世界なんじゃないかな? 建物にしろ資源にしろ、まだ使えそうなモノを再利用するのが生活の基本になってるんだろうね』
というのが、ツルギ様による考察だそうで。
後で聞いたところ、これでほぼ正解だったようですが、それはそれとして。
「なんだ、今の誰が喋ったんだ?」
「気のせいか、あの剣から声が聞こえたような……」
我々のことは流しの用心棒としてお爺さんにご紹介いただいたんですが、まあ客観的に見てなかなか怪しい存在であるのは否めません。ここの世界でも喋る剣というのは一般的ではなさそうですし、それは当然驚くでしょう。
ですが、彼らが本格的に腰を抜かすのはここからでした。
『ふむ……ツルギの言う通りなら、このあたりにも元々は高層ビルやら何やらが並んでおったということか? どうなのだ、ジジイ?』
「あ、ああ……ここいらも、ほんの十年そこら前までは今とは比べ物にならない大都会だったんじゃが……」
『そうか、ならばよい。そこいらの廃墟では悪が寝床とするには相応しくないゆえ、それらを宿として使ってやるか』
「え、あの? それはどういう……えっ、えぇ~~~~!?」
お爺さんとしては空いている廃墟のどれかを我々の宿として使ってもらう気だったらしいのですが、砂だらけ埃だらけの廃墟は我らがボスのお気に召さなかったのでしょう。
なので、自前で宿を手配することにしたようです。
ちら、と視線を向けた先の地面から生えてきたのは、とてつもなく背が高い巨大建造物。それも一つ二つではなく、何百何千という数の建物が何もない荒野にボコボコ生えてきたではないですか。
わたしの世界の帝国の繁栄ぶりにもずいぶん感心した覚えがありますが、あの大国家の首都ですらこんなサイズの建物は見かけませんでした。
『ふむ、こんなところか。滅んだ都市を軽く復元したまでのことよ。これだけ直せば悪が泊まってやってもよいと思える建物の一つか二つはあるだろう』
相変わらず、やることの規模がメチャクチャです。
村の中だけはさっきのままですが、そこから一歩外に出たら先程までバイクで駆けていた荒野など一切見当たりません。地面も石のように硬い素材で舗装されているようです。
「あ、そうだ。言い忘れてましたけど、あの方、神様なので。悪いことは言わないので、くれぐれも怒らせたりしないほうがいいですよ?」
村の人達はロクに返事もできず必死にコクコク頷くばかり。
普通なら疑わしいことこの上ありませんが、目の前の光景はわたしの言葉を素直に信じて余りある説得力をもたらしてくれたようです。




