50.カツアゲをしよう!
皆さん、どうもこんにちは。
この度めでたく神様のペットから巫女見習いになったわたし、サヤが今どこにいるのかと申しますと……なんというか、説明が難しくはあるのですが。
「へえ、死後の世界ってこんな感じなんですねぇ」
一言で表すなら『天国』でしょうか。
この空間がどこまで続いているのかは存じませんが、足下にあるのはフワフワとした雲の大地。空には昼と夜とが同時に入り混じったような不思議な光景が広がり、まだ中を検めてはいませんが建物や木々の類もあるようです。
ちなみに今現在の時系列は、わたしの暮らしていた世界からまだ見ぬ異世界へと旅立った五分後くらい。ですが、別にあれだけ意気込んだ矢先にあっさり事故や事件に巻き込まれたり、ラメンティア様のうっかりミスで死んでしまったというわけでもなく……わたしとしても明瞭な説明をしたいのは山々なんですけど、なにしろ他の皆さんが揃いも揃って聞き覚えのない言語で会話をしているせいか、こちらとしても状況を掴み切れていないのです。
『~~~~~~』
『~~~~、~~~~っ!?』
やはり、いくら耳を澄ませたところで意味はさっぱり分かりません。なので、あくまで見た目から判断できる限りの状況説明となってしまうのをご承知おきくださいませ。
今現在、わたしが把握している限りでこの空間にいるのは全部で五名。
うち三名はわたしとラメンティア様とツルギ様、残るもう二人は綺麗なお姉さんと地味な風貌のお兄さん。で、そのうち前者の美人さんの胸倉をラメンティア様が掴んで、なにやら恫喝している風なのです。
なにしろ会話内容がさっぱり分からないので意図を掴み切れない部分はありますが、あれは恐らく何かしらの言いがかりを付けてカツアゲでもしているんでしょうねぇ。
と、一人だけ蚊帳の外にいる気分で見学していたのですけれど。
「あれ、何か……コイン?」
ラメンティア様に脅されていた風のお姉さんが何故だかその場でピョンピョン跳ぶと、着ていたドレスの隙間から数枚の硬貨らしきモノが、チャリンと音を立てて雲の地面に転がり落ちました。そしてラメンティア様はそのうち一枚を拾い上げると、わたしに向けてポイと放り投げ……。
『よし、やはりあったか! では、サヤ。そのコインをだな』
「ええと……見たことないお金ですけど、これからどこかに買い物にでも?」
『いいや? まあ、いちいち口で言うより実際に体感したほうが早かろう。サヤ、そのコインを飲み込むがよい』
「え」
いやまあ、命令とあれば仕方ありませんけど。
こんなの食べたらお腹壊したり歯が欠けたりしませんかね。
『大丈夫だ、多分。見た目は金属っぽいが、味と硬度は見た目相応のコインチョコ並に……と、そもそもサヤはチョコレートを知らんか。まあ意外に美味いはずだから、騙されたと思って食ってみるがよい』
「はぁ、それじゃあ……あれ、甘い?」
うわ、なにこれ美味しい。
指で触れた感触は硬い金属質だったのに、歯で押すと簡単に潰れて何とも言えないコクのある甘味と芳醇な香りが広がります。先程はてっきりお金をカツアゲしているのかと思いましたが、実はお菓子を奪うのが目的だったのでしょうか……おや、何やら違和感があるような?
『な、なんですか!? なんなんですか、アナタ達!? ていうか、なんで私が与えるはずだった能力がそんな風になってるんですか!?』
『くくく、馬鹿め! そんなもん、悪がそうなるようにしたからに決まっておろう!』
さっきまで知らない言語で喋っていたはずのカツアゲ被害者のお姉さんが、何故だかわたしにも分かる言葉を話しているように聞こえます。
否、正確には発音される音そのものに覚えはないのですけれど、その意味が頭の中で既知の言語に変換されているかのような。自分でも上手く説明しがたい奇妙な感覚ではあるのですが。
『サヤ、この女が何を喋っておるか分かるか?』
「え、ええ……あのぅ、さっきのコインが原因だというのは何となく分かるんですけど、アレって何だったんですかね? とりあえず味は美味しかったですけど」
『この手のお約束を理解しとらん奴に説明するのはチョイと面倒だが、アレは与えた相手に任意の超能力を付与する権能の一種……を、悪が更に扱いやすいよう加工したものだな』
「権能ということは、そのお姉さんも神様だったんですか?」
『如何にも。無論、悪とは比べ物にもならぬザコではあるがな』
どうやら、カツアゲの対象はお金でもお菓子でもなく他の神様の権能だったようです。今の説明から判断する限りでは、あのコインを食べたことでわたしに未知の言語を解する不思議能力が身に付いた……という理解で合ってますかね?
『うむ、さっきのは確か……「完全言語の極み」とかそんなんだったか? ほれ、これから共に色々な世界を荒らし回るにしても、毎度いちいちサヤのための通訳だの学習パートだのを挟むのはまどろっこしいからな。冴えた悪は、その手の面倒を一気に解決する名案を考えてやったのだ!』
「そ、それは、お気遣いどうも……」
『翻訳のためのアイテムということで、先人へのリスペクトを表してコンニャクにすべきかどうか一瞬迷ったが、地面に落ちたコンニャクとか悪も食いたくないのでな』
そのコンニャク云々はよく分かりませんでしたが。
言葉が通じるからといって、必ずしも会話が通じるとは限らないようです。
それはさておき、あれだけであらゆる世界のあらゆる言語を解するようになるとは、異世界には便利なモノがあるんですねぇ。そこらに散らばってる他のコインにも、色々と便利な能力が入っているのでしょうか。
『ここ最近は一時期に比べてジャンルの盛り上がりも落ち着いてきた感はあるが、うっかり死なせた人間に詫び名目で適当な御都合能力を与えてから、適当な異世界に放り出して右往左往するのを観察する遊びが一部の神界隈で流行ったことがあるらしくてな。察するに、この女もその類であろう』
「ははぁ、神様は遊びのスケールも大きいですねぇ」
『うむ。まあ悪が本気を出せば、わざわざ他の神を頼る必要などなく任意の超能力を生やしてやる程度は楽勝で出来るのだがな。悪は結果だけではなく、そこに至る過程も重視する神なのだ。というわけで、休憩終わり! ほれ、他にもまだまだ隠し持っておるのだろう? オラッ、もっとジャンプしてみんか!』
『ひぃ!? どうして権能がチャリチャリ音を立ててるんですか!? なんで跳んだだけで落ちちゃうんですか!?』
目の前で権能をカツアゲされてる神様には気の毒ですが、そのおかげで今後の旅が快適なものになると思えば、ここは上司の悪行を見て見ぬふりするのが正解ですかね。せめて、貰ったモノは感謝しながら大事に使わせていただきましょう。




