47.悪の教えを広めよう!
「――――かくして驕り高ぶった神々は強く美しいラメンティア神の働きにより自らを見つめ直し、正しく人々を守り導くよう心を入れ替えたのでありました……と、このような具合で如何でしょうか?」
『うむ、まあ、そんなもんだろう。褒めてつかわすぞ、大神官とやら。とはいえ。実際のこいつらの働きがどうだかは要監視といったところだがな』
現在は先程までお茶をご馳走になっていた大神官さんを呼びつけて、今日の出来事を記述させている真っ最中。もちろん単なる日記などではありません。
『じゃ、それを貴様らの教典にデカデカと書き足しておくがよい。他の宗教だか宗派だかにも忘れず伝えておくのだぞ』
「御意、拙僧に委細お任せくだされ」
色々と問題のある方ですが、大神官さんの能力面はラメンティア様も信用しているのでしょう。こうして世界中の神話には漏れなく最新の1ページが書き加えられ、我らがボスは数多の神々をこてんぱんにやっつけてスタンスを変えさせた最高神として、神話の頂点に君臨することになったのです。
話の規模が大きくなりすぎてわたしも状況を見守ることしかできませんが、まあ、なっちゃったものは仕方がありません。
ちなみに先程のレンタル料に関しては、権能を貸与している間は借り手の神々が人々から得た信仰の半分をラメンティア様に上納する契約になったとか。
他の世界を含めた全ての神様がそうであるわけではないそうですが、うちの神様に関してはそうして人々の信仰心や恐れの感情を獲得することで、自らの強さや不死性をどんどんと増していけるのだそうです。支払いが滞った時点で問答無用でレンタル終了となるそうですし、滞納の心配はないでしょう。
「ラメンティア神、他に何か記述しておくべきことはございますかな?」
『そうだな……あまり説教臭くなるのは好まぬが、一応のおさらいくらいはしてやるか。神だろうが皇帝だろうが王だろうが、ただそういう立場であるというだけで無条件で正義として在る者などありはせん』
さっきまで最高神だった太陽神の言ったことについてでしょう。
どれだけの人を殺そうが傷付けようが、正義そのものである己の行いであれば常に肯定されるべし。ラメンティア様は、その傲慢にハッキリと否を突きつけました。
『殺そうが盗もうが正義である自分のやることは全て正しいなどと、そんな馬鹿なことがあるはずもなかろう。正義の味方であるうちはまだ良いが、正義そのものを自認するような者はロクなことをせんものだ。貴様らの歴史においても心当たりの数は一つや二つでは収まるまい?』
人が自覚的に悪いことをしている時は、多少なりとも加減をしようという気持ちが生じるもの。ですが自らが善だと信じて疑わない人に、そういうブレーキはまるで期待できません。
虐殺とか略奪とか、他にも例を挙げればキリがないでしょうけれど、人の歴史における凄惨な事件の幾らかは、熱狂的な善意と正義感とによって引き起こされてきたのです。
『とある個人や集団の善悪は、その者らが何を言ったかではなく、実際に何をしたかという行動によってのみ見極めよ。言葉は容易に偽れるが、行動を偽るのは簡単なことではないゆえな。それも全くないではないゆえ、観察の際は常に注意を怠らぬようにせよ、と。まっ、こんなところであろう』
これにて悪の神様によるありがたい教えも一段落。
書記役を任せられていた大神官さんの手によって、少なくとも帝国の勢力圏においてはそう遠くないうちに広められることでしょう。
「貴重な教えを授けて下さりありがとうございました。では、拙僧はこれより傷ついた女神様方を介抱がてらワンチャン狙いで口説きに参りますので。これにて失敬」
『お、おう……相変わらず、凄いな貴様』
ショックを受けて放心状態の神様達より、この大神官さんのほうがよっぽど人間離れした精神性をしている気がしますねぇ。御自分のところの神殿が祀っている太陽神が弱々しくへたり込んでいるのは一切気にも留めずに女性の神々へ声を掛けに行ったのは、流石のラメンティア様も若干引いていましたし。
ともあれ、これで一通りの用事は完了しました。
今は力なく座り込んでいる神々も過程はどうあれ力の何割かは取り戻せたはずですし、このまま放っておけばそのうち勝手にどこかしらへ行くでしょう。
「ラメンティア様、この次はどこに行くんですか?」
とはいえ、この世界の主たる調子乗りは一通り叩き潰してしまったわけで。
『ううむ、この世界も大体の底が見えてしまった感があるからな。いずれ程よく発展した頃に再び略奪なり破壊活動なりに来るのはアリだが、それも当分は先のことであろう。このまま居ても退屈を持て余すだけであるし、またぼちぼち他の世界に足を伸ばす頃合いか』
次なる目的地は、この世界とは別の異世界となるようです。果たして、どんな人外魔境が待っているのかドキドキします……が、その前に。
『おい、サヤ』
「はい、なんですか?」
『そなた、このままずっと悪に付いてくる気か?』
わたしは、今後の人生を左右する重大な決断を迫られることになったのです。




