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ラスボス様は破壊したい!  作者: 悠戯
第一章『さだめを破壊すラスボス様』

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45.不可逆のツルギ


 最早、勝敗は完全に決しています。

 我らが悪の神様は宣言通りに髪の毛一本で神々の軍勢を喰い散らかし、まだ辛うじて生き残っている敵にしても大半は戦意を喪失して許しを乞うているような有様です。


 わざわざ温存していた奥の手を持ち出すまでもなく、その身一つで如何様にも始末を付けられそうなのですが、当のラメンティア様はそうは思わなかったのでしょう。



「って……ひぇ!?」


『ああ、多分サヤ君に噛みついたりはしないから大丈夫だよ。それよりも、どうやら私に用があるらしいからね。ちょっと蛇の口に私を咥えさせてやってもらえるかい』



 頭のサイズだけで自分の背丈より大きな蛇が、いきなりわたしの目の前に移動していました。さっきは上空で暴れているのを遠くから見上げていただけでしたけど、すぐ近くで見るとハッキリ言ってメチャクチャ怖いですね……。



『じゃあ、ちょっと行ってくるよ。すぐに終わると思うから、その辺りで待っててね』


「はあ……ええと、頑張ってくださいね?」



 ツルギ様を口に咥えた白蛇は、そのまま身体を折り曲げて本体たるラメンティア様に剣を渡しに行きました。

 これまでお買い物に政治経済にと多方面で才覚を発揮してきたツルギ様ですが、何故だか肝心の武器としての活躍の場面は一度として見たことがありません。今回が記念すべき初めての機会となるのでしょうか。


 なにしろ本気を出せば本物の太陽すら破壊できるらしいラメンティア様が、わざわざ武器を手に取ったのです。きっと人知を超越した凄まじい破壊力が秘められているのだろうなぁ……みたいに思っていたのですが、結論から言うと全くの的外れ。



『来たか、ツルギ。では早々に仕上げるとするか』


『はいはい、じゃあ適当に振り回してくれたまえ』



 ツルギ様を右手に握ったラメンティア様が、ふっ、と消えたと思ったら、太陽神が背後から胸の中心を串刺しにされていました。ご本神もいきなり刺されたことに驚いている様子だったのですが、



「あら?」



 あくまで地上から見ている限りにおいてですが、そんな風に刺されているのに何故だか全然平気そうです。さっきまでの蛇の噛みつきと違って、痛みすら感じている様子がありません。



『ほれ、とっとと他の連中も済ませるぞ』


『痛くしないから、大人しく斬られるか刺されるかしてもらえるかな』



 そこから更に謎は深まるばかり。

 ラメンティア様は手当たり次第に神々を斬ったり刺したりしているのですが、まるで空振りであったかのように、どの神様もまるで苦痛を感じていないようなのです。


 この不可思議な時間の意味がどこにあったのか。

 大いなる絶望と敗北感と共に神々が思い知るのは、この直後のことでした。



『さて、では続きをやるか! 貴様らには髪の毛一本でも荷が重かったようだからな、今度は攻撃どころか防御も回避もしないでやるから好きなだけ攻撃を打ち込んでくるがよい。くっくっく、まったく悪ながら大サービスにも程があるな!』



 ここまで来ると、もうハンデなのかすらも分かりません。ラメンティア様からは攻撃をせずに、それどころか敵が何をしてきても防いだり避けたりしないという大盤振る舞い。なんとも怪しいというか、普通に考えたらまず間違いなく罠を疑うことでしょう。



『こっ、この……せめて一矢報いてくれる!』


『全員で一斉に打ち込めば、少しくらいは……』



 ここまでの過程で大いに実力差を思い知らされた神々ですが、それでも神としての自負とプライドが無謀な攻撃を選ばせたのでしょう。もっとも、仮に攻撃を選ばなかったところで手遅れなことに違いはなかったのですが。


 太陽や雷電やその他諸々、それぞれが得意とする権能を行使しようとした神々ですが……残念ながら、それは無理でした。単に狙いを外したとかではなく、そのままの意味で各々が得意とするはずの技がどれもこれも不発に終わっていたのです。



『なっ!? このっ、どういうことだ!』


『まさか、さっき刺されたせいで!?』



 少し考えれば、この不調の原因が先程の全然痛くない剣にあるのは明らか。

 そこでようやく、ラメンティア様とツルギ様による種明かしが始まりました。



『くっくっく、ようやく気付いたか! このツルギは刃物としてはナマクラ以下。銀河系とかチョップで割れる悪が本気で振っても、殺傷力が完全にゼロになってしまうゆえ紙の一枚すら切れやせぬ。そもそも刃先を強く押し付けても物体をすり抜けるだけだしな』



 世に武器の類は数あれど、こと破壊力という点に関しては、ツルギ様を下回るナマクラなど一振りたりとも存在しないことでしょう。そこらの木の枝を振り回したほうが、まだしも威力がありそうです。



『でもまあ、それでも私にはちょっとした特技があってね。権能殺しとでも言えば分かりやすいかな? 要は、神様やそれに由来する権能を殺して二度と使えなくしちゃうんだけど』


『くかかかっ、曇り空ひとつ晴らせぬ太陽神に、冬場の静電気にすら負ける雷神か。その他の連中も、まあ揃いも揃って何もできない無能揃いときた。明日からどのツラ下げて神をやっていくのだ? どいつもこいつもイイ笑い者だな!』



 その説明を聞いて、どうにか能力を使えないか試していた神々が一斉に青ざめました。今の話に偽りがないのなら、最早彼らに神としての資格があるかすら怪しいでしょう。



『なっ、なな……か、返せ! 返してくれ!?』


『馬鹿者、それが神にモノを頼む態度か!』


『ぐ、うぅ……か、返して、ください、お願いします』


『いや、いくら丁寧に言われても無理なんだけどね? 一時的な封印とかならまだしも、なにしろ権能を完全に殺しちゃってるわけだから。ははは、私ってばそのあたりの融通は全然利かなくてさぁ』


『そ、そんな酷い……っ』



 もう恥も外聞もなく泣きながら懇願している神々ですけど、そもそもツルギ様の能力は不可逆なものだそうで。

 素直に尊敬しにくい神様達でしたけど、絶望のあまり顔を覆ってオイオイ泣き出すのを見ていると流石に気の毒になってきました。これなら蛇に丸呑みされて跡形なく消化されていたほうが、まだしもマシな気分だったかもしれませんね。



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