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ラスボス様は破壊したい!  作者: 悠戯
第一章『さだめを破壊すラスボス様』

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44.ホワイトスネイク


『ここからは左手一本もやめだ。貴様ら如きなら、髪の毛一本で事足りる』


 どうやら普段よりも重めの怒りを抱いているらしきラメンティア様ですが、なんと先程までの片手一本のハンデを無しにした代わりに今度は髪の毛一本で相手をすると堂々宣言。


 ハンデを割り増しすることで神々に更なる屈辱を与えることが狙いなのでしょうか。

 強い弱い以前に何をどうすれば髪の毛で戦えるのかも人間の身には不明です。すでに治ったとはいえ向こうにはラメンティア様にダメージを与える手段もあるようですし、ここは気を引き締め直して本気で戦うべきだと思うのですけれど。



『いやいや、彼女が本気で戦ったりなんてしたら危ないからね。さっきの太陽の小型複製みたいなヤツもそこそこだったけど、あんなのとは比べ物にならないっていうか複製ならぬ本物の太陽が軽く消し飛びかねないっていうか』


「そ、そんなにですか……?」


『うん、そんなにだね。まあ安心して見てなよ。すぐ終わると思うから』



 神様基準でも桁外れ実力を持つらしいとは薄々気付いていましたが、ツルギ様の口ぶりからするに我が上司の本当の強さはこちらの想像を更に大幅に超えてくるようです。

 その一端をこれから見られると思うと、不謹慎かもしれませんが正直ちょっとワクワクしてしまったり。相手をする神様達は大変ですが、個人的にあんまり好きになれそうにない方々ですし、まあ別にどうなってもいいかな……ってくらいの感じで。



「え?」


『ああ、始まったみたいだね』



 さっきまで威厳たっぷりに構えていた太陽神や雷神、それからその他大勢の神々の幾らかが……欠けていました。たとえば太陽神は右腕から肩口にかけてを大きく抉られ、雷神は腰から下の下半身を丸ごと喪失しています。


 更に恐ろしいのは、その本人達にも自分達が何故そうなっているのか分からないらしいという点。わたしは遠目に見ているだけですが、当の怪我神達もどうやら周囲の誰かに指摘されて初めて自分が欠けているという事実を自覚したようなのです。


 そうした『欠け』を認識してようやく痛みや恐怖がやってきたのか、とても数え切れないほどの苦悶と動揺の声が上空から聞こえてきました。



『一応言っておくとな、悪としては程々に貴様らをおちょくったら適当なところで勘弁してやるつもりだったのだ。さっきまでの話だが』



 そこでまた多くの神々が肉体の一部を大きく失いました。

 こうして遠くから見上げていても何がどうしてそうなったのか全然分かりませんし、必死の形相で次なる攻撃を警戒している神々にすらも、ラメンティア様がどんな技を使っているのか理解できていないのでしょう。



『さっきも言った通り、悪は髪の毛一本しか使っておらぬぞ。たまたま神として生まれた幸運に胡坐をかいて怠惰に浸り切った連中にはそれすら荷が重いか?』



 そこで今度は神々の軍勢の後方から悲鳴が上がりました。

 密集しているため個々の被害まではよく分かりませんが、またも多くの神が手や足を消されてしまったのでしょう。いったい髪の毛で何をどうすればこの結果になるのかは未だ全く分かりませんが。


 たとえ死者はおらずとも、人間の軍隊なら既に壊滅同然。

 この混乱状態においても未だ戦意を保っていた者がいたこと自体は称賛に値するでしょう。



『ええい、静まれ! 静まるのだ! 見た目こそ健常でも悪神とて主神の一撃で深手を負っているはずだ。こんな苦し紛れの悪あがきなど、この怪力ナンバーワンの戦神ノーキーン様が――――』



 まあ、残念ながら力自慢の神様が喋れたのはそこまでだったのですけれど。ここでわたしや他の皆さんも、ようやくラメンティア様の攻撃の正体を知ることができました。



『~~~~~ッッ!?』



 さっきの脳筋様とやらが急に言葉を途切れさせたのも納得。

 なにしろ神一倍立派な体格をした筋肉モリモリの巨漢の上半身が、とんでもなく大きな白蛇の口に呑まれてジタバタ藻掻いていたのです。ご本神は何が起きたのか理解できていないのでしょうが、この体勢でいくら足をバタバタさせたところで脱出が叶うとは思えません。



「あっ、全身丸呑みにされちゃいましたね」



 上半身を咥えられた状態で右に左に、上に下にと激しく揺さぶられ、激しくバタついていた足がぐったり力を失ったあたりで一度大きく口を開き直してパクっと丸呑み。

 そのまま大蛇のノドから腹の奥へと移動するにつれ、外側から見てもハッキリそうと分かるように蛇の胴体の膨らみが小さくなり、ついには完全に消化されてしまったのでしょう。白蛇は真っ赤な舌をチロチロと揺らしながら、ご機嫌そうに次なる獲物を見定めているようです。



神気(あじ)が薄いな。だがまあ、こいつら程度でも一応は神。小腹を埋める足しくらいにはなるか』



 どうも白蛇の味覚はラメンティア様と繋がっている様子。

 というか、今になってようやく観察する余裕が出てきましたが、巨大な白蛇はラメンティア様の白髪が変じたモノだったようです。

 帝都を幾重にも囲むほど長い身体の尾っぽの部分だけが不自然に細くなっており、それがそのまま髪の毛として頭から生えるような形になっておりました。



『ほれ、避けんでいいのか? なぁに、ほんの光速の十倍程度だ。そんな速さは物理的に実現し得ないとでも思ったか? 神ならば自分の都合で世界の法則を捻じ曲げる程度は出来て当然、貴様らの奮闘を期待しておるぞ。ちなみに人間の髪の毛の数は十万本ほどと聞くが、悪の場合はざっくり百万本といったところか。もし万が一にでも貴様らが悪を追い詰めるようなことがあれば、少なくとも今の百万倍まで攻撃の手数が増えるということだな。まあ頑張れ』



 ちょっと理解が追いつきませんが、要は自分はメチャクチャ強い上にたっぷりと余力を残しているという主旨のことを言っているようで。

 それが真実なのかハッタリも込みなのかは只人の身には分かりませんが、少なくとも神々の戦意は今の発言ひとつでガクッと落ち込んだ模様。太陽神や雷神が欠けた肉体を再生させながら抗戦を呼びかけていますが、軍勢の後方を中心に逃亡を図る神も続々と出てきているみたいです。



「あ、でも逃げようとした神様達がどんどん丸呑みにされちゃってますねぇ」



 どうやらラメンティア様に敵を見逃すつもりはなさそうです。

 動く瞬間そのものは速すぎてまるで見えないのですが、時折、蛇の身体が空の遥か彼方まで伸びているのは最初のうちに左手一本で殴り飛ばした神々を食べに行っているのでしょうか。


 そうして神々の数はどんどんと減っていき、全身残らず丸呑みにされたのが全体の半分ほど。残り半分も五体満足な者は誰も残っていないようです。なにしろ。頑張って食い千切られた手足を再生させても、またすぐに蛇が噛みつきに来るわけで。


 これでは残る半分を平らげるのも時間の問題でしょうか。

 この世界から神様が誰もいなくなったことで何かしらの悪影響がないかどうかは心配ですが、この戦いとも言えないような一方的虐殺についてはぼちぼち決着。神々にとって、これ以上の絶望と屈辱はあり得ないだろう……なんて、



『ふむ、そろそろ頃合いか? ツルギ、出番だぞ』



 わたしの考えはまだまだ甘かったようです。



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