43.勝負の終わり
とても目を開けていられないような凄まじい閃光。
そして数瞬遅れて地上に届いた轟音と熱。
もう冬も近いというのに、まるで真夏の日差しを浴びたかのような……まで考えて、ようやく違和感に気付きました。
「あれ、死んでない?」
それも半死半生で辛うじて死に損なったという風でもない五体満足。見れば周囲の人々も同様に無事のようですし、火事になった建物なども見当たりません。
なにしろ、太陽神の権能によって複製された太陽が地上に向け落ちてきたのです。
もしも十全な熱と破壊力を発揮したならば、帝都そのものが跡形なく消し炭になっていたことでしょう。とても真夏の暑さ程度で収まるはずがないのですけれど……?
『……あ、コレちょっとマズいかも』
「ツルギ様? マズいって何が……」
『うん、まあ見てれば分かるよ』
どうやらツルギ様には被害が軽微で済んだ理由が分かっていたようです。
わたしも次第に目の眩みが治まってきて、ここでようやく先程までと同様に上空にいるはずのラメンティア様を探したのですが、さっきまで戦っていた付近にはまるで姿が見当たりません。
直前までボコボコにされていた雷神は同じ位置に浮いているようですし、果たして何があったのか……と、改めて同じ疑問を思い浮かべたところで雷神や太陽神など神々の皆さんが、揃って視線を上に向けているのに気付きました。
『サヤ君、手短に教えておくとキミ達が無事だったのはラメンティア君が自分から高度を上げて、向こうの本来の想定よりもずっと高い位置で落ちてきた太陽に突っ込んで炸裂させたからだね。あのままだったら帝都全部が灰になってただろうし、ここはファインプレイだと言っておこうか』
「自分からって……そ、それ大丈夫なんですか!?」
まさか、わたしや帝都の人々を守るために身体を張るとは。
悪の神様らしからぬ自己犠牲の精神には感謝してもしきれませんが、いくらラメンティア様が頑丈とはいえ太陽の直撃をまともに受けては無事ではいられないのではないでしょうか。先程ツルギ様の言った『マズい』とは、てっきりそんな意味合いかと思っていたのですけれど。
『いや、そっちの意味だったら別にいいんだ。ていうか、普通の人の視覚能力だと分からないだろうけど、ラメンティア君なら全然平気そうだしね。ちょっと過激な日光浴で全身日焼けしたくらいかな』
「また物騒な日光浴もあったものですねぇ。でも、結局それだと何がどうマズいんです?」
『まあまあ、すぐに分かるさ』
このあたりで、ようやくラメンティア様が高度を落としてわたしの目でも見えるくらいの高さまでやって来ました。さっきまで戦っていた時と同じくらいの高度でしょうか。
ツルギ様が言っていたように、髪や肌や白いドレスなどがところどころ焦げているようですが、それらのダメージに関してはこうして眺めている間にも見るみる治癒が進んでいるようです。服まで直るのは不思議ですけど、このままのペースだとあと何十秒かすれば完全に元通りになりそうです。
が、それはあくまで肉体や衣服に関しては。
精神面については、その限りではなかったようです。
『……誤解されぬよう先に言っておくがな。悪は別に攻撃されたことに怒っているわけではない。なにしろ戦いをしておるのだからな、攻撃をするのもされるのも当然である。むしろ策を駆使して攻撃を届かせたこと自体は見事だったと褒めてやってもよい』
ラメンティア様は普段から大変よく怒ります。
普通の人なら気にも留めないか黙って呑み込むような些細なことで怒り、それで近くの誰かを殴ったり怒鳴ったりするわけですが、今回はそういった時とは雰囲気が違うと申しますか。
いつもは非常に表情豊かな方なのですが、今回はこれまで見たことがないような無表情。言葉を語る口調もまるで穏やかに言い聞かせるかのようですが、それが普段とのギャップを感じさせてか余計に不穏な気配を覚えるような。
『帝都の民を巻き添えにしかけたのも、それが勝利のための苦渋の決断であるとか、あるいは巨悪として誹りを受ける覚悟の下であれば咎めはすまい』
うちの神様があのまま何もしなければ、近隣一帯の人間達はわたし含めて誰一人として今頃生きてはいませんでした。あの太陽神の一撃で仮にそうなっていたとしても、その行動に至る覚悟次第では大量殺戮すらも許容の内ではあったらしいのですけれど。
『だが、どうもそういう風ではないようだ。とはいえ、一応は聞いておいてやるか。太陽神とやら、何か申し開きはあるか?』
『――――愚問である』
太陽神の答えに一切の迷いはありませんでした。
心の底から、それが正しいと信じているのでしょう。
『申し開きなど不要。我こそは神々の頂点。絶対の真理にして正義。たとえ幾万幾億の人間を殺そうが、それが我の為したことならば例外なく正義の行いとなる。そこに葛藤や覚悟などあろうはずもない』
自分を慕う人間達を殺める葛藤。
あるいは、事を為した後で罪を引き受ける覚悟。
そんなものは、そもそも不要。
多くの人間がアリを踏み潰すことに律儀に罪悪感を覚えたりしないように、否、人間にとっての虫けらよりも取るに足らない些細な存在に過ぎない。この世界の神々にとって、人間の価値とはその程度のものでしかなかったのでしょう。
ある意味、それもまた神様らしい傲慢さ。
人の身には、その姿勢に不平を言うことすら許されません。
『なるほど、なるほど。よく理解った』
ですが、傲慢さを問うならば他の神々ですらあの方の足下にも及ばないことでしょう。
傍若無人にして傲岸不遜、怒りっぽくて悪戯好きで、たまにちょっと優しいことも。そんなラメンティア様が好んで殴りたがるのは、果たしてどんな相手だったでしょうか。
『貴様ら……調子に乗っておるな?』
辛うじて勝負と言えたのはここまで。
勝ち負けを競うからこその勝負であって、一方的な蹂躙をそのようには呼ばないでしょう。だとしても、まさかあんなにも酷い結末になるとは思ってもいませんでしたけど。




