42.サン&サンダー
当然ですが、わたしに戦いの見識など一切ありません。
それも人知を超えた神々の戦いとなると、こうして実際見ていても何が何やら。
何らかの不可思議なパワーによって発生したらしい火の玉だとか竜巻がラメンティア様目がけて飛んでいき、しかしどんな現象も左手一本から繰り出されるジャブやアッパーによりかき消されたり跳ね返されたりしています。
ツルギ様曰く、まだどちらも本領を発揮していない様子見の段階だそうですが、数において圧倒的に勝る神々の陣営を軽々と片手で相手しているあたり、うちの上司は神様基準でも桁外れに強いのではないでしょうか。
「おや、今度はなんだか強そうな人が……じゃなかった、強そうな神様が出てきましたね。ほら、あのバチバチ鳴ってるおじさん」
『ああ、見るからにカミナリ関係っぽい神様だね。察するに、あれが不意討ちでラメンティア君をアフロにした下手人かな?』
様子見の段階は終わったということなのでしょう。
神々の軍勢の二割ほどが左手一本でシバかれたあたりで、なんかもう見るからに強そうな雰囲気のあるマッチョな神様が周囲の神々を後退させつつ前に出てきました。
そうして空中にて向かい合うラメンティア様と件の神様。状況からして邪魔者抜きの一対一を望んでいるようですが、それは流石に無謀というものではないでしょうか?
『ほう、少しは骨のありそうな奴が出てきたな? 貴様がさっきのカミナリを落とした神か。まあ、あの程度ではダメージを受けるほうが難しいというものであったが。よもや、アレが全力ではあるまいな?』
『安心しろ、異界の悪神よ。あんなものは雷電を司る我が権能からすれば、ほんの挨拶代わりに過ぎぬ。こと速さにおいては神界最速。主神にも勝る我が雷速、存分に味わうがよかろう!』
おお、なんだか凄い自信です。
素人考えだと自分から手の内をバラすのは悪手のようにも思えますが、そこは自信の裏返しというものでしょうか。どうやらスピードが自慢のようですが、果たしてどれほどのものなのか。
「あら?」
突如、向かい合っていた二神が共に姿を消しました。
しかし、空中からは絶え間なく響いてくる打撃音の連続が。
これはつまり……。
『ああ、サヤ君の動体視力だと目で追うのは流石に厳しいかもね。まあ今のところ別に押されてる感じはないから安心してていいよ』
「はあ、そうですか」
戦いの動きが速すぎて全然見えません。
ツルギ様が言うには心配は要らないようですが、これではどうリアクションを取ったものか迷いますねぇ……というあたりで、消えていた二神が再び姿を現しました。
ラメンティア様は先程と変わらず無傷。
一方の雷神様は、まだ闘志が萎えてはいないのか一応ファイティングポーズを取ってはいるものの、顔面をボコボコに腫らして見るからにフラフラしている様子。
空を飛びながら戦っているのに、打撃のダメージが足に来るというのは妙な感じがしますけど。しかもラメンティア様の構えを見る限り、左手一本のハンデは未だ続行中のようです。
自称最速の神を相手にこの余裕ぶり。
ですが、ラメンティア様には何か気にかかる点があったのか、わたしの手の中で一緒に観戦していたツルギ様に向け声をかけてきました。
『はて? おい、ツルギ。ちょっと聞きたいのだが』
『なんだい? 私に分かることなら答えるけど』
『うむ、大したことではないのだがカミナリの速度というのは大体どのくらいだったかな? あまり厳密な数字は要らんから大まかで構わんぞ』
『カミナリを構成する何の速さかにもよるけどね。雷光の速さだとそのまんま光速だし、雷鳴ならそのまま音速だし。単純に雷雲から地上に電気が流れる速さって意味なら、ざっくり秒速二百キロくらいかな?』
ははぁ、一言で雷速と言っても色々と解釈の余地があるんですねぇ。
この質問をした意図についてはイマイチ分かりませんけれど。
『このオッサン、速さはせいぜい音速のチョイ上くらいだったのでな。カミナリの音の速さと考えれば一応は雷速と言えなくもないにせよ、コレほとんど誇大広告みたいなもんではないか?』
普通の人間にとっては速すぎて正直どれもこれも大差ないように思うのですが、うちの神様としては相手の実力が事前の期待ほどではなくてガッカリしたということのようです。
『この程度のノロマが最速となると、多少のハンデをくれてやった程度では戦闘を愉しむというのは難しいかもしれんなぁ。やれやれ、まったく強すぎるというのも悩ましいものよ』
雷神様は屈辱のあまり表情を歪めていますが、両者の間に大きな実力差があるのは厳然たる事実なのでしょう。
何もスピードばかりが勝敗を決める要素ではないにせよ、仮にも一分野で神々の頂点たる相手がお話にもならないのでは、これから他の方々が出てきたところで劣勢を覆すのは難しいような……という思考そのものが、既に神々の術中の内。
『お?』
ラメンティア様が唐突に頭上を見上げました。
そこには何の変哲もない青空と、燦々と輝く太陽が……二つ!?
『雷神よ、時間稼ぎ大儀であった』
言葉を発したのは、さっきまでお邪魔していた神殿に祀られていた神々の首座。
太陽神ソルブライト様と仰る、豊かな口ひげを蓄えたお爺さんの神様でした。
『異界の悪神が如何に強大といえ、我が太陽の神威を直に受けては滅びるが必定』
神々も先程の雷神さんが勝てるとは最初から思っていなかったのでしょう。しかし決死の時間稼ぎの甲斐あって、こうして太陽神さんが必殺技を繰り出す準備は万端。
『限界まで溜めに溜めた我が神力……神界最強の一撃をその身に受けて、跡形なく燃え尽きるがよい!』
言うや否や、いつの間にやら二つに増えていた太陽の片方が猛烈な勢いで地上へ向けて急降下。時間稼ぎを引き受けた雷神さん諸共にラメンティア様を討ち滅ぼす覚悟……というか、これって位置関係的にわたしや帝都の皆さんも丸ごと全部黒焦げになってしまいませんか!?




