40.神々を殴ろう!
急に落ちてきたカミナリに打たれるなど、どれほどの低確率なのか。
よっぽど普段の行いが悪くなければあり得ない珍事だと思うのですけど、うちのボスほど日頃の行いが悪い方もそうはいないでしょうし、なんなら納得感まであるような……いえ、突然の出来事に驚いていましたが、今は真っ先にラメンティア様の心配をすべき場面でした。
「だ、だだ、大丈夫ですか!?」
『うむ、こんなもんでダメージを受ける悪では……ぬおっ!? 髪がチリチリに焦げてアフロになっておるではないか!? だが……フンッ! よし、元通りだな』
なんか、全然平気そうですね。
変な風に焦げたせいか一時的に巨大な球体みたいになっていた髪の毛も、いったいどんな理屈なのか『フンッ』と気合を入れたら元通りのサラサラヘアーに。異常なまでに頑丈なのは知っていましたが、相変わらずデタラメな肉体です。
「び、びっくりしましたねぇ。こんな晴れてるのにカミナリが落ちるなんて……それっぽい雲は見当たらないですけど、どこから落ちてきたんですかね?」
『これこれ、サヤ。あんなのが自然現象のはずがあるまい。まっ、いちいち口で説明するよりも見たほうが早いであろう。くくっ、こちらから出向く手間が省けたわ』
「はあ、それはどういう……」
自然現象ではないカミナリの正体だとか、出向く云々の真意や如何に。
それらについて問うより先に、答えのほうからやってきました。
「なっ、なな、なんですかアレ!? 空がビリビリって裂けるみたいに……」
厚手の布を力づくで引き裂くような音と共に、空が大きく裂けたのです。
何かの比喩だとか物の例えではなく、言葉通りの現象が起きました。晴天時のカミナリくらいなら人間の理解の及ぶ範疇ですが、こんな光景は見たことも聞いたことも本で読んだことすらありません。
しかし、空間の裂け目はほんの始まりに過ぎませんでした。
『――――平伏せよ』
『――――矮小なる人の子よ、平伏せよ』
『――――愚かなる人の子よ、平伏せよ』
声が、空から落ちてきました。
「な、なんですか……これ……!?」
息が苦しい。
まるで声そのものが質量を持って圧し掛かってくるかのようです。
わたしも周囲の人々も立っていることなど到底不可能。不思議な声の命じる通り、全身に襲い来る重圧により地にひれ伏すことしかできません。
『――――憐れなる人の子よ、頭を垂れよ』
『――――無価値なる人の子よ、刮目せよ』
『――――神々の降臨である』
刮目しろと言われても全身が重すぎて目線を上げることすらできませんが、帝都の上空に巨大なモノが出現したという、その気配だけで歯の根がカチカチと鳴り、肉体の震えが止まりません。
真偽など問うまでもなし。
謎の声が述べた通りに、そこに神々が現れたのでしょう。
それも一柱や二柱どころではなく百か千か、あるいはそれ以上の、恐らくはこの世界の全ての神様が。理屈がどうこうではなく、この世界に住まう生命としての本能が、これはそういうものだと囁いているのです。
『――――異界の悪神よ』
『――――人の世を乱すのみに留めるなら、あえて事を荒立てるまいと思ったが』
『――――我らの神威を貶めるなら、最早誅するに躊躇いはない』
あー……この感じだと、色んな神様の像を操って、さもラメンティア様の部下か何かであるように言ったのが不味かったっぽいですね。
勝手にあんな真似をして天罰が下らないかと心配してましたけど、実際こうして神々が総出で罰を下しに来たのが現状ということのようです。
「い、かい……?」
しかし気になるのは、天からの声が言った『異界』という言葉。
思い返してみれば一番偉い主神の名前すら知らなかったり、普通の人間までもが不思議な力を使う国の出身だと言っていたり、ラメンティア様には様々な謎がありました。その理由が、そもそもこの世界の存在ではないからということならば……。
『ん? そういえば、まだ言っておらんかったか? うむ、如何にも悪はこんなショボい世界の神ではない。ここの連中からしてみれば異界……まあ、異世界でも別次元でも言い方はなんでもよいが、つまりはこことは違う世界から来た存在である』
口ぶりからするに別に隠す意図があったわけではなく、自身にとってはわざわざ言うまでもない前提だったからなのでしょう。そもそも生まれた世界が違うのなら、色々な疑問にも得心がいくというものです……が、しかし。
『くかかかかっ! では、まずはこいつらを片付けてから、ゆっくりそのあたりの事情を話してやろう。ザコの凡神共めが、そうして数を頼めば悪に勝てるとでも思ったか!』
違う世界の事情も何もかも、まずはこの局面を切り抜けなければ話をする余裕すらありません。まあラメンティア様は幾百幾千もの神々を前にしても一切怯む様子もないのですが、なにしろ相手は同じ神。流石に人間の軍隊を蹴散らすのと同じようにはいかないでしょう。
ともあれ、始まってしまったものは仕方ありません。
この世界の神々による連合軍とラメンティア様による絶望的な戦いは、このような形で始まってしまったのです。




